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Gl1tch//RaidERs  作者: 時任 理人


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17/24

LOG.17 SIREN_CITY起動――激突まで残り二十四時間

 ――騎士ハルト検証ログ:起動前


 古い機械は、沈黙していても死んでいるとは限らない。


 読めなくなったディスク。


 電源の入らない筐体。


 ラベルの剥がれたフロッピー。


 誰も覚えていないゲーム名。


 それらは、終わったものではない。


 まだ応答できるかもしれない記録だ。


 今回、俺たちの前にあるのは、黒zipから出てきた一一二KBのデータ。


 そして、それを書き込んだディスク。


 ただし、問題はそれだけではない。


 影村学園。


 旧校舎放送室。


 LRAD。


 そして《SIREN_CITY》。


 さあ、検証を始めよう。


 このディスクが、ただのゲームなのか。


 それとも、もっと面倒な何かなのか。


 ディスクへの書き込みが進行しているあいだ、俺は画面上の進捗バーではなく、耳で機械の状態を聞いていた。


 古い機械というものは、見た目よりも音の方が正直である。モーターの回転、ヘッド移動の間隔、内部で何かが擦れる微かな抵抗、電源系の唸り、筐体そのものが発する振動、それらは全部ログだ。


 現代の機械は異常を数字で出す。エラーコード。SMART情報。イベントビューア。ログファイル。だが古い機械は違う。こいつらは音で喋る。臭いで喋る。熱で喋る。だから、耳を澄ませる。指先で筐体の震えを拾う。焦げ臭さがないか、コンデンサが死にかけた甘い臭いがしないか、ドライブが無理な抵抗を受けていないかを確認する。


 こういう時に雑な奴は死ぬ。いや、死ぬのは人間ではなく記録だ。読めたかもしれないディスク、救えたかもしれないデータ、復元できたかもしれない誰かの時間を、検証者の雑さで殺す。それだけは許されない。


 書き込みランプが規則的に点滅するたび、俺の中で期待と不安が同時に膨らんでいった。黒zipから抽出された一一二KBのデータ。ディスクシステム最大容量と一致するその数字。影村学園旧校舎の放送室。LRAD。アラタの現地検証。差出人不明のメール。《お前をみている》。それらが一つの盤面へ置かれ始めている。まだ全体像は見えない。


 だが、こういう時のクソゲーは必ず、序盤に意味不明な石ころを置く。プレイヤーは「何だこれ」と思いながら拾う。倉庫を圧迫する。捨てたい。だが終盤で、それがラスボスの無敵フラグ解除アイテムだと判明する。理不尽である。開発者の悪意である。だが同時に、美しい。


「ハルトくん、息してる?」


 ミコが横から覗き込んできた。ふわふわした声ではあるが、完全に茶化しているわけではない。俺の呼吸が浅くなっていることに気づいている。さすが、感情ログ観測特化型幼馴染である。消えたコメント欄の最後の一文から当時の熱量を読む女は、人間の呼吸の乱れも見逃さないらしい。


「している。だが今は、俺ではなくディスクライターの呼吸を聞いている」


「言い方がキモい」


 ナギカが即座に刺してきた。


「機械に呼吸とか言い出した。終わってる。お前は電子呪物の司祭か?」


「貴様、分かっていないな。古い機械の駆動音はログだ。特にディスクドライブ系は音で状態が分かる。ヘッド移動が重いか、モーターが滑っているか、回転が安定しているか、媒体との相性が悪いか、こういうのは耳で拾うんだ」


「……それは、まあ、分からなくはないけど」


「ほう?」


「調子乗んな。ネットワークでも同じようなことあるだけ。応答速度、パケットの戻り方、タイムアウトの癖、ログの残り方、全部見れば相手の構造が分かる。機械音で状態見るのと、通信挙動でサーバの癖読むのは、たぶん近い」


「フハハハハ! やはり貴様もこちら側の人間ではないか!」


「違う! お前と同類扱いは人権侵害!」


 ナギカは嫌そうに顔を逸らしたが、その目はディスクライターから離れていなかった。言葉は毒だが、視線は正直である。こいつは未知の構造が好きなのだ。認証の裏側、閉鎖サーバの残骸、削除ログの痕跡、誰も管理していない古いネットワーク、そういうものに吸い寄せられる。物理媒体には不慣れでも、「切れたはずの接続を確認したい」という衝動は同じだ。


