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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag
第一部 「まもの使い」編

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「どうですか?キラーヤ様」


ディアドラが未だ鏡面を睨み付けるキラーヤに話しかける。


「んー、うん。

 多分、あった」


そうして指を指したのは、輪切りになったルカリアの身体のうち、腹の部分。

黒く映る腹腔内脂肪の中に、削り取った石らしき白い物体が映っている。

サイズでいうと小指の爪より小さく、そして薄い。


「えっと・・・これはどこのあたりですか?」


リンネが聞く。


「一番下の肋骨の少し足側。

 ちょうどお腹の正中。

 深さは・・・良かった、臓器内じゃないや」


だが、皮膚・皮下組織・筋膜を越え、腹腔内には達している。

つまりそれを除去する際には、それらを順に切り開き、除去したあとまた縫合して閉じる、ということをしなければならない。


キラーヤが外科の医師であったならば、正直難易度としてはかなり低かっただろう。


しかしキラーヤ、専門は外科ではない。


メスを始めとした手術道具など、初期研修を終えてからこっち、数年は触っていないのだ。


「縫合だって結構久しぶりよ?」


そもそも、道具がない。


「・・・作戦会議をします。

 ディアドラ、壺から机と椅子を出してくれる?

 あと紙とペン。

 ルカリアは頑張って少しずつスムージー飲んで」


「承知致しました」


「ああ、分かった」



ーーーーーーーー


ロットンの映し出すCT画像を見ながら、キラーヤは解説する。


「まず、この一番表面の白い部分。

 これが皮膚。その下の黒い部分は皮下脂肪よ。

 ルカリアは痩せ型だから凄く少ないけどね。

 で、その下のまた白くなっている部分。

 これが筋肉。筋肉は左右に分かれているのが分かる?

 これが腹筋の正中線よ。

 ルカリア、ちょっとお腹に力入れて」


ルカリアは言われるがまま、腹筋に力を入れる。

見事なシックスパックである。

キラーヤはその正中に走る縦の線をつつつ、と指でなぞる。


「ひえっ・・・お前なあ!!」


情けない声を上げるルカリアに対し、キラーヤはごく真剣である。


「幸い、ご神体はこの正中線の真下にあります。

 切開アプローチもここからでいいと思う。

 縦切りのほうが筋組織を傷つけにくいし、

 そうしよう」


キラーヤは摘出術の手順を書き出し始める。


「まずは麻酔。

 麻酔は痛みの感覚を遮断する痺れ粉を出す魔物がいたから、

 それをルカリアに吸って貰う。

 意識はあるままだけどね。

 そして皮膚切開。

 ここで少し血が出るから、ガーゼで押さえる。

 鑷子がいるな」


「鑷子とは?」


シルヴァが問う。


「道具の名前よ。

 いくつか種類が必要だから、後で説明する」


「はい」


「そして脂肪を少しずつ切開して筋膜を露出させる。

 脂肪を切るときは電子メスを使っていたような。

 メスはカマキリの魔物の能力を指に発現すれば・・・

 できた」


そう言うと、キラーヤの右手人差し指がナイフ状に変化する。


「これに熱を加える・・・やれるかな」


そのナイフに九尾の熱を徐々に加えると、


「お、良い感じ。いけそう。

 これで止血しながら切り進められる」


再びペンを持ち、


「そして筋膜切開。

 筋を左右に開けて視野を確保。

 筋鈎がいるな」


「ご神体がいそうな部分は脂肪ごと取ってしまおう。

 そして縫合。

 縫合に必要なのは・・・糸と、持針機。

 吸収糸なんて贅沢は言わないでおこう」


キラーヤは真面目に外科研修をした数ヶ月に感謝した。外科の先生方ほどの技量はなくとも、見よう見まねで計画は立てることができた。


そして必要な器具をイラストで描き出していく。


「こういう形の器具が必要なの。

 鑷子は組織やガーゼをつまむ道具。

 筋鈎はヘラを曲げたような器械で、

 筋肉を傷つけずに横に避けておくの」


「ナマケモノの魔物の手がかぎ爪状です。

 呼んでおきましょう」


「じゃ筋鈎はそれで。あと糸はアラクネ。

 針はニードルバードにお願いしよう。

 持針機はさすがに無理か・・・」


そこに掌にも満たない小さな小さなニードルバードがやってきて、机の上からキラーヤに話し出す。


「今聞いてた話だと、最後に身体を縫うんだよね?

 僕ら、巣を作るときに茎とか蔦とかを咥えて、

 木の皮を縫ったりするんだけど」


「え?見せて!」


そう言うと、壺の中にあった適当な布とアラクネの糸を渡すと、ニードルバードは器用に針状の嘴に糸をくわえ、布地に嘴を突き刺した。そしてまた器用に嘴だけ抜き、対側に残った糸をすいっと通して見せた。


「最高!!それを結べばいいのね。

 じゃあ鑷子があれば縫合はできるね」


「あの、鑷子、ですけれど」


リンネが手を挙げた。


「似たようなものが、神殿にあります・・・」

 

