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Gl1tch//RaidERs  作者: 時任 理人


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7/24

LOG.07 屋上遊園地の亡霊と聖遺物降臨

 ――騎士ハルト検証ログ:起動前


 人間という生物は、時々、意味の分からないものに人生を揺さぶられる。


 普通なら笑い飛ばされるような、些細で、古くて、壊れかけたものだ。


 例えば、色褪せた販促POP。


 例えば、閉店したゲームセンターの会員カード。


 例えば、誰も遊ばなくなった屋上遊園地の乗り物。


 そして例えば、既に役目を終え、店の奥で埃を被っている古いゲーム機器。


 合理性だけで言えば、そんなものに価値はない。


 最新技術の方が速い。


 便利だ。


 高性能だ。


 わざわざ壊れた古い機械を拾い上げる必要なんてない。


 だが、それでも俺は思ってしまう。


 “消えたもの”は、本当に終わったのか、と。


 サービス終了したゲーム。


 閉鎖されたサイト。


 更新停止した攻略Wiki。


 撤去された屋上遊園地。


 役目を終えたゲーム筐体。


 それらは全部、“存在しなかったこと”になるのか。


 違う。


 絶対に違う。


 そこには、誰かの熱量があった。


 好きだった記録があった。


 待ち時間があった。


 笑った時間があった。


 子供の頃、百円を握り締めて見上げた景色があった。


 そして、古いゲーム文化というものは、案外そういう“小さな記憶”の積み重ねで出来ている。


 誰も覚えていなくても。


 検索しても出なくても。


 記録媒体が壊れていても。


 ログが消えていても。


 そこに確かに存在した時間は、完全には死なない。


 だから俺は掘る。


 壊れた媒体を開き、読めなくなったデータを復元し、閉鎖済みサイトのキャッシュを巡回し、誰も覚えていない攻略記事を拾い上げる。


 それは懐古趣味ではない。


 “消える前に記録したい”という衝動だ。


 そして、その日の放課後。


 俺はまた一つ、“過去の亡霊”と遭遇することになる。


 しかも今回は、かなりデカい。


 物理的にも。


 歴史的にも。


 そして、俺の精神へ与えるダメージ的にも。


 ……まあ、冷静に考えれば。


 高校一年生が放課後にこんなものを拾うイベントなど、普通は発生しないのだが。


 少なくとも俺の人生は、どうやら普通ルートへ接続されていないらしい。


 フフッ……悪くない。



 古い販促POPによって魂を再起動された俺、有栖川ハルトは、その後しばらくの間、完全にテンション制御不能状態へ突入していた。


 露出度の高いコスプレによる精神攻撃で致命傷を負い、遠戸アラタに娯楽として観測され、宵崎ミコにはにこにこしながら追加ダメージを撃ち込まれたにもかかわらず、サ終告知と閉店済みゲーセン跡地と色褪せた販促物によって蘇生した俺は、もはや普通の高校一年生ではなかった。


 不死鳥。


 いや、違う。


 サ終告知の灰の中から蘇る、電子文化考古学の不死鳥である。


「フハハハハハハハハ!! 見ろアラタ、ミコ!! この棚、完全に“終わった平成オタク文化”の堆積層だ!! 上段には二〇一〇年代ソシャゲの墓標、中段には美少女ゲーム体験版ディスク、下段には誰が買うのか分からない古い特典テレカ!! 素晴らしい!! 人類の熱量は、こういう場所にこそ沈殿するのだ!!」


 俺が棚の前で高笑いしていると、アラタは完全に腹を抱えて笑っていた。


「いや、お前マジで元気になりすぎだろ。さっきまでミコのコスプレ見て石化してたのに、古い紙一枚でここまで復活するの、生命体として仕組みがおかしいって」


「人類は好きなものによって蘇る!! これは精神論ではない、観測された事実だ!!」


「観測対象お前だけじゃん」


 ミコはそんな俺たちを見ながら、購買袋ならぬショップ袋を抱えて、ふわっと笑っていた。


「でも、ハルトくんが楽しそうでよかったぁ。こういう場所、好きだもんねぇ」


「当然だ。こういう場所は単なる中古ショップではない。過去に誰かが確かに好きだったもの、集めたもの、保存したもの、手放したものが、値札を貼られて再配置された“感情の地層”だ。つまり、ここはオタク文化の遺跡であり、俺たちはいま発掘調査中なのだ」


