LOG.08 ディスクライター搬送作戦と秘密基地ガレージ
――騎士ハルト検証ログ:起動前
文化財を救出するという行為には、必ず代償が伴う。
それが古い攻略記事であれば、検索履歴が地獄になる。
それが壊れたフロッピーであれば、ドライブのヘッドが悲鳴を上げる。
それがDATであれば、再生機材と俺の精神が同時に削られる。
そして、それがディスクライターであれば、単純に腰と腕と足が死ぬ。
今回の救出対象は、ファミコン文化史における伝説級の書き換え装置。
すなわちディスクライター。
壊れている。
動く保証はない。
筐体は重い。
角は硬い。
運搬には向いていない。
だが、そんなことは些細な問題である。
壊れているなら直せばいい。
動かないなら調べればいい。
記録が残っているなら救えばいい。
問題は、俺たち三人が放課後の街中で、それを抱えて歩くことになったという一点にある。
有栖川ハルト。
宵崎ミコ。
遠戸アラタ。
この三人でディスクライターを運ぶ。
普通の青春ではない。
だが、普通の青春でないからこそ、記録する価値がある。
そして俺はまだ、この搬送作戦の先で、スレの空気が再び動き出し、例の実写ADVめいた黒箱の話が次の段階へ進むことを知らなかった。
ディスクライター。
有栖川ガレージ。
《SIREN_CITY》。
長距離音響発生装置。
そして、見慣れないコテハン。
今回のログは、どう考えても情報量が多すぎる。
だが、情報量が多いほど燃えるのが俺という人間である。
フハハ。
いいだろう。
ならば記録しよう。
電子化された悪意の迷宮へ至る前に、まずはこの昭和の鉄塊を、俺の秘密基地へ迎え入れるところから始める。
ディスクライターというものは、本来、高校一年生が放課後に徒歩で運搬するような物体ではない。
まず重い。
そしてデカい。
さらに形状が絶妙に持ちづらい。
加えて、“壊れているかもしれない歴史的文化財”という精神的負荷まで存在する。
つまり、運搬難易度が異常なのだ。
だが、その程度で怯む俺ではない。
何故なら今、俺の目の前には、ファミコン文化史へ名を刻む伝説級の聖遺物――ディスクライターが存在しているからである。
「フハハハハハ!! 見たか世界よ!! この俺、有栖川ハルト!! ついにディスクライターを確保したぞォ!!」
「うるせぇって!! 店の前で叫ぶな!!」
アラタが笑いながらツッコむ。
だが無理もない。
現在の俺たちは、明らかに異常な光景だった。
俺とアラタが左右からディスクライター筐体を抱え込み、その後ろでミコが補助するように支えている。
高校生三人。
夕方の街。
巨大なディスクライター。
意味が分からない。
通行人がめちゃくちゃ見ている。
しかもディスクライターという存在を知らない人間からすると、“古い自販機を盗んでいる集団”にしか見えない可能性すらある。
だが、俺はその視線を敏感に察知していた。
「チッ……」
「ん?」
「囲まれているな……」
「は?」
「見ろアラタ。奴らの視線……完全にディスクライターを狙っている……!!……気をつけろ」
「違う違う違う!!www」
アラタが腹を抱えて笑い始める。
「誰も狙ってねぇよ!! ただ“高校生が謎のデカい機械運んでる”から見てるだけだって!!」
「甘いなアラタ。ディスクライター級の文化財となれば、当然、強奪を狙う人間も――」
「いるかァ!!」
「笑うな!! 目立つだろうが!!」
「無理!! こんなん笑うって!! 夕方の商店街でディスクライター運搬してる高校生とか初めて見たわ!!」
「貴様ァ!!」
俺が怒鳴った瞬間、横から妙な声が聞こえた。
「はぁ♡ はぁ♡ お、おもいよぉ〜♡」
「…………」
ミコだった。
問題は、“言い方”だった。
ディスクライターが重いのは事実である。
だが、何故そんな妙に甘ったるい声になるのか。
何故そんな息遣いになるのか。
しかも顔が赤い。
汗までかいている。
距離も近い。
完全に危険である。
「ミコ!! その声やめろォ!!」
「えぇ!?♡」
「周囲の視線が別方向へ変化している!!」
実際、通行人の目が妙に生暖かい。
アラタが笑いすぎて運搬バランスを崩す。
「いや待て無理!! ミコちゃん、その声は反則だろ!!」
「えぇ〜? だって重いんだもん♡」
「だからって“はぁ♡はぁ♡”はおかしいだろうがァ!!」
「そんなに変ぇ?♡」
「変だ!! めちゃくちゃ変だ!!」
その瞬間だった。
俺の注意がミコへ向いたせいで、手元のバランスが崩れる。
「しまっ――」
ゴッ!!
