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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag
第一部 「まもの使い」編

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「いくよ、ルカリア」


「ああ、やってくれ」


「スライムベッド、上昇」


スライムのベッドがキラーヤの腹あたりまで上昇し、ルカリアの口元に向かって、キラーヤの手元から痺れ粉が放たれる。

周囲に拡散しないよう、粉が噴出する右手を筒状に布で覆い、その先をルカリアの口に当てる。


「口で吸って、鼻で吐いて」


キラーヤの指示に合わせてルカリアの胸が上下する。


「筋弛緩の作用もちょっとあるから、喋りにくいよ」


「おいおい、大丈夫か」


「大丈夫、呼吸を妨げるほどの筋弛緩作用はないから」


「ならいいが」


「あと私が指示した時は喋らないでね。

 腹が動くと手元がぶれるから」


「分かった」


「さ、そろそろ」


キラーヤは右手人差し指をメス状の刃物に変えると、まずはルカリアの右足をつついた。


「これ痛い?」


「いや」


次に左足。両の太もも、下腹。

順に痛覚が失われていることを確認していく。


「ルカリア、足上がる?」


「・・・上がらん。凄いな」


「順調。最後、お腹つつくよ」


服を脱がせ、術部である腹部の麻酔状態を念入りに確かめ、「よし」と頷いた。


「アラクネ、お腹カバーちょうだい」


「はあい!」


アラクネが出したのは大きな真っ白な布。それをルカリアの腹に乗せ、除菌した裁ちばさみで中央を丸くくりぬく。


「よし、少しの水」


丸く開いた窓の辺縁に少量の水を含ませることで、肌とのずれを防ぐ。


「リンネ先生、シルヴァ先生、

 準備はいい?」


「はい、キラーヤ先生」


「では、改めて目的と手段を明らかにしておきます」


キラーヤは壁の向こうにたむろす皇帝と教皇、そして回復術士と兵、ついでに分からず屋のサルバドールに向かって宣言した。


「患者ルカリアの病の原因は、

 腹に何らかの手段で埋められた、

 ご神体の欠片と推察されます。

 

 我々はそれを摘出し、神殿へお返しします。

 また患者の腹は元通りに縫合し、

 その後のケアをもって体調の回復へ努めます。


 よろしいですね」


『承知した。はじめてくれ、キラーヤ殿』


壁の向こうで声を上げたのは皇帝だ。


キラーヤはひとつ深呼吸をし、宣言した。


「まずは、除菌」


「切開します。

 リンネ先生、鑷子でガーゼを持ち、

 血が出たら順次押さえてぬぐってください」


「はい」


キラーヤの刃物状に変形した右人差し指が、ルカリアの肌を縦に一筋なぞる。


「ルカリア、痛みは?」


「ない。大丈夫だ」


腹筋のこわばりもない。

問題なしと判断し、キラーヤは先に進める。

左手に鑷子を持ち、皮膚を広げながら奥の組織を少しずつ切り開いていく。


「筋膜露出までは少しずつ、傷つけないように」


「はい」


シルヴァも鑷子で術野を確保する。

ライトマンが天井に張り付き、術野が常に照らされるように腕を伸ばす。


「ふたりとも、血は大丈夫?

