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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag
第一部 「まもの使い」編

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教皇に案内され、サルバドールはご神体の間前室前までやってきた。


「こ、これは、どうしたことか」


その目は扉前に鎮座するジュエルドラゴンとハイエルフ、そして美しき花の姫に向けられている。


「この部屋は現在、封鎖されている。

 見ての通りだ」


ハイエルフはサルバドールを一瞥すると、何でも無いように言った。


「貴殿、まもの使いの手先か」


サルバドールは早速ハイエルフのシータに噛みつく。


「左様。

 我が主の指示ないうちは、

 何人たりとも通しはしない。


 ・・・ああ、そういえば。

 我が主が確か言付けをしたはずだが」


そう言って、神殿の職員たちをじろりと睨めつけた。


おずおずと前に出たのは、壮年の回復術士である。


「わ、私が聞いております。

 この部屋が封鎖される際、確かに」


「申してみよ」


「お、皇子が来られたら伝えよと。

 『患者を生かしたいなら指くわえて見てな』・・・と」


「なんだと・・・?!」


あまりの屈辱に、サルバドールは思わず腰の剣に手が伸びる。が、「殿下」とたしなめられ、唇を噛んで堪えた。



モニターの中では、キラーヤたちはアラクネがガーゼや腹帯を作る間、縫合の練習をしたり手順の確認をしたりしている。ルカリアも術に備えて飲水をやめ、静かに身体を休めていた。


「あれは・・・なんだ」


サルバドールはその異様な光景に見入る。

スライムのベッドに横たわる、清潔な衣服を着たルカリア。

彼を気遣うように周囲を囲む魔物達。

そして何やら机に向かい打ち合わせしている、数人の人間。

そのうちの黒髪の女、あれが『まもの使い』だ。


「彼らは患者を救おうとしています」


「救う、だと?!魔物だぞ?!」


教皇は頷く。


「ええ、魔物です。

 ですが彼らは、患者を救うために動いている。

 今しているのは、失敗しないための打ち合わせです」


サルバドールは混乱した。


『まもの使い』は悪しき者のはずだ。

魔物を従え、人を襲い、奪う。

サルバドールの物語の中では、そういう存在であらねばならない。


だが目の前の光景はどうだろう。

まるで学者のように机に向かい、話し合っている。


内容自体はサルバドールには分からないが、

高度な内容であることは推察できる。


『まさか、本当に魔物ごときが、

 ルカリアを救おうというのか』


サルバドールはうろたえた。

自分は今、得意なペンを置き、代わりに剣を持ちここにいる。ペンを持てない心許なさに目を泳がせ、考えを巡らせる。


『違う、違う、これではいけない。

 ルカリアが救われては欲しいが、

 これでは駄目だ。物語が成立しない』


手持ち無沙汰に剣の柄を触り、さらに思考を走らせる。


『そうだ。

 病を治すというならば、

 回復術士がやれば良い。

 幸いここには教皇もいる。


 ならば私がやることはひとつ。

 ・・・私がまもの使いを討つ』


サルバドールは、自ら悪役と定めた者が立場を良くすることを認めなかった。


キラーヤや魔物達の振る舞いを見てもなお、

自身の物語の役割に、彼らを当てはめようとしたのである。


『悪役は悪役のままで、いてもらわねば』



そして傭兵会社の社長であるデルーカスに指示を出した。


「デルーカス、秘術師を出せ」


「は」


「抗魔秘術をかけろ。

 あの部屋にも届くように、広範囲にだ」


「・・・は、」


デルーカスは言われるがままに社で一番の秘術師を呼び寄せ、抗魔秘術を展開させた。

それを見た回復術士たちは慌てた。


「殿下、何を!」


「静かにしろ。やはり彼奴らは私が討つ」


「そんな、彼らに害があるとは思えません!」


「黙れ!!

 そもそも患者を救うというならば、

 貴様らがやる仕事だろう!

 お鉢を奪われてのうのうとしおって!」


そう怒鳴りつけ、抗魔秘術をますます強くした。


扉前の三人はさすがに顔色ひとつ変えないが、モニターの中の小さな魔物達が苦しみ出す。



『なにこれ。

 ・・・馬鹿皇子の仕業か』


モニターの音声から声がする。

その秘術に気付いたまもの使いが、

怪訝な顔をして壁を睨み付ける様が映し出された。


『いっぺんシメないと駄目か、これ』


『待て、キラーヤ』


まもの使いを止めたのはベッド上のルカリアである。


『なに、どうしたの』


『俺に任せろ』


そう言って横になったまま、何やら呟くルカリア。

その瞬間、嵐のような魔力が吹き荒れ、

デルーカスの手下の秘術を跡形もなく吹き飛ばした。

さらにその場には、洗練された強力な結界秘術が展開される。


・・・これは、この秘術は。


『おい、聞こえるか、サルバドールの坊ちゃん』


なおも横になったままのルカリアが声を張る。


突然名指しされたサルバドールはたじろいだ。


『俺が誰だか忘れたか?

