LOG.19 SIREN_CITY第三検証――サイレンの鳴り響く街
――騎士ハルト検証ログ:起動前
タイトルには意味がある。
特に、古いゲームのタイトルには。
限られた容量。
荒いドット。
不親切な説明。
それでも、そこに刻まれた名前だけは、妙に重いことがある。
《SIREN_CITY》。
それは都市伝説めいた英語タイトルなのか。
それとも、誰かが本当に聞いた音の記録なのか。
旧校舎。
暴徒。
幼馴染。
放送室。
そして、サイレン。
今回は、その名前の意味を検証する。
俺は旧校舎のマップを選んだ。
顔のない暴徒たちが、マスクとヘルメットで同じ顔になって、校舎を埋めている。
その奥に、幼馴染がいる。
そして、そのさらに奥に、放送室がある。
俺は息を吸った。
恐怖を攻略対象へ変換しろ。
そうしなければ、進めない。
そう思った瞬間、隣でナギカがスマホの画面を見つめたまま、ぽつりと呟いた。
「……分かったかも」
その声は、いつもの毒舌でも、俺を罵倒する時の高圧的な調子でもなかった。
低い。
短い。
そして、嫌なものを見つけた解析者の声だった。
通信か。
侵入か。
偽装か。
ログ改竄か。
AI由来か。
人間の操作か。
まだ接続しているのか。
久羅木ナギカという女は、怖いものを怖いと言う前に、そう分類する。今の顔は、その分類のどれにも気持ちよく収まらないログを見つけた時の顔だった。
「何がだ?」
「《SIREN_CITY》の由来」
俺はコントローラーを握ったまま、ナギカを見た。
ミコも息を潜める。
ガレージの中では、CRTの低い唸りと、ディスクシステムの微かな駆動音だけが残っていた。さっきまで俺を馬鹿にしていたナギカの声から毒が消え、ミコのふわふわした笑顔から柔らかさが消えた瞬間、この空間はただのジャンク置き場ではなく、何かの記録を検証する部屋に変わっていた。
「影村学園の騒動、表向きは学生運動の激化って扱いになってる。旧校舎占拠、警察突入、周辺市街地への飛び火、影都デパート火災。ここまではさっき見つけた断片と同じ」
「だが、それだけでは《SIREN_CITY》にはならん」
「そう。だから呼称が違った。影村騒擾、影都暴動、旧校舎事件。あと、別の呼び方が残ってる」
ナギカはスマホ画面を俺たちへ向けた。
そこには、古い掲示板のキャッシュらしき断片が映っていた。文字化け混じり。改行も崩れている。引用元も不明。だが、読める箇所があった。
《街中にサイレンが鳴っていた》
《消防、救急、警察、防災無線、学校放送》
《どこから鳴っているのか分からなかった》
《影都デパートが燃えていた》
《旧校舎からも放送が聞こえた》
《サイレンの鳴り響く街》
俺は、画面の文字を読んだ。
サイレンの鳴り響く街。
SIREN_CITY。
その瞬間、タイトルが単なる厨二めいた英語表記ではなくなった。
街そのものの記憶になった。
「……なるほど」
俺は言った。
声が少しだけ低くなったのが、自分でも分かった。
「SIREN_CITY。警報都市。いや、違うな。サイレンに包まれた街。影村学園の騒動が、校内だけで終わらず、市街地にまで波及し、消防、救急、警察、学校放送、あらゆる警報音が重なっていたから、そう呼ばれた」
ミコが小さく言う。
「街が、ずっと鳴ってたんだね」
その言い方が、妙に痛かった。
ミコは音を情報としてではなく、感情として捉えていた。
怖い。
助けて。
燃えている。
逃げて。
来ないで。
戻ってきて。