「ッッッッッッッ!!!!」
ディスクライターの角が、アラタの足へ直撃した。
鈍い音。
そして、アラタが崩れ落ちる。
「ぐあああああああああ!!!! 痛ってぇぇぇぇぇ!!!!!」
「アラタァァァ!!」
「ディスクライターの角がァ!! 文明の角が俺の足を破壊したァ!!」
「す、すまん!!」
「重い!! 硬い!! 昭和の鉄塊が容赦ない!!」
アラタが悶絶している。
ミコは「あわわわ♡」と慌てている。
周囲の人間は完全に“変な高校生たち”を見る目になっていた。
「だから目立つと言ったのだァ!!」
「原因お前だろォ!!」
「ミコもその声をやめろ!!」
「えぇ〜!?♡」
「何故そこで疑問形なんだ!!」
ミコは本当に分かっていない顔をしている。
恐ろしい。
この女、“自分の破壊力”への自覚が薄い。
しかも天然だ。
最悪である。
結局、アラタが「もうミコちゃん後ろ支援でいいって!!」と言い出し、俺とアラタの二人でメイン運搬をすることになった。
ミコは後ろから「がんばれぇ♡」と応援している。
応援する声まで可愛い。
腹立つ。
何なんだこいつは。
*
その後、何とか住宅街を突破し、俺たちはついに有栖川家へ到達した。
一軒家。
だが、問題はそこではない。
問題は、敷地横に存在するガレージだった。
普通のガレージではない。
俺、有栖川ハルトによって長年かけて改造され続けた、“電子遺跡観測基地”である。
「……おお」
アラタが足を止めた。
夕暮れの中、シャッター半開きのガレージ内部には、青白いCRTの光が漏れている。
棚。
基板。
PC-98。
ジャンクPC。
積み上がるフロッピーケース。
ROM吸い出し機。
外付けSCSI。
半田ごて。
MO。
DAT。
古いゲーム雑誌の塔。
ブラウン管モニタ三台。
そして、配線。
大量の配線。
普通の人間が見れば、“危険な研究施設”にしか見えない。
だが、男には分かる。
こういう空間の良さが。
「……うわ」
アラタが笑う。
「男子の夢全部詰め込んだみたいな部屋じゃん」
「フハハハハハ!! 当然だ!! ここは俺の秘密基地だからなァ!!」
「秘密基地ってレベルじゃねぇぞこれ!」
「見ろ!! あのPC-98VX!! そして初代X68000!! 更にCRT三台構成!! 右のモニタは検証用!! 左は開腹中!! 中央がメイン観測装置だ!!」
「説明が完全にマッドサイエンティストで草」
「褒め言葉だ!!」
ミコが嬉しそうに中を見回す。
「わぁ〜♡ また増えてるぅ♡」
「当然だ!! 最近、旧式DAT修復環境を強化したからな!!」
「あと、フロッピー棚も前より整理されてるぅ」
「見ろアラタ!! ミコは理解している!!」
「いや俺には“何が変わったのか”マジで分からん」
「素人め!! 以前は五インチ系と3.5インチ系が混在していた!! だが現在は年代別、メーカー別、磁気劣化状態別へ分類済みだ!!」
「分類基準が怖ぇよ」
「更に右奥には“復元待ち媒体ゾーン”!! そして左側が“未検証ジャンク媒体隔離棚”!!」
「隔離棚って何」
「未知のフロッピーには未知のウイルスが眠っている可能性があるからな!!」
「いや怖っ!!」
アラタが爆笑する。
だが、その目はちょっとワクワクしていた。
分かる。
こういう秘密基地空間は、男心をくすぐる。
配線。
工具。
古い機械。
謎の光。
雑然としているのに、本人だけは配置を理解している空間。
完全にロマンである。
「よし!! ディスクライターをここへ!!」
俺たちは慎重に筐体をガレージ内へ運び込んだ。
置いた瞬間。
空気が変わる。
ディスクライターが、この空間へ異常なほど馴染んでいた。
「……うわ」
アラタが笑う。
「何かもう、“元からここにあった感”すごいな」
「当然だ!! 文化財とは、あるべき場所へ収まるものだからな!!」
「言い方が博物館館長」
「フハハハハ!!」
俺は高笑いしながら、即座にPC前へ座った。
電源ON。
CRT起動。
2xch専ブラ起動。
《理不尽クソゲー総合 Part92》更新確認。
スクショ整理! ログ巡回!
