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Gl1tch//RaidERs  作者: 時任 理人


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3/24

LOG.03 深夜二時十七分のラブコメは、だいたいバグる

 ――騎士ハルト検証ログ:起動前


 深夜のログには、昼間とは違う温度がある。


 冷静な考察のふりをした妄想、悪ふざけの奥に沈んだ本音、誰かが冗談として流そうとした違和感。そういうものが、午前三時前後の匿名掲示板には混ざる。


 その夜、俺は《SIREN_CITY》という未確認の自作ゲームらしきものと、《人生終了ゲーム》という名前だけが残る都市伝説の間で、判断を保留し続けていた。


 断定できる情報は少ない。


 だが、断定できないものほど、記録から逃がしてはいけない。


 宵崎ミコは、そんな俺を心配して、何度も寝ろと言った。今日が入学二日目だという、ごく当たり前で、ごく正しい理由を何度も突きつけてきた。


 正論だった。


 だから俺は、一度は切り上げると決めた。


 少なくとも、そのつもりだった。


 深夜という時間帯には、独特のノイズがある。


 昼のネットは情報戦だ。知識自慢とマウント取りが高速で殴り合い、エアプと古参が互いを罵倒しながら、どうでもいい正義を掲げる。夕方になると、仕事帰りの古参が「昔は良かった」を始め、閉鎖したゲーセンや消えたメーカーの話を、まるで戦友の墓参りみたいなテンションで語り始める。


 そして深夜二時を超えると、本当に壊れている奴だけが残る。


 だから、この時間帯のログは濃い。


 ノイズも多い。嘘も多い。釣りも誇張も大量に混ざる。だが、その代わり、“昼間なら書き込まれなかった本音”や、“消すつもりだった危険な断片”が時々浮かび上がる。


 それが匿名掲示板文化圏の深夜だった。


 そして俺、有栖川ハルトは、その魔境の住人である。


 CRTモニタは三台稼働。メイン、検証用、開腹中。横にはPC-98VX、外付けSCSI、MOドライブ、ROM吸い出し機、半田ごて、DAT、フロッピークリーナーが積まれ、床には『ネトラン』『ゲームラボ』『マイコンBASIC』の古雑誌が崩れかけた塔を形成している。


 閉鎖済みファンサイトの魚拓HTML、dat落ちスレ保存フォルダ、回収済みブラクラ検証フォルダ、“失われた攻略記事”専用HDD――この部屋は、普通の高校生の部屋ではない。


 未発見イベント発掘基地である。


 その中央で、俺はビデオチャット状態のスマホを見ていた。


 画面の向こうでは、宵崎ミコが完全にこちらを睨んでいる。


『ハルトくん』


「なんだ」


『もう今日は終わり』


「何故だ」


『何故だ、じゃないよぉ。もう三時近いんだけど』


「まだ三時だ」


『高校生の“まだ”じゃないのぉ!』


 ミコが頬を膨らませる。ゆるい部屋着、少し崩れた髪、眠そうな目。しかし、その表情だけは本気だった。


『明日……っていうか今日、学校なんだよ?』


「知っている」


『入学二日目なんだよ?』


「知っている」


『なのに、まだその怪しい動画見てるの!?』


「当然だ。未確認媒体だぞ」


『当然じゃないよぉ!』


 ミコが机を叩いたらしい音が響き、画面が少し揺れる。その拍子に、後ろの棚から白いぬいぐるみが落下した。


「あ」


『あ』


「今、左上の白いやつ落ちたな」


『そこ観測しなくていいのぉ!』


 だが、俺は冷静だった。いや、正確には、冷静であろうとしていた。


 《SIREN_CITY》。


 黒箱。


 CD-R。


 実写素材。


 学校。


 スピーカー。


 2024.4.8。


 別の学校の可能性。


 だが、脳の奥では、昨日の電ノ原工業学園入学式の音がまだ鳴っている。右後方だけ、わずかに遅れて返っていた反響。高域の潰れた校歌。DSP同期ズレにしては妙に不自然だった残響。