そういう声にならなかったものが、サイレンとして街中に鳴っていたのだと、ミコはたぶん感じ取っていた。
俺はCRTへ視線を戻した。
ゲーム内のマップでは、旧校舎の上に赤い点が密集している。暴徒シンボル。ヘルメットとサングラスとマスクで同じ顔になった連中。個人ではなく群衆。会話可能なNPCではなく、押し戻してくる圧力。
その中に、幼馴染が閉じ込められている。
ゲームはまだ、淡々と時間を進めていた。
《激突まで残り22時間12分》
「……進めるぞ」
俺はそう言って、《旧校舎裏手》へ移動した。
さっき見つけた購買部員のヒント――《人が動けば、道が変わる》――が気になっていた。普通のゲームなら、暴徒配置は固定か、一定イベントで変わる。だがこのゲームは時間経過で配置が変わる。しかも、金策や聞き込みによって人が動く。つまり、プレイヤーの行動そのものが暴徒の流れを変えている。
面白い。
いや、面白いと言うと語弊がある。
腹立たしい。
だが、構造としては面白い。
俺が裏手へ回ると、画面に新しいテキストが出た。
《旧校舎裏手》
《火の臭いがする》
《まだ燃えていない》
《だが、誰もが燃えると思っている》
「……何だこのテキスト」
ナギカが眉をひそめる。
「未来形と現在形がズレてる」
「ああ。まだ燃えていない、だが燃えると思っている。つまり事件前夜か、あるいは事件当日の突入前だ」
「でも、影都デパートはもう燃えたって資料にあったよねぇ?」
ミコが不安げに言う。
「そこが嫌だな」
俺はノートへ書き込む。
《時間軸が混線》
《旧校舎占拠中》
《市街地火災前?後?》
《証言テキストが事件前後を跨いでいる》
このゲームは、単純な時系列再現ではない。
複数の証言、複数の事件名、複数の記憶、複数の時間が、一つのゲーム内時間へ圧縮されている。低容量なのに情報量が異常なのではない。そもそも、情報が圧縮されすぎているのだ。まるで、誰かが事件の断片を無理やりディスク一枚に押し込んだかのように。
俺は裏手の小さなアイコンへカーソルを合わせた。
《倉庫》
《入る》
選択する。
画面が切り替わる。
《倉庫には古いヘルメットがある》
《赤い》
《白い文字がかすれている》
《装備しますか?》
「おっ、無料装備か!」
俺は一瞬だけテンションを上げた。
こういうクソゲーには、たまにある。購入画面では高額装備を提示し、実際にはマップ探索で拾わせるパターン。導線は悪いが、分かれば進める。よし、これでヘルメット代九百円が浮く。となれば盾へ資金を回せる。盾一六〇〇円にはまだ届かないが、落とし物探索一回で三百円。つまり、あと一回探索すれば盾が買える。だが探索すると十五分進む。幼馴染の士気が減る。クソ。やはり悪意。
「装備するぞ」
俺は決定ボタンを押した。
その瞬間だった。
《赤ヘルメットを装備した》
《暴徒が味方と誤認した》
《旧校舎二階への経路が開いた》
《警察側の士気-3》
《幼馴染の士気-2》
《暴徒の注目度+5》
「は?」
俺は固まった。
ナギカが顔をしかめる。
「何、今の」
「待て待て……整理する」
俺は画面を睨んだ。
赤ヘルメット。
暴徒と誤認。
二階への経路が開く。
警察側の士気が下がる。
幼馴染の士気も下がる。
暴徒の注目度が上がる。
つまり、敵側装備を使えば一時的に潜入できる。だが味方からは信用を失い、救出対象にも悪影響が出る。おまけに暴徒側の注目度が上がる。潜入偽装ルートか。そういうことか。いや、待て。これをノーヒントで出すな。赤ヘルメットを拾った瞬間に装備するか聞いて、デメリット説明なし。貴様、正気か?