 こんなへなちょこ秘術、いくらでも弾ける』


ルカリア、前『秘術の賢者』。

実力では現在もトップに君臨し、歴代を見ても類を見ない天才。


サルバドールが惚れ込んだ才能が、

今自分に刃を突きつけている。


「ル、ルカリア!

 待っていろ、今助ける!」


『必要ない。


 何度言えば分かる?

 俺はあんたの駒じゃない。

 あんたの妄想の通りには動かない。

 

 俺たちを邪魔するなら、

 容赦なく蹴散らしてやる』


サルバドールを脅すように、

ルカリアの張った結界にパチパチと小さな稲妻が走る。


「やるじゃないか」

「ほんと」


と、シータと妖精王が笑い合う。


『もう一度言う。

 俺たちに手出しをするな。


 キラーヤの邪魔をするなら俺が許さない』


そう語気を強めるルカリアに、サルバドールはなおも言い募った。


「な、なぜだ!

 まもの使いなんて危険な者に、

 その身を任せるなど!なぜだ!!」


『簡単だ。

 俺はキラーヤの仲間だからな。

 それに、俺はキラーヤを心底信用してる』


そう言ってキラーヤを見つめるルカリアの優しい視線に、サルバドールはショックを受けた。


「ゆ、許されない・・・

 ルカリアが魔女に心を奪われるなど・・・

 許されない!!」



そう叫んで、サルバドールはとうとう腰の剣に手を掛ける!


・・・しかしそれは瞬時に阻止された。

どこからか飛んできた鎖がサルバドールの手を捕らえ、そのまま引き倒す。


「サルバドール!!武器を捨て伏せよ!!」


狭い空間に押し入るように入り込んできたのは、美しく整えられた甲冑を纏い、帝国の旗を掲げた正規軍。

その中央から皇帝その人が進み出た。



「・・・父上・・・!」


「サルバドール、愚かなことよ。

 

 ・・・皇帝の名において宣言する。

 第二皇子サルバドールを皇室より除名。

 

 身柄を拘束する。捕縛せよ」


「な・・・!!

 なぜですか!!父上!!」


「それが分からんようでは救いようがないな。

 まあ良い、これからみっちり再教育だ」


あっという間に正規軍によりぐるぐる巻きにされたサルバドールは、周りの傭兵たちに助けを求める。唾をまき散らして叫ぶが、社長であるデルーカスは動かない。


「デルーカス!

 貴様、主を助けろ!!」


「殿下、いや、サルバドール様。

 勘違いしないでもらいたい。

 あんたは俺の主ではない。あくまでビジネス上の契約者だ。

 皇室から除名になったとあっちゃ、

 俺たちがあんたに与するメリットはないね」


ここでビジネスは終了とさせてくれ、と吐き捨てた。


「申し訳なかった、教皇、また回復術士の諸君。

 キラーヤ殿も、申し訳なかった。

 私はすぐに立ち去ろう。護衛に軍は置いておく」


そう言って撤退しようとする皇帝を、止める声がした。


『皇帝陛下、聞こえますか』


ルカリアである。


モニター内ではキラーヤたちの準備が整ったようで、アラクネが繕った揃いの白い服で全身を覆った人間と魔物達が、腕組みして仁王立ちしている。


『まだ、この場に役者が揃っていません。

 俺が話さないといけないこともまだある。

 どうか留まって頂けませんか』


「・・・それは構わんが。

 キラーヤ殿、いいのか」


『構いません。

 でも、こっちはこっちで始めます。

 ルカリア、喋ってていいけど、腹は切るよ?』


『ああ、構わない。

 キラーヤ、始めてくれ』



その言葉に、皇帝はその場にどっかり座り込んだ。


皇帝も、ルカリアが言う「役者」が誰か、分かっていた。


ルカリアの命を奪おうとした黒幕。


ー『知の賢者』トライツを、待ち構える。




『では、始めます。

 麻酔の痺れ粉』




 

 



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