 あれは本当に設備不良だったのか。


 仕様か。


 バグか。


 偶然か。


 演出か。


 開発者の悪意か。


 分類不能。


 だから困る。


『ハルトくん』


「なんだ」


『今、“危ない顔”してる』


「危なくない」


『危ない時のハルトくん、急に静かになるから分かるもん』


 言い返せなかった。


 ミコは昔からそこだけ妙に鋭い。俺がギャグと厨二病で誤魔化している時と、本当に観察へ切り替わった時の差を、何故か見抜く。


 本当に嫌な予感がしている時だけ、俺は比喩が減る。


 テンションが下がる。


 代わりに観察精度だけが上がる。


 それを、ミコは知っていた。


『だから、今日は終わり』


「しかし」


『しかし禁止』


「ログが」


『ログも禁止』


「未確認媒体は時間経過で消える可能性が――」


『寝不足高校生はリアルで死ぬ可能性があるのぉ!』


 ぐうの音も出ない正論だった。


 クソッ。


 現実世界、ゲームと違って睡眠ペナルティが重すぎる。しかも解除方法が“寝る”しかない。調整不足。理不尽。完全にクソバランスである。


『ほらぁ、今日はもうおやすみ』


「む……」


『学校で倒れたらどうするの』


「それは困る」


『でしょ?』


「……分かった」


『ほんとに?』


「本当だ。今日はここで検証を切り上げる」


『やったぁ』


 ミコが、ぱっと笑った。


 その笑顔、妙に破壊力が高い。


 危険だ。


 CPU温度が上がる。


 この女、普段はふわふわしているくせに、時々クリティカルを撃ってくる。


『えらいえらい』


「子供扱いするな」


『だって、ハルトくん放っておくと朝までログ掘るじゃん』


「否定はできん」


『知ってるぅ』


 ミコはくすくす笑い、その後も、どうでもいい話を少しした。学校帰りにどこへ寄るか。ジャンク家へ行くか。旧情報棟へ潜るか。購買のパンは美味いのか。


 本来なら普通の高校生がするはずの日常会話。


 だが、俺たちの会話には、常にノイズが混ざる。


 未確認ゲーム。


 消えたログ。


 人生終了ゲーム。


 放送ノイズ。


 実写動画。


 失われた記録。


 だからこそ、ミコの声だけが妙に現実感を持っていた。


『じゃあ、ほんとに寝るんだよ?』


「ああ」


『ちゃんとベッド行く?』


「行く」


『PC前で寝落ち禁止』


「努力する」


『努力じゃなくて実行ぉ』


 ミコが笑う。


 その直後、スマホへ通知が飛んだ。


《おやすみ〜♡》


 続けて。


《ちゃんと寝てね♡》


《明日遅刻しないでね♡》


《絶対だよ♡》


《返事は?♡》


「うるさい」


『えへへ♡』


 さらに飛ぶ。


《おやすみハルトくん♡》


《好きだよ〜♡》


《既読ついてるぅ♡》


《無視禁止〜♡》


「何だこの通知ラッシュは……!」


『深夜テンションだよぉ』


 いや草。


 スマホが完全にラブコメUIになっている。


 しかも相手は幼馴染ヒロイン枠である。


 だが残念ながら、俺の脳は現在、恋愛イベントより未確認ログ優先仕様だった。


「分かった分かった。寝ろ貴様」


『はーい♡』


「♡を乱用するな」


『じゃあ増やすね♡♡♡』


「やめろ!」


 ミコは最後まで笑っていた。


 そして通話が切れる。


 部屋が静かになる。


 CRTノイズだけが残る。


 俺は深く息を吐いた。


「……なんなんだあいつは」


 スマホを見る。


 最後の通知。


《おやすみ、騎士ハルト♡》


 妙なダメージがあった。


 何だこの状態異常。


 恋愛系デバフか?