当然の流れである。
だが、後ろからアラタのツッコミが飛んだ。
「早っっっ!!!」
「なにがだ?」
「いや何じゃねぇよ!! 今さっきディスクライター運び終わったばっかだろ!? 普通もっと余韻とかあるだろ!!」
「余韻なら既に味わった!! 次はログ確認フェーズだ!!」
「切り替え早すぎんだよ!!」
ミコが、ぷくっと頬を膨らませた。
「むぅ〜♡」
「何だ」
「ハルトくん、すぐパソコン行くぅ」
「当然だろう」
「もうちょっと余韻楽しもうよぉ♡」
「ディスクライターは逃げん」
「ミコちゃんは放置されるぅ♡」
「何故そうなる」
「だってハルトくん、今完全に2xchしか見てないもん♡」
「ログは鮮度が重要だ」
「ミコちゃんとの放課後も鮮度重要だよぉ?」
「…………」
分からん。
何故そこへ繋がる。
だが、ミコは少しプンプンしていた。
そしてアラタは、その様子を見ながら、また爆笑していた。
「いやマジで最高だわこの空間。秘密基地あるわ、ディスクライターあるわ、幼馴染ヒロイン怒ってるわ、主人公は2xch見てるわ。青春の方向性が全部おかしい」
「フハハハハ!! 当然だ!! ここは普通の高校生活ではない!!」
「うん、それだけは分かる」
確かに、ディスクライターという歴史的聖遺物を自室――いや、電子遺跡観測基地《有栖川ガレージ》へ搬入した瞬間、本来ならば人間は達成感へ浸るべきである。
普通なら。
普通の高校生なら。
だが、残念ながら俺、有栖川ハルトの脳は、“古代文明級ゲーム機器を救出した余韻”より、“未確認ログが今この瞬間も更新されている可能性”を優先する構造になっていた。
つまり、ディスクライター設置完了から三十秒後には、俺は既にCRT前へ座っていた。
専ブラ起動。
キーボード接続確認。
2xch巡回開始。
《理不尽クソゲー総合 Part92》更新。
完全に自然な流れである。
だが。
「だから、早ぇよ!!!」
背後からアラタのツッコミが炸裂した。
「いや何なんだお前!! 今さっきまで“ディスクライター救出作戦だァ!!”とか叫んでたじゃん!! 普通もっと感動の余韻あるだろ!!俺、足負傷までしたんだぞ!?」
「それはご苦労だったな!! だが、余韻なら既にログ化した!! 次は情報収集フェーズだ!!」
「切り替えが軍事作戦なんよ!!」
ミコは、ぷくぅ〜っと頬を膨らませながら、俺の横へ座っていた。
「むぅ〜〜♡」
「何だ」
「ハルトくん、またパソコンばっか見てるぅ」
「当然だろう」
「ディスクライター運んだばっかりなのにぃ」
「だからこそだ!! 今は“達成直後の脳が最も回転する時間”!! つまり未確認情報へ接続する最適タイミング!!」
「意味分かんなぁい♡」
「フハハハハ!! 理解出来ぬか!!」
「出来ないよぉ♡」
ミコはプンプンしていた。
だが、その怒り方が全然怖くない。
むしろふわふわしている。
頬膨らませながら俺の椅子へ体重預けてくるな。
近い。
柔らかい。
集中力が削られる。
完全に物理デバフである。
しかし、その時だった。
更新音。
ポン。
専ブラ右下、新着レス通知。
「来たァ!!」
俺の目が光る。
アラタが笑う。
「うわ、急に生き返った」
「当然だ!! 見ろ!! スレが動き始めている!!」
俺が昼間に投下した、《SIREN_CITY》関連の断片情報とスクショハッシュ比較ログ。
それを境に、半ば沈みかけていたスレが、再び息を吹き返し始めていた。
深夜帯特有の、“気味が悪いけど目が離せない空気”が戻ってきている。
名無したちのレス速度が上がる。
考察。
煽り。
半信半疑。
オカルト認定。
検証要求。
全部が混ざる。
そして何より、“誰かが本気で掘り始めた時の空気”が出ていた。
「フハハハハハ!! 見ろアラタ!! ログが再接続され始めている!! 情報は熱量によって活性化する!!」
「いや、単純にお前が燃料投下しただけだろwww」
「同じことだ!!」
アラタは笑いながら、俺の後ろからCRTを覗き込んだ。
「で、例の動画、もう一回見せろって」
「当然だ」
俺は保存済みのスクショとコマ割り画像を表示した。