 気分が悪くなったら早めに言ってね」


「大丈夫です」

「問題ありません」


適宜ガーゼで押さえ、また時折右人差し指のメスに熱を通して止血しながら進む。

すると、


「キラーヤ、今喋って良いか?」


とルカリアが声をかけた。


「大丈夫。あんまり大声出さなければ」


「ああ。腹は動かさないようにする」


「よろしく」


「皇帝陛下、聞こえますか」


ルカリアは語り出した。自らに起こった物事を。



ーーーーーーー


「聞こえておる。

 話してくれ、ルカリア」


皇帝は壁のモニターに向かって声をかけた。


『それでは、お言葉に甘えて。

 俺はロイン大図書館の深層で、

 「過去の叡智」に触れました』


周囲のリアクションは薄い。だが皇帝は大いに動揺した。

この言葉の意味を知るものはごくわずか。


「その上でこのように話せるということは。

 ・・・ルカリア、お前、

 あの聖遺物を受けきったのか」


『その通りです。

 確かめてくださって構いません。

 皇帝陛下ならご存じのはずです。

 「過去の叡智」の中には、

 その者が「知の賢者」となったことを証明するための、

 特別な問答が記載されている』


「・・・それを知っている時点で、

 もう半分証明できたようなものだがな。


 では問おう。

 汝、知恵の還る地を語れ」


『天より降る雨のひとしずく、波紋、

 地に座する巌を穿つ』


その一説から始まったルカリアの奏上は、この世界の成り立ちをさながら音楽のように語った。


『美しい言葉ね』


術中のキラーヤが思わず言葉を漏らす。


「よい、ルカリア。

 確かに証明しよう、

 貴殿は「知の賢者」となったと」


皇帝は頷く。


「だがなぜ、お前はあの聖遺物に触れたのだ」


『トライツに・・・触れさせられました』


皇帝の眉間に皺が寄る。


「何のために」


『俺の精神を破壊するためでしょう』


「それこそ、何のために」


『ここからが本題です。

 ・・・「聖女」について』


『ちょっと待ってルカリア、少しストップ』


キラーヤの静止で、ルカリアの言葉が止まる。



ーーーーーー


「ごめんルカリア、ちょっと筋膜切るよ」


その言葉のあと、宣言通りキラーヤは筋膜を縦に切開した。

白い筋膜の向こう、腹腔内の黄色い脂肪が顔を出す。


「ナマケモノくん、出番」


身体を白い布でぐるぐる巻きにしたナマケモノの魔物がルカリアの下腹にどすんと座り、そのかぎ爪状の手をキラーヤに差し出す。


「ありがと。・・・ここ。

 ここでキープね」


「あい」


筋を横に開くように両手をかけると、うまく筋鈎の役割を果たしてくれる。ナマケモノの長い手もあり、邪魔にならず良い具合だ。


「いいよルカリア、喋って。

 こちらはいよいよ、ご神体を探します。

 ロットン、ご神体が映った部分の断層画像出しといて」


「あいよ!」 


ロットンがキラーヤの見えやすい位置に移動し、

その鏡面にルカリアのCTもどきを表示する。


「さ、探るよ」


「はい!」



ーーーーーーーーーー



『じゃあ、こっちは喋ります。

 聖女についての情報なんですが。

 トライツが出したのはごく一部のみでした』


ルカリアが語った内容に、皇帝は頷いた。


『聖女についてトライツが語った内容は、

 瘴気を浄化し魔物を滅したこと。

 旅をしていたこと。

 そしてその時期が、

 異世界からの召喚者がいた時期と重複すること。

 これくらいでしたね』


「ああ、そうだったな」


『そしてその情報に紐付けられ、

 俺たちは異世界からキラーヤを呼んだ。

 「聖女」であることを期待して。

 実際は「まもの使い」が来たわけだが』


扉前がざわつく。それはそうだ、「まもの使い」などという危険な者を皇室主導で異世界から召喚してしまっていたとは。


『加えて俺がキラーヤとの旅で知ったことは、

 聖女の能力は確かに瘴気を浄化したこと。

 だが瘴気は微量だと作物の栄養素となり、

 それらも消し去ってしまった故に、

 その後大飢饉を起こしたこと』


「そうなのか」


教皇が驚きの声を上げる。


「ああ、その通りだ」


扉前の森の賢者、ハイエルフのシータが声を上げる。


「森林の魔物たちはそれを間近で見ている。

 あの時期は人間どもがバタバタ死んだ」


「なんと・・・」


『ここからが新たな情報だ。

 「過去の叡智」には記載があった。