聞くと、調理場で小瓶の中のものを取る道具に似ているものがあるらしい。


「うーん、でもこの部屋開けられないしなあ」


「身代金として要求しますか?」


ふと忘れていたが、前室の壁を千里眼で透過して見てみると、やたらたくさんの職員たちが前室の前に集まってきている。


そしてさらに見通すと、第二皇子の軍勢と、なぜか皇帝が馬に乗って率いる軍が神殿に向かっているのが見えた。


「えーっと、回復術士の皆さん、聞こえますか?」


キラーヤが問いかけると、

壁の向こうでキョロキョロざわざわ騒がしくなるのが分かる。


「聞こえているみたいね。

 その様子だとこっちの部屋のことも見えてる?」


うん、うん、と何人かが頷いている。


「改めまして、私は『まもの使い』キラーヤ。

 これからこの患者の体内に埋め込まれた神体を除去します。

 申し訳ないけど、この部屋をもう少しだけ貸してほしいの。

 除去した神体は必ずお返しします」


偉い人らしき老人が深く頷く。


「あとついでに、

 調理場にあるっていう、

 物をつまむ道具も貸してくれると嬉しいなあ」


そう言うと、幾人かが走って行くのが見えた。


「あ、そうそう。

 今、第二皇子となぜか皇帝がこっちに来てるわ。

 もうすぐ神殿の敷地に到着すると思う。

 この部屋に攻撃を仕掛けるかもしれないから、

 そうなったら皆さん逃げてね。

 お怪我なきよう頼みます」


その言葉を聞き、偉い人らしき老人が口を開く。


「初めまして、まもの使い殿。

 私はこの神殿の責任者、教皇と呼ばれる存在。

 ご神体の回収への協力、感謝する」


教皇の言葉を聞き、キラーヤは眉を上げる。

どうやらそういう建前になっているらしい。


「まもの使い殿、

 第二皇子と皇帝はどちらが先に到着する?

 私の聞き及んだ話だと、

 貴殿を討つために第二皇子が走り、

 それを止めるために国軍が走っていると聞いたが」


「ああ、国が止めてくれようとしてるのね。

 先に到着するのは残念ながら第二皇子よ」


その言葉を聞き、ルカリアが反応した。


「皇帝がここに来るのか」


「そうみたい。

 皇帝もダスティ大臣も馬に乗ってもうすぐ近くよ」


「ちょうどいい。

 俺からも皇帝には伝えることがあるしな」


「ちなみに、

 リグレオール皇子とトライツもこっちに向かってるわね」


「・・・そうか」


そうこうしているうち、鑷子もどきを数本もった職員が駆け込んできて、空にそれを掲げた。


「そんじゃ、扉の前のハイエルフに渡してくれる?」


キラーヤが促すと、


「それには及ばん」


と教皇がそれを受け取った。何か呟いたと思ったら、キラーヤの目の前に鑷子が転送されてきた。


「秘術?すごいね」


「これは忙しい神殿の中で物品の輸送に使う術だ。

 ここの回復術士はたいてい使える。


 こちらのことは案ずるな、ご神体の回収を頼む」


「承知致しました」


キラーヤは恭しく礼をすると、再び仲間に向きあった。


「さ、やるよ」


ーーーーーーーー



「まさか、本物の『まもの使い』だとはな」


教皇はぽつりと呟く。

緊急伝達でその話を聞いた時には、荒唐無稽だと思ったが。


「恐らく、皇室は彼女のことを把握していただろう。

 そうでなければ、いくら黒髪だからとはいえ、

 いきなりまもの使いと誤認することもあるまい」


「皇室は静観する意向、第二皇子だけ討伐する意向、

 ということでしょうか」


「だろうな」



そうして前室をモニターで見守ること、しばらく。


けたたましい馬のいななき、ガチャガチャと大きな金属を立てて、第二皇子、いや皇室から除名されたサルバドール率いる傭兵団が神殿に到着した。


除名されているとは知らないサルバドールは皇室の旗を掲げ、


「第二皇子サルバドールである!

 神殿に悪しき者が侵入した!

 これより皇室の名の下に、討伐に入る!

 道を開けよ!」


と高らかに告げた。


伝達に来た門番から事の次第を聞き、教皇は静かに「抵抗せぬよう」と指示を出す。


案内に立てた職員に連れられ、第二皇子はエントランスに到着した。


教皇は椅子から立ち上がり、サルバドールを出迎える。



「教皇、出迎え感謝する。

 あいにく時間がないのだ。

 早急にご神体の間を開けよ」


教皇は緩やかに首を横に振り、


「なりませぬ。

 ご神体の間がどういう場所か、

 殿下もよくご存じでしょう」


「しかし、あの場所には悪しき者が!」


「本当に悪しき者であれば、

 よりあの場所を開けるわけには参りません。

 開けずとも、女神が御許にお召しになります」


「だが、不当に連れ去られた者も一緒にいるのだ!

 私は彼を救い出さねばならん!」


「であれば、我々にお任せください。

 どうぞその武器を納め、神殿からお引き取りを。

 ここには病める者が多く訪れます。

 

 何より、前触れもなく兵を率いてきたあなた様を、

 神殿は歓迎しておりません」


その言葉を聞き、サルバドールはカッとなった。

頭に血が上り、まくし立てるように怒鳴る。


「ルカリアは病を得ている! 

 その状態でご神体の間に入れば、

 長くは持たない!

 俺は彼を救わねばならんのだ!」


そして剣を抜き、教皇に突きつけた。


「抵抗するならば、斬る」


「戯れ言を」


「本気だ!!」


血走った目で叫ぶサルバドールに、教皇はひとつため息を落とした。


「・・・後についてこられよ。

 ただしその物騒な武器はしまうことです」


そう言って背を向けた教皇に、肩で息をするサルバドールはひとつ舌打ちをし、背後の傭兵たちに武器を隠すよう指示した。


そして神殿内部へと、足を踏み入れたのである。




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