学校らしき空間。
スピーカー。
黒い小型箱。
設置作業。
ノイズ。
低画質。
そして異様な空気。
アラタの目が変わる。
昼間の軽いノリが少しだけ消える。
観測者の目になる。
俺はその瞬間が結構好きだった。
遠戸アラタという男は、普段は軽い。
「いや草」とか言う。
「それ死ぬやつじゃん」と笑う。
だが、本当に気になる映像を前にした瞬間だけ、急に静かになる。
そして、観測精度だけが異常に上がる。
今のアラタは、まさにそれだった。
画面へ顔を近づける。
ズーム。
静止。
光源確認。
ノイズ比較。
更に、スマホ側でも別角度スクショを開く。
「……これ」
アラタが呟く。
「普通のスピーカー工作じゃないな」
「何?」
「この箱のサイズ感と、固定位置」
アラタの指が画面を指す。
「学校設備用にしてはデカい。しかも配線が変。あと、ここ」
「どこだ……?」
「この金具。振動対策してる」
「振動対策……?」
「普通の放送設備なら、こんな固定しない。あと、向きも変だ」
アラタは息を沈めた。
そして、少しだけ声を落として、俺へ言った。
「……これ、多分」
「何だ」
「LRADだ」
「……LRAD?」
ミコが首を傾げる。
「えるらどぉ?」
アラタは画面から目を離さない。
「Long Range Acoustic Device。長距離音響発生装置」
空気が少しだけ変わった。
アラタは続ける。
「船舶とか暴動制圧とかで使われるやつ。超高出力音響装置。方向性を持たせた爆音を飛ばす」
「待て待て待て」
俺の脳が急加速する。
「つまり、音響兵器か?」
「極論するとそう」
「何故そんなものを学校へ設置する必要がある?」
「分からん」
アラタは静かだった。
「でも、このサイズ感と配置、かなりそれっぽい」
「出力は?」
「分からん。ただ、もし本当にLRAD系なら……かなりヤバい出力もあり得る」
ミコが不安そうにこちらを見る。
「それって、危ないのぉ?」
「普通に耳壊れるレベルもある」
「何ィ!?」
俺は思わず叫んだ。
「では何故そんなものをゲーム内映像へ使う!!」
「そこなんだよな」
アラタが眉を寄せる。
「もしこれが本当にLRAD系なら、“ただのホラー演出”としては妙に具体的すぎる」
「つまり?」
「現実知識が入ってる」
俺は画面を見つめた。
黒い箱。
スピーカー。
固定位置。
学校。
2024.4.8。
脳内で情報が繋がりかける。
だが、まだ駄目だ。
証拠不足。
雑な接続は検証を殺す。
俺は頭を振った。
「だが、それでも何故ゲームへ――」
「極論」
アラタが肩を竦める。
「やってみるしかないんじゃね?」
「やってみる?」
「《SIREN_CITY》を実際に起動して、中身確認するしかないってこと」
俺は沈黙した。
そう。
結局そこへ戻る。
未確認ゲーム。
実写素材。
黒箱。
差出人不明。
なら、現物確認以外に進展はない。
「チッ……!」
俺はキーボードへ向き直った。
そしてスレへ突撃する。
124:騎士ハルト
現物情報を持っている者は即報告せよ。媒体形式、容量、起動環境、何でもいい。情報不足だ
125:名無しの影
来たな騎士
126:名無しの影
急にスレ加速して草
127:名無しの影
お前のせいだろ
128:騎士ハルト
当然だ。ログは掘る者がいて初めて活性化する
129:名無しの影
言い方が遺跡調査隊www
130:騎士ハルト
未確認媒体は文化財だ
131:名無しの影
また始まった
132:騎士ハルト
ゲーム本体所持者はいないのか? スクショだけでは解析不能だ。ISOでもimgでもccdでもmdsでも構わん。情報を出せ
133:名無しの影
お前食いつきすぎだろ
134:名無しの影
騎士ハルトが本気モード入ってる
135:名無しの影
でもちょっと分かる
136:名無しの影
空気怖くなってきた
スレ速度が上がる。
名無したちが騒ぎ始める。
そして、その時だった。
見慣れないコテハンが視界へ入った。
137:N4G1K4
お前、ログの掘り方が雑すぎ。検索条件広げすぎてノイズ拾ってる
「…………」
俺の指が止まった。
何だこいつ……!?