 やがて書き込みが終了した。


 ディスクライターのランプが消え、機械音が緩やかに沈む。俺はすぐにはディスクを取り出さなかった。十秒待つ。十五秒待つ。こういう時に焦る奴は三流だ。媒体が停止しきる前に触るな。機械が沈黙するまで待て。古い記録へ触れる時、必要なのは情熱だけではない。敬意だ。


「……完了だ」


 俺がそう言うと、ミコが小さく手を合わせた。


「なんか、儀式みたいだねぇ」


「実際、儀式に近い。失われたゲームを物理媒体へ戻すというのは、単なるコピーではない。これは召喚だ。ネットの黒zipとして漂っていた得体の知れないデータを、ディスクシステムという本来あり得ないはずの器へ降ろす。現代のファイルを昭和の媒体へ戻す。時代を逆流させる行為だ」


「その言い方はちょっと好きかもぉ♡」


「好きになるな。危険思想だから」


 ナギカが呆れながら言った。


 俺はディスクを取り出し、ファミコンディスクシステム側へ慎重にセットした。ここからが本番である。書き込みが成功しても、起動するとは限らない。ヘッダが合わない、ブート領域が壊れている、チェックサムが通らない、片面前提か両面前提か不明、エミュレーターで見えなかった理由が独自形式なのか、単なる偽装なのか、そもそもゲームデータではなく別種のデータなのか、可能性はいくらでもある。


 鬼畜クソゲーはこういうところで容赦なく殺してくる。タイトル画面前で固まる。起動音だけ鳴ってブラックアウト。A面B面入れ替え要求の表示がバグる。二コンマイク必須。特定時間でないとブートしない。電源投入後の経過時間を参照する。そういう電子化された悪意を、俺は山ほど見てきた。


 だからこそ、起動した瞬間の感動はでかい。


 電源を入れる。


 画面が暗転する。


 CRTの奥で、白いノイズが一瞬だけ走る。


 現代液晶では決して出ない、ブラウン管特有のわずかな滲みと残像が、画面の黒を深くする。そこへ音が重なる。単なる起動音ではない。サンプリングされたような、あるいは劣化した放送音声のような、薄く引き伸ばされた電子音。俺は眉をひそめた。音の質が妙に悪い。容量節約のために極端に削ったのか、それとも元から劣化した素材なのか。古い実写取り込みゲームやノベル系同人ソフトにある、音声を無理やり詰めた時の感じに近いが、それにしても不快だ。耳の奥に残る。


 そして、タイトルが出た。


《SIREN_CITY》


 背景は影村学園旧校舎の放送室らしき実写画像だった。低解像度化され、色数も減らされている。だが構図は分かる。放送卓。壁面スピーカー。古い時計。剥がれた掲示物。そして画面右奥に、アラタが指摘していたLRADらしき黒い装置。ゲーム画面のノイズ処理で輪郭は潰れているが、確かにある。


 ナギカが画面へ身を乗り出した。


「これ、画像として入ってるだけじゃない。圧縮のされ方が変。低解像度なのに、輪郭の残り方が妙に不自然。元画像がもっと高解像度で、意図的に潰されてる可能性がある」


「つまり、見せたい部分を残し、見せたくない部分を潰した?」


「断定はしない。でも、普通に容量削っただけなら、もう少し全体的に潰れる。これは、見える場所と見えない場所の差が変」


「なるほど。相変わらず通信女の癖に画像も見るではないか」


「通信女って言うな。あと褒めるな。気持ち悪い」


 ミコは画面を見つめたまま、ぽつりと言った。


「この放送室、使われなくなってからも、誰かが見てほしかったのかな」


 その言葉で、少しだけ空気が変わった。俺やナギカが構造や圧縮や媒体を見ている横で、ミコは「誰が残したかったのか」を見ている。そういう視点は、時々ぞっとする。データではなく感情を読む女。消えたコメント欄、最終更新日、サービス終了告知文、誰も再生しない動画の低評価とコメント数、その全部から人間の「好き」と「忘れないで」を拾う女。