「貴様ッ!! いい加減にしろ!!」
俺は叫んだ。
「また!?」
ミコがびくっとする。
「敵装備を使った潜入ルートを仕込むなら、最低限、変装リスクの説明を入れろ!! 赤ヘル装備で暴徒誤認という発想は良い!! だが、警察士気と幼馴染士気が下がるのは事前に分からん!! しかも暴徒注目度プラス五!! 数値が重い!! ノーヒントで踏ませるデメリットではない!!」
「うわ、でもゲームとしては嫌なリアルさあるね」
ナギカが言う。
「味方から見たら、暴徒側の格好して入ってく奴とか信用できないし、閉じ込められてる幼馴染から見ても、助けに来るはずの人が暴徒みたいな格好してたら怖い」
ミコが小さく頷いた。
「待ってる側からしたら、誰が味方か分からなくなるんだねぇ」
そう言われると、俺はまた黙るしかなかった。
理不尽だ。
だが、完全な理不尽ではない。
意味がある。
意味がある理不尽は、ただの不親切より厄介だ。
俺はそのまま二階へ進んだ。
赤ヘルメットの暴徒シンボルが道を開ける。だが、白ヘルメットの暴徒シンボルが近づいてくる。黒ヘルメットは動かない。画面上では同じ顔なのに、色によって挙動が違う。赤は誤認で通す。白は進路を塞ぐ。黒は特定条件まで動かない。単純な見た目のくせに、内部フラグは複雑だ。
俺は白ヘルを避けるように移動した。
しかし、カーソル移動が一拍遅れた。
暴徒シンボルへ接触。
《暴徒に囲まれた》
《身分を問われた》
《選択してください》
《警察だ》
《学生だ》
《何も言わない》
《サイレンを聞いた》
「何だこの選択肢」
ナギカが言う。
「最後だけおかしい」
「ああ」
普通なら、警察だ、学生だ、何も言わない、で十分だ。だが《サイレンを聞いた》だけが異質。これはキーワード選択肢。事件記録系ゲームによくある、特定資料を読んでいないと意味が分からない選択肢だ。だが、さっきナギカが見つけた《サイレンの鳴り響く街》のログを踏まえれば、これが正解の可能性がある。
俺は《サイレンを聞いた》を選んだ。
《暴徒は黙った》
《誰もが聞いた》
《誰も止められなかった》
《暴徒の注目度+3》
《旧校舎三階への階段が開いた》
《激突まで残り22時間03分》
「通った」
ミコが小さく言う。
「けど、なんか怖い」
「正解選択肢なのに、注目度が上がる」
ナギカが画面を睨む。
「普通、正解ならリスク下げるでしょ」
「このゲームでは違うらしい。事件の核心に近づく言葉を使うと、道は開くが、見られる」
「見られる……」
その言葉で、三人とも黙った。
《お前をみている》
差出人不明メール。
2xchの増殖レス。
そして今、ゲーム内で事件の核心に触れるたびに上がる注目度。
俺はノートへ書いた。
《キーワード選択肢:サイレン》
《正解だが注目度上昇》
《核心接近=監視上昇?》
背中が冷えた。
だが進める。
進めるしかない。
旧校舎三階。
画面が切り替わる。
《三階廊下》
《窓の外が赤い》
《まだ燃えていない》
《だが煙の臭いがする》
《放送準備室から、声が聞こえる》
ミコが俺の袖を強く掴んだ。
「幼馴染?」
「たぶんな」
俺は《放送準備室》を選んだ。
《鍵がかかっている》
《中から声がする》
《名前を呼んでいる》
《あなたの名前ではない》
俺の指が止まった。
「あなたの名前ではない?」
ナギカが言う。
「主人公の幼馴染なのに?」
「おかしいな」
俺は画面を睨む。
幼馴染が閉じ込められている。主人公が助けに行く。ならば中から呼ぶ名前は主人公の名前であるべきだ。だがゲームは「あなたの名前ではない」と言う。これは、プレイヤーと主人公を切り離す文だ。
つまり、これは“あなた”の物語ではない。
誰か別の人間の記録を操作している。
ミコが、ほとんど息だけで言った。
「このゲームの主人公、誰かの代わりなんだ」
その瞬間、画面が赤く点滅した。
《暴徒の注目度が限界に達しました》
《襲撃》
突然、三階廊下の暴徒シンボルが一斉に動いた。
赤。
白。
黒。
黄。
全部が同じ顔で、同じ速度で、こちらへ向かってくる。
逃げ道はない。
「はぁ!?」
俺は十字キーを押した。
遅い。
カーソルが重い。
一拍遅れる。
暴徒が接触する。
《押し潰された》
《体力-3》
《士気-5》
《幼馴染の士気-4》
《時間を30分消費》
「貴様ら、火力高すぎるだろォォォォ!!」
俺は叫んだ。