「うんうん、感情の地層っていいねぇ♡」


「いやミコちゃん、それ普通に受け止めるんだwww」


 アラタが笑いながら言う。


 だが、ミコは本当に嬉しそうだった。


 ミコは、終わったコンテンツを笑わない。


 サ終したゲームも、更新停止したサイトも、閉鎖済み掲示板も、誰も覚えていないFlashも、打ち切り作品も、過疎化したコミュニティも、あいつは全部、“誰かの好きが残っている場所”として見る。


 だから俺が古い販促物に狂喜しても、ミコは引かない。


 むしろ、その熱を一緒に見てくれる。


 ……まあ、その距離感とラブコメ圧だけは別問題だが。


     *


 ショップの奥へ進むにつれ、棚の性質が変わっていった。


 入り口付近は比較的まともだった。


 中古ゲーム、古いアニメグッズ、フィギュア、CD、DVD、同人誌、メイド喫茶の閉店記念グッズ、サ終ソシャゲの販促POP。


 だが奥へ進むと、ジャンル分類が崩壊し始める。


 何故か業務用の古い両替機。


 色褪せたガチャガチャ筐体。


 景品用のぬいぐるみ。


 駄菓子屋ゲームのパーツ。


 百円を入れて揺れるタイプの乗り物。


 そして、壁際に積まれた、小さな遊園地の残骸みたいなものたち。


 俺の足が止まった。


「こっ……これは」


 そこにあったのは、昔、近所のスーパーや百貨店の屋上にあった小さな遊園地で見かけたような、コイン式の乗り物や遊具だった。


 赤い車。


 青い新幹線。


 パンダの乗り物。


 宇宙船みたいな形の小型ライド。


 塗装は剥げ、ステッカーは日焼けし、ハンドルは擦り切れている。


 それでも、そこには確かに、かつて子供が乗った痕跡があった。


 硬貨を入れる投入口。


 擦れた座面。


 子供の手で何度も触られたボタン。


 音が出たであろうスピーカーの穴。


 もう動かない。


 たぶん、どれも壊れている。


 だが、壊れているからといって、それが“終わった”ことにはならない。


 俺の喉が、妙に詰まった。


「……貴様ら」


 声が震えた。


「まだ、ここにいたのか……」


「え?」


 アラタが一瞬だけ笑いを止める。


 ミコも俺を見る。


 俺は、赤い車型の乗り物へ近づいた。


 塗装の剥がれたボンネット。


 擦り切れたシート。


 子供向けの丸いハンドル。


 百貨店の屋上にあった、あの空気が蘇る。


 夕方。


 安っぽいメロディ。


 屋上の風。


 ガチャガチャの音。


 親に「一回だけ」と言われながら、子供が百円を握りしめて乗る、あの小さな世界。


 今の大型ショッピングモールにはない。


 アプリ通知もない。


 ランキングもない。


 ログインボーナスもない。


 ただ、硬貨を入れると数十秒だけ動く、子供のための機械仕掛けの夢。


「……くっ……!」


 目頭が熱くなる。


 まずい。


 これはまずい。


 感情ログが過剰に流入している。


 俺は古いゲームや古い媒体には弱いが、こういう“かつて存在した小さな遊び場”にも弱い。


 何故なら、これもまた、誰かの記録だからだ。


 保存されなかった日常。


 撮影されなかった笑顔。


 閉鎖告知すら残らなかった屋上遊園地。


 百貨店の屋上から撤去され、誰にも語られず、いつの間にか消えた小さな機械たち。


 それが今、ここにいる。


「おいおい、そこまで?」


 アラタが笑った。


 だが俺は止まらない。


「そこまでだろうが!! 見ろ、このハンドルの擦れ!! このボタンの退色!! この投入口周辺の小傷!! 全部、誰かが遊んだ痕跡だ!! 子供が百円玉を握りしめ、親に一回だけ許可され、世界のすべてを手に入れたような顔で乗った証拠だ!! これは単なる遊具ではない!! 屋上に存在した失われた小宇宙の残骸なのだ!!」