 俺はコントローラーを握った。


 スタート。


 画面が切り替わる。


 そして、白い文字が表示された。


《激突まで残り24時間》


 俺はしばらく沈黙した。


 その沈黙は、恐怖ではない。いや、恐怖も少しあったが、それ以上に怒りと理解の処理だった。二十四時間。ゲーム内時間なのか、実時間なのか。イベント開始までの猶予なのか、エンディングまでの制限なのか。カウントダウン型の緊張演出なのか。内部タイマーを参照する鬼畜仕様なのか。


 ディスクシステムという時代を考えれば、本体側に現代的なRTCはない。ならば電源投入からの経過時間か、セーブデータに記録される疑似時間か、特定イベント進行で減るカウンタか。だが表示の出し方が嫌だ。あまりにも自信満々だ。まるで「本当に二十四時間あります」と言っている。


「……ハルトくん?」


 ミコが不安そうに俺を見る。


 俺はゆっくり息を吐いた。


「これはクソゲーだ」


 ナギカが即座に眉を寄せる。


「その表示だけで?」


「その表示だけで十分だ。残り二十四時間という表記は、普通のゲームなら演出だ。だが、この手の理不尽ゲーは演出に見せかけて本当に待たせる。特定時間経過でしか進まないイベント、実時間でカウントするフラグ、電源を切ると初期化される進行、電源ON時間依存、内部カウンタのバグ利用、そういう開発者の悪意を俺は知っている」


「待って。つまり本当に二十四時間?」


「可能性は高い」


「マジで?」


「マジだ」


「嘘でしょ。ゲームに二十四時間待機とか頭おかしいじゃん」


「そういうゲームがあるから俺はクソゲーを愛しているし憎んでいる」


「愛すな」


「憎んでもいる」


「どっちかにしなさいよ!」


 俺はメニューを開いた。ステータス、移動、調査、装備、通信、記録。項目の名前はそれっぽい。だが操作感が妙に古い。カーソル移動が一拍遅れる。選択音が不快。キャンセルの判定が重い。テキスト送りの速度が一定ではない。わざとではないなら技術不足だが、わざとならかなり悪質だ。プレイヤーへわずかなストレスを与え続ける設計。クソゲー解析的には、こういう小さな違和感ほど重要である。


 ゲーム画面には、顔だけのシンボルが表示されていた。人体ではなく、丸い顔に簡略化された主人公アイコン。警察官らしき帽子のドットが乗っている。マップは学校全体を俯瞰した簡素な構造で、旧校舎、校庭、体育館、放送室、正門、裏門、屋上、水道棟らしき場所が見える。敵は赤白黒黄色のヘルメットっにサングラス、白マスクで表示されているらしい。いや、敵と決まったわけではない。だがゲーム内説明では《暴徒》と呼ばれていた。


《影村学園は暴徒に占拠された》

《警察部隊を指揮し、校内を制圧せよ》

《激突までに装備を集めろ》

《情報を集めなければ、正しい突入地点は分からない》


「……暴徒?」


 ナギカがスマホを取り出した。


「影村学園、暴徒、旧校舎、放送室……ちょっと待って」


「検索か」


「検索じゃない。表層検索はノイズが多すぎる。まずニュースアーカイブ系、次に郷土史、次に閉鎖済み掲示板のキャッシュ、あと古いPDFが残ってないか見る」


「ほう。成長したな久羅木」


「上から目線やめろ。キモい」


 ナギカがスマホを操作している間、俺は校内NPCへ話しかけていった。テキスト量が多い。異常に多い。単純な暴徒鎮圧ゲームなら、NPCの台詞など数パターンで十分だ。だがこのゲームは違った。生徒、教師、警備員、近所の商店主、新聞記者、逃げ遅れた事務員、旧校舎に詳しい老人、デパートへ逃げたという噂を語る人物。反応が細かい。しかも同じNPCでも話しかける順番やカウントダウン時間によって台詞が変わる気配がある。


 容量に対してテキストが多すぎる。


 俺は眉をひそめた。


「おかしい」


「何が?」


 ミコが聞く。


「テキスト量だ。この容量で、この反応量は妙だ。圧縮しているにしても、かなり詰め込んでいる。しかも文章が単調ではない。書いた人間が、情報の粒度を異常に細かくしている」