「押し潰されたで体力三!? 士気五!? 幼馴染士気四!? しかも三十分消費!? 貴様、暴徒一接触のペナルティが重すぎる!! 序盤の敵火力ではない!!」
「敵じゃなくて群衆圧なんでしょ?」
「だからって火力が高い!! 初期体力が十だぞ!? 三回接触でほぼ終わる!! しかも幼馴染の士気も同時に削れる!! こっちがミスるたびに待っている側の精神も折れる!! なんだこの連帯責任システム!! 邪悪!! あまりにも邪悪!!」
ナギカが画面を見ながら、少し引いた顔をする。
「でも、暴徒八〇〇人なら一回囲まれただけで詰むってことなんじゃないの」
「現実ならな!! ゲームなら調整しろ!!」
「そこはゲームとして怒るんだ」
「当然だ!! 現実を題材にしていても、ゲームとして最低限の遊ばせる余地は必要だ!! 理不尽と不条理は違う!! 理不尽を構造化してプレイヤーへ理解させるならまだしも、初見で襲撃発生、逃走不可、火力過多、時間消費、幼馴染士気低下は悪意のフルコースだ!!」
暴徒シンボルに二度目の接触。
《押し戻された》
《体力-2》
《装備:赤ヘルメット破損》
《警察側の士気-2》
《幼馴染の士気-3》
「ぐふぁっ……!!……って、赤ヘル壊れたァ!!」
俺は本気でキレた。
「入手したばかりの変装装備をイベント襲撃で破壊するな!! しかも代替装備なし!! これで潜入ルートが閉じる可能性がある!! 初見殺しどころか初見埋葬だ!!」
ミコが震えた声で言う。
「ハルトくん、これ……大丈夫なの?」
「大丈夫ではない!! だが、まだ死んではいない!!」
「ゲームの話?」
「ゲームの話だ!! たぶんな!!」
自分で言って、少しだけ嫌になった。
たぶん。
その副詞が入った。
俺はゲームと現実を切り分けたい。だが、このゲームはそれを許さない。影村学園、旧校舎、放送室、サイレンの鳴る街、アラタの未返信、そして《お前をみている》。すべてが画面の外へ糸を伸ばしている。
俺は必死に逃走ルートを探した。
メニューを開く。
《逃走》
《交渉》
《威嚇》
《発砲許可申請》
《名前を呼ぶ》
「発砲許可申請って何だよ!!」
「警察側だから?」
ナギカが言う。
「この状況で申請して間に合うか!!」
「いや、現実っぽさはあるけど」
「現実っぽさとゲームテンポが噛み合っていない!! だが、それが狙いなら最悪だ!!」
俺は《名前を呼ぶ》を選んだ。
《誰の名前を?》
《幼馴染》
《隊長》
《自分》
《聞こえない》
また嫌な選択肢だ。
俺は《幼馴染》を選んだ。
《声は届かなかった》
《幼馴染の士気-2》
《暴徒の注目度+2》
「違うのか!!」
俺は叫ぶ。
「幼馴染を呼ぶなってこと!? 何故だ!! 閉じ込められてる救出対象だろうが!!」
ミコが青ざめる。
「名前を呼ばれるの、怖いのかも」
「何?」
「外が暴徒だらけで、誰が味方か分からなくて、声がいっぱいして、サイレンも鳴ってて、その中で名前を呼ばれたら……助けに来た声なのか、騙してる声なのか、分からないのかも」
俺は黙った。
画面の中では、暴徒シンボルがじわじわ迫っている。
そして、カウントが進む。
《激突まで残り21時間56分》
俺は選択を変えた。
《隊長》
《隊長は返事をしない》
《発砲許可は下りない》
《警察側の士気-1》
「駄目」
《自分》
《あなたは自分の名前を思い出せない》
《暴徒の注目度+1》
「は?」
ナギカが短く言った。
「今、何て?」
「自分の名前を思い出せない、と出た」
俺の声も低くなる。
主人公が自分の名前を思い出せない。
さっき、幼馴染は「あなたの名前ではない」名前を呼んでいた。
つまり主人公の名前がズレている。
誰かの記録を、別の誰かが操作している。
あるいは主人公そのものが置換されている。
クソゲーとしての理不尽が、急にホラーの顔を出し始めた。
更に別の選択肢。
《聞こえない》
俺はそれを選んだ。
《サイレンが鳴っている》
《何も聞こえない》
《だから誰も間違えない》
《暴徒は通り過ぎた》
画面上の暴徒シンボルが、一斉に横へ流れた。
道が開く。
俺は息を吐いた。
「正解が“聞こえない”かよ……」
ナギカが低く言う。
「声を使うほど悪化して、聞こえないことを選ぶと通れる。サイレンの街だから?」
「おそらくな。音が多すぎる状況では、声は救いではなく誤認を生む。だから黙る、あるいは聞こえないことが安全になる」
「最悪」