「いや、語りの熱量が重い重いwww」


 アラタが爆笑する。


 その横で、ミコが赤い車型の乗り物を見つめていた。


 そして、ぽろっと泣いた。


「えっ、ミコ?」


「だってぇ……」


 ミコは目元を押さえた。


「こういうの、昔あったよねぇ。デパートの上とか、スーパーの隅っことか。たぶん、すごく小さい場所だったのに、子供の頃は世界全部みたいに感じてたんだよねぇ」


「ミコ……貴様、分かるのか……!!」


「分かるよぉ。こういうの、誰かが好きだった場所だもん」


「うおおおおおおお!! ミコォォォ!!」


「泣くな泣くな、二人して泣くなって!!」


 アラタは完全に爆笑していた。


 だが、俺とミコは本気だった。


 俺は遊具の前で涙を流し、ミコもつられて涙目になっている。


 アラタはカメラを構えながら笑っている。


「いや最高だわ。古い子供用ライド見て泣く高校生二人、画として強すぎる!」


「撮るなァ!! これは神聖な追悼だ!!」


「追悼すんな、まだ置いてあるから!www」


「だからこそだ!! 残っているうちに記録する!! 消えてからでは遅い!!」


「それはまあ、ちょっと分かる」


 アラタは笑いながらも、シャッターを切った。


 その目だけは、ちゃんと真面目だった。


 こいつはこういう時、軽口を叩きながらも撮る。


 危険な現場でも、くだらない瞬間でも、泣いている人間でも、残すべきものだと思えばカメラを向ける。


 アラタにとってカメラとは、現実を固定する装置なのだろう。


 俺は少しだけ涙を拭った。


「よし。記録完了だ。こいつらはまだ死んでいない」


「いや急に儀式っぽいこと言うな!!」


 アラタが笑う。


 ミコも泣き笑いになっている。


「ハルトくん、ほんとこういうのに弱いよねぇ」


「当然だ。失われた遊び場は、人類史の重要ログだからな」


「うん。そういうところ、好きだよぉ♡」


「そっ……そうか」


「また情報として受領した顔してるぅ?」


「感情ログとして保存した」


「それ、ちょっと進歩してる?」


「……たぶん」


 ミコが嬉しそうに笑った。


     *


 そして、俺は次の棚へ向かった。


 その時だった。


 視界の端に、妙な形の筐体が映った。


 最初は、古い什器かと思った。


 灰色。


 赤い文字。


 縦長の筐体。


 カウンター型。


 どこか、ファミコン周辺機器文明の匂いがする。


 俺は足を止めた。


 視線を戻す。


 もう一度見る。


 脳が認識を拒否した。


 いや。


 違う。


 認識したからこそ、拒否した。


「あ……」


 喉から変な声が出た。


 ミコが首を傾げる。


「ハルトくん?」


「あっ……あ……」


 アラタがカメラを下ろす。


「何、どうした?」


「ああ……あああ……」


 俺は、ふらふらと筐体へ近づいた。


 信じられない。


 そんな馬鹿な。


 いや、あるはずがないとは言わない。


 だが、こんな場所に、こんな無造作に、こんな“棚の奥の謎什器”みたいな扱いで置かれていいものではない。


 筐体の文字が見えた。


《DISK WRITER》


「――ああああああああああああああああっ!!!!」


 俺は叫んだ。


 店内の空気が揺れた。


 アラタがビクッとして、それから爆笑した。


「何!? 今度は何!?」


 ミコが驚いて俺の袖を掴む。


「ハルトくん、どうしたのぉ!?」


「ディッ……ディ……ディスクライター……!!」


「でぃすくらいたー?」


「ディスクライターだ!! ディスクシステムの書き換え筐体だ!! ファミコンディスクシステム時代、店頭でディスクカードへゲームを書き換えるために存在した、任天堂流通史における伝説級の聖遺物だぞ!!」