「それって、作り込みがすごいってこと?」


「そうとも言える。だが、別の見方もある」


「別?」


「ゲーム用に書いた文章ではなく、元から存在した記録を削って入れている可能性だ」


 ミコの表情が少し変わった。


 ナギカもスマホから目を上げる。


「ログをゲームに変換したってこと?」


「断定はしない。だがNPCの反応が、ゲーム的台詞というより証言に近い。『装備を集めろ』みたいなゲーム都合の文もあるが、その周辺に混ざる言葉が妙に生々しい。旧校舎の廊下の臭い、放送室の鍵の場所、影都デパートが燃えた時の煙、逃げた方向、聞こえたサイレンの数。作り話としては細かすぎるし、ゲームとしては不要な情報が多すぎる」


 ミコが小さく言った。


「誰かが、忘れないように入れたのかな」


 その言葉に、俺は返事をしなかった。


 返事をする前に、ナギカが画面を見せてきた。


「見つけた。たぶんこれ」


 そこには、断片的な記事のような情報が表示されていた。昭和五十八年頃。影村学園周辺。大規模暴動騒ぎ。近隣の影都デパート全焼。市内混乱。警察出動。詳細不明。資料の多くは未整理、または閲覧制限。


 俺は画面とゲームを見比べた。


 ゲーム内の影村学園。


 現実の影村学園周辺暴動。


 旧校舎放送室。


 LRAD。


 デパート全焼。


 《激突まで残り24時間》。


「なるほど」


 俺は呟いた。


「なるほど、そういうことか」


「何が?」


「《SIREN_CITY》は完全な創作ではない。少なくとも現実の事件、あるいは事件記録を素材にしている。だから画像に実在する影村旧校舎放送室が入っている。だからNPCテキストが証言じみている。だから暴徒鎮圧という構造になっている」


 ナギカが低く言う。


「でも、それなら何でLRADがあるの。昭和五十八年でしょ?」


「そこだ」


 俺は画面を見る。


「そこがズレている。事件そのものは古い。だが映像にある機材はもっと新しい可能性がある。つまり、このゲームは単に昭和の事件を再現しているだけではない。複数の時代の記録を重ねている」


「……気持ち悪い」


 ナギカの声は短かった。


 俺も同意だった。


 ゲーム内では、NPCがしつこく装備を集めろと言ってくる。盾、ヘルメット、鎮圧棒、無線機、予備電池、校内図、放送室の鍵、裏門の情報。だが金策が分からない。初期資金は少なく、装備価格は高い。敵と戦えば負傷する。負傷すれば時間が進む。情報収集にも時間がかかる。なのに激突まで二十四時間。これは悪意だ。完全に悪意である。


「貴様ッ!! いい加減にしろ!!」


 俺は叫んだ。


「何に怒ってるの!?」


 ミコが驚く。


「金策導線がない!!」


「そこ!?」


「重要だろうが!! 装備を集めろと言うなら資金源を提示しろ!! 初期資金では最低限の盾すら買えん!! 聞き込みで時間を消費するなら収入手段を置け!! 情報収集と装備収集を両立させる導線がない!!」


「普通の人間はそこまで怒らない」


 ナギカが冷静に刺す。


「普通の人間はこのゲームをやらん!!」


「それはそうだな」


「納得するな!!」


 ミコが胸の前で手を握りながら応援してくる。


「ハルトくん、頑張ってぇ♡ きっと装備集められるよぉ♡」


 その動作で、ミコの胸が激しく揺れた。


 かなり揺れた。


 視界の端で。


 俺の脳が一瞬だけ別方向の処理へ持っていかれた。


 これは事故である。


 不可抗力である。


 俺は悪くない。


「ぐっ……!」


「おい、今どこ見た?」


 ナギカの声が低くなる。


「……見ていない」


「見た」


「見ていない」


「応答速度が低下した。視線が一瞬落ちた。キモ騎士、最低」


「違う! これは視界内イベントの強制割り込みだ!」


「言い訳もキモい!」


 ミコはきょとんとしている。


「何かあったぁ?」


「貴様は少し自覚しろ、ミコ!」


「えぇ?」


 ナギカが俺の頭を軽く叩いた。


「痛ったぁ!!」


「反省しろ」


「俺だけが悪いのか!?」


「九割お前」


「残り一割は?」


「お前の存在」


「十割ではないか!!」


 馬鹿みたいなやり取りをしながらも、俺の手は止まらなかった。NPC会話を回収し、選択肢をメモし、時間経過量を記録し、装備価格を一覧化する。ゲーム内一時間が経過した時点で、表示は《激突まで残り23時間》へ変わっていた。