「最悪だ」
その直後、画面が暗転した。
白い文字が出る。
《あなたは激突を回避できなかった》
《記録は最初へ戻る》
「……は?」
俺は固まった。
次の瞬間、タイトル画面ではなく、最初のカウント表示へ戻った。
《激突まで残り24時間》
俺の中で、何かが切れた。
「貴ッ様ァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
ガレージが揺れた。
いや、揺れてはいない。
俺の怒りが揺らした気がした。
「巻き戻しだとォ!? 襲撃イベントに遭遇しただけで二十四時間へ戻すだとォ!? しかもセーブ確認なし!! 警告なし!! 初見殺しからの強制巻き戻し!! ふざけるな!! 開発者ァ!! 貴様、人間の時間を何だと思っている!!」
「うるさい! でもこれは怒っていい!」
ナギカまで声を荒げた。
「二十四時間待たせる構造っぽいのに、イベント踏んだら最初に戻るの!? 馬鹿なの!? しかもプレイヤー時間も実時間も削る気!? 何その嫌がらせ設計!!」
「だから言っただろう!! こいつはクソゲーだ!! だが、ただのクソゲーではない!! 人の時間と感情を実験台にするタイプの邪悪な迷宮だ!!」
俺はメニューを開き、ステータスを確認した。
《階級:巡査》
《体力:10》
《士気:8》
《経験:0》
《記録:なし》
《救出対象士気:不明》
《注目度:0》
「経験値がある」
俺は言った。
「は?」
ナギカが顔を上げる。
「経験の項目がある。つまりレベルアップ、あるいは成長概念がある可能性がある」
「この状況でレベル上げするの?」
「するしかない可能性がある……」
「暴徒八〇〇人相手に?」
「倒せないなら、押し戻し耐性、交渉成功率、士気減少軽減、装備効果、何かしらの成長要素があるかもしれん」
「でも経験ゼロってことは?」
「まだ経験の得方が分からん!!」
俺は叫びながら、ノートへ新しく書き込んだ。
《強制巻き戻し》
《襲撃イベント失敗?》
《24時間へリセット》
《経験値項目あり》
《成長要素未確認》
《注目度閾値による襲撃》
《音声選択肢:聞こえない=回避》
ナギカは頭を抱えた。
「無理。二十四時間は待てない。こんなの二十四時間張りついて、初見殺し踏んで戻されて、また二十四時間とか正気じゃない。無理。絶対無理。通信解析でも嫌。AIに投げても嫌。自律モデルにやらせてもログが地獄になる」
「貴様、ヒステリックになっているぞ!!」
「なるわ!! 何このゲーム!! 低容量のくせに情報量おかしいし、流通記録ないし、事件記録と接続してるし、アラタは返事しないし、なのにゲームは二十四時間待てとか言うし!! 無理!! 人間にやらせる設計じゃない!!」
「その通りだ」
「え?」
「だから、これは人間にやらせる設計ではないのかもしれん」
ナギカが黙った。
ミコもこちらを見る。
俺はCRTを見つめた。
「二十四時間待機。実時間進行。初見殺し。強制巻き戻し。膨大な証言テキスト。事件記録の圧縮。流通記録なし。これは娯楽としてのゲームではない。むしろ、誰かに事件を追体験させる装置に近い」
「装置……」
ミコが呟く。
「誰かの後悔を、何度もやり直させる装置」
その言葉に、俺は頷けなかった。
頷けば、認めてしまう気がした。
これはゲームではない。
現実側へ侵食している記録だ。
CRTの白が、また強く見えた。
画面には、何事もなかったかのように表示されている。
《激突まで残り24時間》
サイレンの鳴り響く街が、もう一度始まっていた。
《SIREN_CITY》の意味が見えた。
サイレンの鳴り響く街。
消防、救急、警察、防災無線、学校放送。
どこから鳴っているのか分からないほど、街全体が警報音に包まれていた記録。
それだけなら、まだ事件資料として処理できた。
だがゲームは、そこで終わらなかった。
赤ヘルメット。
偽装潜入。
暴徒の注目度。
届かない声。
思い出せない名前。
そして、強制巻き戻し。
《激突まで残り24時間》
この白い文字が、再び画面に出た瞬間、俺は理解しかけた。
これはクリアさせるためのゲームではない。
誰かの後悔を、何度も選ばせるための装置だ。
ふざけるな。
そう思う。
だが、止められない。
この記録がまだ動いているなら、俺はログを取る。
サイレンの鳴り響く街を、もう一度見る。
――騎士ハルト検証ログ:保存後