 だが、その直後。


 2xch更新音。


 ポン。


 俺は条件反射で画面を見てしまった。


 やはり終われない。


 ログが呼んでいる。


 未確認情報がある。


 消えた記録は、掘れる時に掘らねばならない。


 404になってからでは遅い。


 dat落ちしてからでは復元率が落ちる。


 “今しか観測できないログ”というものは、確実に存在する。


 だから俺はスレを開いた。


111:名無しの影

なぁ


112:名無しの影

これさ


113:名無しの影

人生終了ゲームじゃないよな?


114:名無しの影

言うなって


115:名無しの影

またその名前出すのかよ


116:名無しの影

空気変わるんだよ


117:名無しの影

でも条件似てね?


118:名無しの影

実物なし


119:名無しの影

届く


120:名無しの影

中身違う


121:名無しの影

しかもログ消える


122:名無しの影

やめろ


123:名無しの影

騎士ハルトどう思う


 俺はキーボードへ指を置いたまま、少しだけ考え込んだ。


 嫌な感じがした。


 理由は分からない。


 ただ、経験則が警告している。


 こういう“名前だけが先行しているもの”は危険だ。


 しかも、検索してもまともな情報が出ないタイプは、なおさら厄介である。


 検索結果件数だけ異様に多い。


 だが開くと404。


 魚拓が壊れている。


 datが抜けている。


 引用だけ残っている。


 そういう“不自然な欠損”を伴う情報は、初期ネット文化圏では時々存在した。


 もちろん、その大半は尾ひれのついた都市伝説だ。


 だが、稀に、本当に掘ってはいけないものも混ざる。


 だから俺は慎重になる。


 怖いからではない。


 境界線を理解しているからだ。


 雑な陰謀論は検証を殺す。


 だが、検証不足の楽観論も、同じくらい危険である。


 俺はゆっくりとキーボードを叩いた。


124:騎士ハルト

現時点では接続不能。証拠不足だ。雑な関連付けは検証を殺す


125:名無しの影

珍しく冷静


126:名無しの影

いつも厨二なのに


127:騎士ハルト

俺は常に冷静だ馬鹿者


128:名無しの影

説得力ゼロで草


129:名無しの影

でも分かる


130:名無しの影

今日は空気やばい


131:名無しの影

寝れなくなった


132:名無しの影

誰か続き貼れよ


133:名無しの影

貼った奴消えた


134:名無しの影

それが一番怖い


 スレはその後も荒れた。


 だが、決定的な情報は出なかった。


 新ログなし。


 追加動画なし。


 画像再投下なし。


 結局、断片だけが残った。


 点だけ。


 線にならない。


 未完成。


 未解決。


 だからこそ気持ち悪い。


 俺は保存フォルダを整理しながら、いつの間にか椅子へ沈み込んでいた。


 CRTの熱。


 古いファン音。


 専ブラの更新音。


 遠くで鳴る新聞配達のバイク。


 そして。


 意識が、ゆっくり落ちた。



――そして、次に俺が目を開けた時。


 世界線は、崩壊していた。


「…………」


 まず視界へ飛び込んできたのは、青白く滲むCRTモニタの走査線だった。


 古いブラウン管特有の、わずかに湾曲した画面。液晶には存在しない、あの“電子の熱”みたいな光。微妙に滲み、僅かに揺れ、静かなノイズを纏ったそれは、現代機器ではなく、“過去の情報文明”そのものの残響に近い。


 画面には、2xch専ブラが開きっぱなしになっている。


《理不尽クソゲー総合 Part92》


 ログ停止位置。


 未保存レス数17。


 右側には、途中までノイズ除去を試みた《SIREN_CITY》動画の静止画。


 別窓では比較画像。


 拡大キャプチャ。


 ヒストグラム調整。


 ガンマ補正。


 圧縮ノイズ解析。


 更に奥には、《人生終了ゲーム》関連ワード抽出メモ。


 つまり。


 寝落ちである。


 しかも。


 PC前。


 最悪だ。


「…………クソッ」


 首が痛い。


 背中も終わっている。


 右腕にはキーボード跡。


 どういう姿勢で意識を落としたのか、自分でも分からない。たぶん途中まではログ比較をしていた。そこから、《SIREN_CITY》動画内の音響ノイズと電ノ原工業学園体育館の残響構造が似ている可能性について考え始め――その辺りで脳のRAMが限界を迎えた。