 「聖女」が・・・人の手で作られたものであったと』


「なに?!」


皇帝は思っても見ない情報に驚く。

教皇も苦虫を噛みつぶしたような渋面だ。


『ネフェリ歴1579年。秘術の実験として、

 異世界人が召喚された。

 持っていたジョブは「共鳴箱エコーチャンバー」』


「聖女ではなかったのか」


『その通りです。

 時を同じくして、

 ご神体を削って持ち出した罪で、

 ひとりの男が捕らえられた。

 その男は自らを「聖人」と名乗り、

 各地で人々を安寧の死へ導いていた。

 その者は言った。

 この石は瘴気を浄化する、と』


「まさか」


『ジョブ「共鳴箱」はレアだ。

 習得した技能を自らの中で増幅させ、

 本来の技の数十倍、数百倍の威力まで至らせる。


 ・・・時の権力者はそれを利用した。

 瘴気を浄化するご神体を異世界人の掌に埋め、

 秘術を組み合わせ、浄化の波動を出せるように訓練した。

 これで「聖女」のできあがりだ。 


 そして浄化の旅に出た。

 それが国を危機に追い込むとも知らずに』


「その聖女はどうなった」


『旅を終えてすぐに死にました。

 俺と同じです。

 体内のご神体のかけらに徐々に生命力を吸われた』


「それが結末か・・・」


『ちなみに教皇、

 さっき壁の向こうから鑷子を送ってくれましたね。

 あの技で俺も、聖女も、体内に石を埋め込まれたんです』


「そ、それは、回復術士が関与したということか!!」


教皇が吠える。


『残念ながらそのようです。

 俺は王都の神殿でやられたらしい』


「話は分かった、ルカリア。

 しかし、話は戻るが、

 お前はなぜこのような憂き目にあっておるんだ」


『俺のジョブも・・・「共鳴箱」だからです』


皆は息を呑み、黙った。

おおよその顛末が、予想できてしまったから。


『トライツは国を恨んでいました。

 なるほど「知の賢者」の制度は残酷だ。

 だから聖女伝説を利用して、 

 国に復讐を考えた。


 ・・・俺は保険だったんでしょう、

 異世界人が「共鳴箱」以外のジョブであった時の』


「キラーヤ殿がまもの使いであったから、

 お前を使ったのか」


『そのようです。

 どうやって俺を神殿に誘導したかは知りませんが。

 

 俺に石を入れ、弱らせ、

 「過去の叡智」で精神を壊して傀儡にし、

 過去と同じ手法で国を叩く寸法だったんでしょう』


「そ、そんな杜撰な・・・!」


『ここではかいつまんでいますが、

 結構詳細に記録が残っていますからね。

 おぞましいですよ。

 いたいけな少女をどんな手で従わせたか。

 まぁこの記録を再現すれば、

 死にかけた俺でも使えたでしょうね』


「・・・ルカリア、お前の言い分は分かった。 

 だが一方の言い分だけを信じる訳にはいかん。

 知の賢者であるトライツが、

 情報を隠蔽していた事実だけでも重罪になりかねん」


『結構です。

 彼には彼の想いがあるんだろう』


『お話中失礼しますが』


そこに割り込んできた声があった。

キラーヤだ。


『取れましたよ、ご神体』



ーーーーーーー



ルカリアが頭のほうで何やら深刻なことをしゃべっている間。


「ちょっと触ってみよう」


キラーヤは露出した腹部の脂肪を触る。


すると、指先に固いものが当たる感触があった。


「あー、ある。絶対ある、これ」


リンネとシルヴァも順に触る。


丁寧に止血しながら脂肪を切り分けると、そこには青錆色に光る石の欠片が確かに埋まっていた。


「摘出!」


石を崩さないよう、鑷子で丁寧につまみ上げ、

周りに破片がないかを確認する。

念のため食塩を溶かした水を少しかけ、洗い流す。


摘出したご神体を皿に入れると、


「よし!ディアドラ、一回嗅いで!」


と指示した。すぐさまディアドラはマスクを取り術野を嗅ぐ。


「問題ありません、脂肪と血のにおいだけです」


「よし、摘出完了!

 

 取れましたよ、ご神体!」


・・・そしてルカリアに黙るよう指示し、キラーヤとリンネ、シルヴァは丁寧にルカリアの腹を閉じた。


ガーゼを当てて腹帯を固く巻き、

ルカリアの顔色を確認したところで、


「着いたみたいね」


第一皇子リグレオール、第二皇女ナディーンと共に、「知の賢者」トライツがその場に到着した。








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