初見コテだな……?
しかも言い方が妙に腹立つ。
俺は即座にレスを返す。
138:騎士ハルト
何だ貴様。初見でマウントとはいい度胸だな
139:N4G1K4
キモ
140:名無しの影
即死で草
141:名無しの影
キモ騎士VS謎コテハン来たな
142:名無しの影
キモで返されてて草
143:騎士ハルト
雑な暴言は検証を殺す
144:N4G1K4
お前のログ収集の方が雑。検索経路が初心者丸出し
145:名無しの影
つっ強いwww
146:名無しの影
騎士押されてるぞwww
147:名無しの影
キモ騎士負けるな!!!
アラタが後ろで吹き出した。
「いや草!! 何コイツ!! 強ぇ!!」
ミコも画面を覗き込む。
「うわぁ♡ でも、なんかナギカちゃんっぽいぃ♡」
「…………なんだと…………??」
その瞬間。
俺の脳内で、何かが繋がった。
N4G1K4。
このコテとこの煽り方。
この解析目線。
そして、“キモ”という単語の使い方。
「はっ……!?……待て」
俺は画面を凝視した。
指が止まる。
思考加速。
脳内検索。
そして。
「コイツ……まさか」
アラタがニヤニヤする。
「貴様、久羅木ナギカかァァァァァァァァ!!!!」
ガレージへ俺の絶叫が響き渡った。
ディスクライターは、無事に有栖川ガレージへ収まった。
無事、という表現には若干の語弊がある。
アラタの足は犠牲になった。
ミコの妙に甘い息遣いによって、俺の集中力もかなり犠牲になった。
通行人からの視線も痛かった。
だが、それでも筐体は運び込まれた。
ならば作戦は成功である。
文化財救出に多少の被害は付き物だ。
……たぶん。
問題は、その後だった。
俺がディスクライター搬入の余韻に浸るより早く2xchへ接続した結果、《理不尽クソゲー総合 Part92》は再び息を吹き返した。
例の《SIREN_CITY》の動画。
学校らしき場所。
スピーカーへ設置された不審な装置。
そしてアラタが口にした、LRADという言葉。
長距離音響発生装置。
その可能性が出た瞬間、単なる自作ホラーゲームの話は、明らかに別の温度を帯び始めた。
ゲームなのか。
記録なのか。
警告なのか。
それとも、誰かが俺たちへ見せようとしている何かなのか。
まだ分からない。
分からない以上、断定はしない。
雑な陰謀論は検証を殺す。
だが、見なかったことにするには、情報の形が嫌すぎる。
だから俺はスレに情報を求めた。
現物情報。
媒体形式。
起動環境。
ファイル構造。
何でもいい。
ログを掘るには、まず手掛かりが必要だ。
そして、そこへ現れた。
《N4G1K4》。
見慣れないコテハン。
妙に鋭い解析視点。
妙に腹立つ口調。
そして、開幕から俺へ向けられた「キモ」の二文字。
あの反応。
あの煽り方。
あの通信系の匂い。
どう考えても、ただの名無しではない。
もし俺の推測が正しければ、あれは久羅木ナギカだ。
教室では「関わらない」と言いながら、結局スレには潜っている。
実に分かりやすい。
いや、本人に言えば確実にキレるだろうが。
だが、これで少し見えてきた。
俺は古い媒体とゲームの挙動を読む。
アラタは映像と現実のズレを読む。
ナギカは通信とログの残留を読む。
そしてミコは、終わったコンテンツに残る感情を読む。
まだチームなどと呼ぶには早い。
早すぎる。
だが、少なくともログは動き始めた。
ディスクライターを運び込んだその日、有栖川ガレージには新しい聖遺物と、新しい謎と、新しい接続が同時に入り込んできた。
普通の高校生活としては完全に破綻している。
だが、俺の人生においては、むしろ正常起動に近い。
次に必要なのは、現物だ。
《SIREN_CITY》の本体。
黒箱の中身。
そして、あの動画が本当にゲーム素材なのかどうか。
ログはまだ終わっていない。
むしろ、ここからだ。
――騎士ハルト検証ログ:保存後