 完全に情報過多による強制シャットダウンである。


 俺はゆっくりと身体を起こした。


 部屋が静かすぎた。


 嫌な予感がした。


 経験上、この“妙に静かな朝”は危険だ。


 まだ親が起こしに来ていない。


 外の車音も少ない。


 だが、差し込む光が妙に強い。


 鳥の鳴き声も高い位置にある。


 つまり。


 かなり遅い。


「…………待て」


 嫌な汗が出た。


 俺は恐る恐るスマホへ手を伸ばした。


 画面点灯。


《8:14》


「………………………………は?」


 脳が止まった。


 完全停止。


 CPU使用率0%。


 数秒後。


 再起動。


「待て待て待て待て待て待て待て待て」


 学校。


 電ノ原工業学園。


 入学二日目。


 ホームルーム。


 始業時間。


 現在時刻。


 8時14分。


 そして、俺の家から学校までの移動時間。


 計算完了。


 結論。


 死亡。


「うおおおおおおおおおおおいッッ!!!!」


 俺は椅子ごと吹き飛んだ。


 ガシャア!!


 積み上がっていた『ゲームラボ2004年7月号』が崩落。


 MOケース散乱。


 DATテープ転がる。


 床のPC-98VXへ膝蹴りしかけて寸前で停止。


 危ない。


 もし当たっていたら俺は今頃発狂していた。


「貴様ァァァァァ!!」


 俺は机の上の目覚まし時計を掴み上げた。


 銀色。


 ベル式。


 アナログ。


 昭和感満載。


 中古ショップ《ジャンク家》で回収した骨董品。


 なお昨日の夜、俺は確実にセットした。


 確認した。


 二重確認した。


 午前六時三十分。


 完璧だった。


 理論上は。


「何故鳴らんッ!!」


 確認。


 秒針。


 停止。


「…………」


 沈黙。


 嫌な予感。


 俺はゆっくりと裏蓋を見た。


 電池蓋、半開き。


 単三電池、片方ズレ。


「……………………」


 理解。


 完全理解。


「接触不良か貴様ァァァァァァァァ!!!!」


 絶叫。


 朝の部屋へ響き渡る怒号。


 完全にジャンク個体だった。


 クソッ!!


 これだから中古ハードは!!


 いや、違う。


 問題はそこではない。


 俺が“レトロ感”を優先して選んだことだ。


「ふざけるな!! 目覚まし時計の本質は“起こす”ことだろうが!! 何故そこで機能美よりノスタルジーへ逃げる!! デザイン重視の無能UIか貴様!!」


 俺は机へ時計を叩きつけた。


 ガン!!


 その瞬間。


 ベルが。


「チリンッ」


 と、情けなく鳴った。


「今かァァァァァァァ!!!!」


 遅い!!


 致命的に遅い!!


 クソゲーならレビュー欄が炎上している!!


《開始直後に進行不能》

《目覚ましとして機能しない》

《仕様かバグか不明》

《雰囲気だけは神》

《UIは良い》

《二度と買わない》


 完全に低評価爆撃案件である。


「貴様……電子化される以前から存在した“アナログ悪意”か……!」


 フゥゥゥ……ッ。


 落ち着け。


 冷静になれ。


 分類しろ。


 仕様か?


 バグか?


 事故か?


 乱数か?


 開発者の悪意か?