「聖遺物って言ったwww」


 アラタが笑う。


 だが俺は笑えない。


 これは冗談ではない。


 ディスクライター。


 ファミコンディスクシステムの書き換えサービス用筐体。


 かつて玩具店やデパートやゲームショップに設置され、ディスクカードを持ち込めば、新しいゲームへ書き換えられたという、今のダウンロード販売にも通じる、早すぎた配信インフラの物理形態。


 つまりこれは、ゲーム流通の歴史そのものだった。


「貴様ら、分かっているのか!? これはただの筐体ではない!! カセットROM全盛の時代に、書き換えによってゲームを供給するという思想を現実化した装置だ!! 現代で言えば、ダウンロード販売、サブスク、デジタル配信、アップデート文化、その原始的先祖みたいな存在だぞ!!」


 ミコが目を丸くする。


「そんなにすごいの?」


「すごいどころではない!! これがあることで、ユーザーは一本のディスクカードを別タイトルへ書き換えられた!! つまり、物理媒体でありながら、内容が変化する!! 媒体は残り、中身が変わる!! これこそ“記録媒体とは何か”という問いを、昭和のゲーム売り場に突きつけた装置なのだ!!」


「ハルトくん、めちゃくちゃ早口だぁ♡」


「当然だ!! これは早口にならざるを得ない!!」


 俺が筐体の前で震えていると、店の奥から店主らしきおっさんが顔を出した。


「ああ、それ? 壊れてるよ」


「壊れている……だと?」


「電源入らないし、場所取るからさ。欲しいなら持ってっていいよ」


「…………」


 俺は固まった。


 ミコも固まった。


 アラタだけが「え?」と笑っている。


「貴様……今、何と言った?」


「言葉つよっ!(笑)いや、だから壊れてるし、処分面倒だから、持ってけるならタダでいいよ」


「タダ……タダといったのか貴様……!?」


「うっ……うん。動かないよ?」


「タダ……で……ディスクライターを……?」


 世界が揺れた。


 いや、揺れていない。


 俺が揺れている。


 理解が追いつかない。


 ディスクライター。


 無料。


 壊れている。


 持っていっていい。


 この四つの単語が同時に存在している。


 仕様か?


 バグか?


 罠か?


 乱数か?


 店主の悪意か?


 いや、違う。


 これは。


 これは奇跡イベントだ。


「フ……フフ……」


「ハルトくん?」


「フハ……フハハ……」


「おい、始まったぞ」


 アラタがカメラを構える。


「フゥ――――ッハハハハハハハハハハハハハハハァ!!!!」


 店内に俺の高笑いが響いた。


「見たか世界よ!! この俺、有栖川ハルト!! 入学二日目に遅刻し、精神攻撃を受け、屋上遊園地の亡霊に涙を流し、そして今!! 伝説のディスクライターと邂逅したァ!!」


「お前、今日一日で感情のジェットコースター乗りすぎだろ!!www」


 アラタは笑いすぎて震えている。


 ミコは目を輝かせていた。


「ハルトくん、よかったねぇ!」


「よかったどころではない!! これは運命だ!! 電子遺跡が俺を呼んでいる!!」


「でも、持って帰れるのぉ?」


「…………ぐっ………!!」


 そこで現実が戻った。


 ディスクライターは筐体である。


 つまり、でかい。


 重い。


 高校一年生が放課後にひょいと持ち帰るようなサイズではない。


 俺は筐体を見る。


 店主を見る。


 ミコを見る。


 アラタを見る。


「……どうするの?」


 ミコが心配そうに聞く。


 アラタはもう笑いを堪えていない。


「いや、これ持ち帰る流れなら今日イチ面白いぞ」


「貴様、撮影する気か」


「当然」


「よかろう。記録せよ、アラタ。この瞬間は歴史だ」


「マジで言ってる?」


「当然だ!! 俺はこの筐体を救出する!! 壊れているから何だ!! 電源が入らないから何だ!! 基板が死んでいる可能性? コンデンサ劣化? 配線断線? 電源ユニット不良? そんなものは検証すればいい!! 動かないとは、死んだという意味ではない!! まだ復元できるかもしれないという意味だ!!」