 つまり。


 本当に一時間経過している。


「やはり二十四時間だ」


 俺が言うと、ナギカは心底嫌そうな顔をした。


「マジで?」


「マジだ」


「何なのこのゲーム」


「クソゲーだ」


「褒めてる?」


「怒っている」


「でも嬉しそう」


「怒っている!!」


 俺はノートへ書き込む。


《SIREN_CITY》

《実時間進行疑惑:確定寄り》

《一時間経過で表示23時間》

《影村学園暴動事件ベース?》

《影都デパート全焼記録》

《NPCテキスト量異常》

《金策不明》

《装備収集必須》

《LRAD時代矛盾》


 そこまで書いてから、俺は一度コントローラーを置いた。


「一旦ここまでだ」


「え、やめるの?」


 ミコが少し驚く。


「やめるのではない。情報整理だ。このまま突っ込めば、重要ログを取り落とす。もう少し調査したいが、今日はミコの家で紙資料も見る必要がある。《人生終了ゲーム》の攻略雑誌片だ。あれを後回しにするのは危険だ」


 ミコの顔がぱっと明るくなる。


「じゃあ、うち来る?」


「行く。だがその前に燃料を投下する」


「燃料?」


 ナギカが嫌な顔をした。


「まさか2xch?」


「当然だ」


「またスレを荒らす気?」


「荒らすのではない。活性化させる」


「同じだろ!」


「違う」


 俺は専ブラを開き、《SIREN_CITY》スレへ書き込んだ。


387:騎士ハルト

SIREN_CITY起動成功


388:騎士ハルト

起動条件は伏せる


389:騎士ハルト

最初から地獄だ


390:騎士ハルト

激突まで残り24時間


391:騎士ハルト

影村学園関連の可能性あり


392:騎士ハルト

詳細は追って報告する。


388:名無しの影

来たか



 投稿。


 数秒後。


 スレが動いた。


393:名無しの影

来たか


394:名無しの影

来たー!


395:名無しの影

騎士ハルト起動成功マジ?


396:名無しの影

条件伏せるの気になる


397:名無しの影

激突まで24時間って何


398:名無しの影

影村学園?


399:名無しの影

やばくね


 レス速度が上がる。


 スレが息を吹き返す。


 俺はそれを見て少し笑った。


 ログは人が触れて初めて熱を持つ。


 誰も読まない記録は冷えていく。


 だから燃料を入れる。


 掘る者を増やす。


 消える前に保存する。


 だが、その直後だった。


 異様な書き込みが混ざり始めた。


400:名無しの影

みている


401:名無しの影

お前を見ている


402:名無しの影

放送室でみている


403:名無しの影

激突まで残り23時間


404:名無しの影

みている


405:名無しの影

みている


406:名無しの影

みている



 俺の笑いが止まった。


 ナギカが画面を覗き込む。


「なに……?……これ……」


 ミコの表情から、ふわふわした笑みが消える。


「なんか変だねぇ……」


 俺はレスの投稿時間を見た。


 ID。


 間隔。


 文面。


 全部違う。


 だが同じ言葉が増殖している。


 さっきのメールと同じ言葉が。


《お前をみている》


 ガレージの中で。


 CRTの光だけが、やけに白かった。


 起動した。


 確かに起動した。


 タイトルは《SIREN_CITY》。


 背景は、影村学園旧校舎の放送室。


 そして画面には、あまりにも嫌な文字が表示された。


 激突まで残り二十四時間。


 この時点で、俺は確信した。


 これはクソゲーだ。


 だが、ただのクソゲーではない。


 現実の事件らしき記録。


 異様に多いNPCの証言。


 時代のズレた機材。


 そして、こちらを見ているかのように増殖する言葉。


 ゲームは起動した。


 しかし同時に、こちら側の何かも起動してしまった気がする。


 ……いや、まだ断定するな。


 仕様か。


 バグか。


 裏技か。


 乱数か。


 開発者の悪意か。


 検証は、ここからだ。


 ――騎士ハルト検証ログ:保存後


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