 結論。


 寝落ち+深夜ログ掘り+ジャンク目覚まし接触不良。


 複合事故。


 つまり。


 自己責任。


「クソッッ!!」


 現実は非情だった。


 時計は既に8時16分。


 電ノ原工業学園ホームルーム8時20分。


 つまり、もう物理的に無理。


 ワープ機能未実装。


 ロード短縮なし。


 ショートカットイベントなし。


 終了である。


 俺は制服を掴んだ。


 昨日適当に脱ぎ散らかしたせいで、ブレザーがCRT裏へ落下している。歯車型校章が朝日に反射して妙に神々しい。


 ポケットから、昨日ジャンク家で拾ったフロッピーラベルが落ちた。


 更に。


 スマホ通知。


《おはよぉ♡》


《起きてるぅ?♡》


《遅刻しないでねぇ♡》


《ハルトくん?》


《既読つかない……》


《まさか寝落ちした?》


《ねぇ》


《ハルトくーん》


《おーい》


《……本当に寝落ちしたなこのオタク》


「…………」


 冷や汗。


 そして追撃。


《今、学校向かってるよぉ♡》


《ホームルームもうすぐだよ?♡》


《……ハルトくん?》


「終わった」


 完全に終わった。


 幼馴染ヒロインに寝落ち遅刻を観測されている。


 しかも入学二日目。


 印象が“深夜に怪しいクソゲー検証して朝爆散した終焉工業高校生”で固定される。


 いや、事実なのだが。


 だが。


 その時。


 スマホ画面端。


 未読通知。


 2xch。


《理不尽クソゲー総合 Part92》


 新着レス:31


「…………」


 脳が揺れた。


 学校へ行くべきか。


 ログを掘るべきか。


 未確認情報は時間経過で消える。


 だが遅刻は既に確定。


 ならば――


「いや違う違う違う違う違う!!」


 危なかった。


 今、完全に“どうせ遅刻ならログ優先でいいか”という破滅思想へ入っていた。


 駄目だ。


 それは駄目。


 未発見イベント優先思考がリアルを侵食している。


 危険。


 かなり危険。


 俺は自分の頬を叩いた。


「落ち着け有栖川ハルト……! 現実世界はリセット不可!! クイックロードなし!! セーブデータ巻き戻し不可!! 電源ON時間依存イベントではない!!」


 だが。


 未読31件。


 深夜帯。


 《人生終了ゲーム》。


 《SIREN_CITY》。


 別学校のスピーカー動画。


 投稿者失踪。


 ……絶対、何か来ている。


「ぐっ……!」


 脳が引っ張られる。


 見たい。


 ログを見たい。


 今すぐ保存したい。


 未確認レスを回収したい。


 404になる前に。


 dat落ちする前に。


 失われる前に。


 “消えた記録”になる前に。


 その瞬間だった。


 スマホが震えた。


 着信。


《宵崎ミコ》


「…………」


 嫌な予感しかしない。


 俺は恐る恐る通話ボタンを押した。


『ハルトくん』


「……なんだ」


『今起きたでしょ』


「何故分かった」


『声』


「くっ……!」


『あと既読』


 終わっていた。


 完全に観測されている。


『ねぇ』


「なんだ」


『今、2xch見ようとした?』


「…………」


『図星だぁ』


「違う。これは確認作業だ」


『学校行けぇぇぇぇぇッ!!!!』


 ミコのツッコミが、朝の部屋へ綺麗に炸裂した。


 ――騎士ハルト検証ログ:保存後


 寝落ちというものは、ゲームでいうなら強制イベントに近い。


 選択肢は表示されない。セーブもできない。気づいた時には、すでに状況が進行している。


 今回のログで得られたものは、確定情報ではない。


 《SIREN_CITY》はまだ未分類。


 《人生終了ゲーム》との関連も不明。


 深夜のスレに残ったのは、曖昧な連想と、不自然な沈黙と、消えそうな断片だけだった。


 それでも俺は保存した。


 消えたログは戻らない。

 dat落ちしたスレッドは、誰かが拾わなければ埋もれる。

 壊れた媒体も、見なかったふりをすれば本当に死ぬ。


 だから記録する。


 ただし、現実世界には睡眠という仕様がある。


 それを無視した結果、入学二日目の朝は見事に崩壊した。


 目覚まし時計の接触不良。


 PC前寝落ち。


 未読レス三十一件。


 そして、全てを見透かしたような宵崎ミコからの着信。


 クソゲーならまだ攻略できる。


 だが、現実というゲームは、時々あまりにも理不尽だ。


 ――騎士ハルト検証ログ:保存後


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