 ミコが、ふわっと笑った。


「ハルトくんらしいねぇ」


「ああ。壊れた媒体は死体ではない。まだ読めるかもしれない記録だ……!!」


 俺はディスクライターの筐体へそっと手を置いた。


 冷たい。


 古い。


 埃っぽい。


 だが、そこには確かに、かつて誰かがディスクカードを書き換えた時間が残っている。


 ゲームを選んだ子供。


 書き換えを待つ親。


 カウンター越しの店員。


 新しいゲームを手に入れる瞬間の期待。


 そういうものが、この筐体には染み込んでいる。


「待っていろ、ディスクライター。貴様のログ、俺が読む」


 アラタが笑いながらシャッターを切る。


「いや最高。今日のハルト、マジで一生撮れ高ある」


「娯楽扱いするな!!」


「娯楽だろ、こんなの!!」


 ミコは俺の横で、嬉しそうに言った。


「じゃあ、今日はディスクライター救出作戦だねぇ♡」


「そうだ!! 作戦名は――」


「作戦名とかあるんだ」


「当然だ!!」


 俺は筐体の前で胸を張った。


「作戦名、《失われた書き換え装置を救出せよ》!!」


「そのまんまじゃん」


「分かりやすさは重要だ!!」


 アラタは爆笑し、ミコは笑いながら拍手した。


 俺は、ノスタルジーと興奮と使命感に包まれながら、目の前のディスクライターを見上げていた。


 古い屋上遊園地のおもちゃたち。


 色褪せた販促POP。


 サ終したゲームの墓標。


 そして、壊れたディスクライター。


 この店は、完全に電子文化の遺跡だった。


 そして俺は、その遺跡の奥で、伝説級の聖遺物を見つけてしまった。


 帰宅してログ検証するはずだった放課後は、完全に別ルートへ分岐した。


 だが、悪くない。


 むしろ最高だ。


 理不尽な分岐こそ、人生を面白くする。


 そして今、俺の目の前には、壊れているかもしれないが、まだ復元できるかもしれない記録がある。


 ならば。


 救出するしかない。


 それが騎士ハルトの流儀である。


 古いゲーム文化というものは、不思議だ。


 最新技術みたいに速く進化するわけでもない。


 AIみたいに毎日世界を書き換えるわけでもない。


 だが、一度誰かの記憶へ刺さると、異様なほど長く残る。


 屋上遊園地の小さな乗り物。


 閉店したゲームセンター。


 色褪せた販促POP。


 書き換えを待つディスクカード。


 今の人間から見れば、ただの古い物だ。


 効率も悪い。


 不便だ。


 画質も粗い。


 ロードも長い。


 容量も小さい。


 だが、それでも。


 そこには、“当時の人間が何を夢見ていたか”が残っている。


 そして俺は、そういう痕跡に弱い。


 何故なら、それは単なる古物ではないからだ。


 誰かが確かに熱狂し、遊び、待ち、語り、笑い、愛した時間の残骸だからだ。


 だから、壊れていても捨てられない。


 読めなくても諦められない。


 消えたログでも、まだ復元したくなる。


 ディスクライターも同じだった。


 壊れている。


 電源も入らない。


 店の奥で埃を被っていた。


 だが、それでも俺には、“まだ終わっていない”ように見えた。


 動かないことと、死んだことは違う。


 記録が残っている限り、そこにはまだ接続できる可能性がある。


 ……まあ、その結果。


 高校一年生三人で、放課後に巨大なディスクライターを運搬するという意味不明イベントが発生しかけているのだが。


 人生、本当に何が起こるか分からない。


 だが悪くない。


 少なくとも今日の俺は、かなり幸せだった。


 そして、多分。


 こういう“どうでもいいように見える記録”こそ、後から振り返ると、一番消えてほしくないログになる。


 だから保存する。


 忘れないように。


 消えないように。


 誰かが好きだった熱量を、少しでも長く残せるように。


 ――騎士ハルト検証ログ:保存後


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