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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag
第一部 「まもの使い」編

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「な、なんだ、伝えておく事って」


そう呟いたのは、前室のさらに前のスペースに詰めかけた、神殿の職員達であった。


実は前室の扉前、神々しい面子に侵入を防がれた職員達は、秘術を使って前室内の様子をモニタリングしていたのである。


扉の前に座しているシータは思う。


『こいつら、キラーヤのやることに興味シンシンだな』


モニタリングが始まってからと言うもの、最初数人だった職員はどんどん増え、奥からは恐らく地位の高いだろう人間もやってきた。


最終的には、やたら豪奢で重そうな服を着た、「教皇」と呼ばれる老人まで椅子を持ち出しやって来て、キラーヤたちの様子が映し出された白い壁を食い入るように見ている。


それらがキラーヤの言葉を受け、揃って首やら股やらを触っているものだから、吹き出すのを堪えるのに精一杯になってしまった。



モニターの中のキラーヤは語る。


『リンネ先生、シルヴァ先生。

 私はこの患者・・・ルカリアの体調不良は、

 あなた方のご神体が原因だと思っています。


 恐らく、削り取られたご神体の一部が、

 身体のどこかにある。

 

 あなた方の信仰が悪用された可能性があるの』



職員達は一斉に声を上げ始めた。


なんだそれは、何の根拠があって、何を言っているのか。


キラーヤは続ける。


『私の優秀な仲間、

 ディアドラはその匂いを覚えている。

 ディアドラ、その意見に相違はない?』


『相違ございません。 

 先ほどご神体の間に入ったからこそ、

 より確証を強くしました。

 ルカリア殿はご神体を身体に仕込まれ、

 時間をかけて生命力を吸われたものと思われます』


その声を聞いたひとりの職員が声を上げた。


「あれは・・・ヨーク博士。

 ディアドラ・ヨーク博士ではないか。

 ロインの魔物研究所の教授だ」


地位のある人間の言うこととあって、職員たちの表情に戸惑いが宿り始める。


「まさか、本当にご神体が削られたのか」


「教皇、すぐに確かめませんと」


教皇、と呼ばれた老人は深く頷く。が、その視線はモニターから離れない。


「・・・うむ。しかし、

 それはこの顛末を見届けてからで良かろう」


その言葉に、職員は一斉にまた壁に見入った。



ーーーーーーーーー



「ご神体が・・・」


「どうする?この先も私と一緒に進む?」


キラーヤは問いかける。

ここから先は「医学的興味」と「信仰」の分岐点だ。

医学的興味のままにルカリアの身体を探れば、彼らの信仰を踏みつけることにもなりかねない。


シルヴァはすかさず答えた。


「進みます、キラーヤ先生」


「いいの?

 ご神体を病原として除去するなんて、

 下手したら破門ものよ」


「いいです。

 それにもし本当にご神体が悪用されたならば、

 よりこの患者を救わなければ。

 ご神体が徒に命を奪う手段に使われるなど、

 それを見逃すことこそ信仰に反する」


「私もそう思います」


リンネも答えた。


ふたりの意思を確認すると、「では、続きを」とルカリアに向き直った。


「これから身体のどこにご神体がいるか、

 それを探っていくわけだけど。

 

 考えられる可能性はいくつか。

 1、イージーケースとして、

 衣服に縫い付けられている可能性。

 あるいはご神体を細かく砕いて塗り薬などに混ぜ、

 身体の表面に塗りつけられているとか。

 これはそれを除去してしまえば問題ない。

 

 2、身体のどこかに直接埋め込まれた可能性。

 それを許したルカリアが大間抜けってことになるけど、

 この場合腹なり胸なりを切り開いて除去が必要。

 できるかは分からないけど。


 3、砕かれたご神体を、

 水や食事と共に体内に摂取している場合。

 これは残念だけど、現状手出しできないわ」


「も、もし3だったらどうするんですか」


「それなら・・・そうだね。 

 代謝や排泄でご神体が体内から出切るまで、

 療養しながら瘴気の森ででも暮らすよ。

 何年もかかるかもしれないけどね」


そう言ってルカリアを見ると、ルカリアは驚いたようにこちらを見ている。


「なによ、その目」


「いや・・・そこまでしてくれるのかと、

 ちょっと驚いただけだ」


「そのくらいの覚悟はあるわよ。

 あんたは恩人だからね」


「いや・・・そうか」


「でも、その前に力尽きてしまうのでは?」


シルヴァが容赦なく切り込んでくる。


「えーとね、説明が難しいんだけど。

 まもの使いは仲間の縁を繋いだ魔物に、

 私の魔力を分け与えることができるのよ。

 

 で、よく分かんないんだけど、

 さっき試したらルカリアとも縁が結べたの。

 

 で、私は瘴気さえあればそれを魔力に変換できるから、

 多分持久戦になっても勝ちきれると思うのよね」


「すみません!!全然わかりません!!!」


リンネが叫ぶ。


そりゃそうだ、意味分からんだろう。


「ま、この辺の話は追々。

 でもひとつだけ伝えておくと、

 人間の間で毒とされている瘴気なんだけど。

 薄めれば人間や作物の栄養になるからね」


「その通りです。

 ルカリア殿、こちらをどうぞ」


そう言ってディアドラが持ってきたのは、例の瘴気スムージーをごく薄く水でのばしたものである。


ご丁寧に植物の茎でできたストローまで差し、ルカリアの口元に持って行った。


「ありがとう」


「おや、素直に飲むんですね」


「当たり前だろ。

 俺は思ったより教授のことも信用してる」


「それはありがたい」


スムージーは特に目立った変化をもたらさなかったが、栄養とはゆっくり補給するものだ。それで良い。


「よし、はじめよう。

 アラクネ召喚!」


森から召喚したアラクネはその異様な光景に大いにたじろいだが、


「わ、私何すればいいの?」


と早々に腹をくくったようだった。


「今からルカリアの服を引っぺがして処分するから、 

 至急で変わりの服を作って。

 前開きの上着と下着が優先かな」


それを聞いたアラクネ、嬉しそうに身をくねらせた。


「すでにご用意ございます~~!!」


「え、ほんと?」


「ほんとほんと! 

 久しぶりの成人男性だもの、

 インスピレーションが湧いちゃって!

 ちょっと作って家に飾ってあるの。 

 あ、でも下着は今から作るね」


「よろしく!」


一度森のアトリエに戻り、早速男性用の下着を作るというアラクネを送り出し、その間にキラーヤは解説した。


「これから行うのは、1の除外。

 まずは衣服を剥ぎ取って、処分して、

 それから身体を表面くまなく調べます。


 さっきは外傷をメインで見てたけど、

 今回は変な付着物がないかと主に見るのね。

 ついでにさっきより念入りに拭くの。

 そしたらディアドラに嗅いでもらう」


「はい!」


「嗅いでもらう・・・」


元気に返事をするリンネと、気まずそうなシルヴァ。


しかし善は急げとよいしょよいしょと下着以外の服を脱がせ、一カ所に固めて置く。

その間に濡れ布巾で身体をこれでもかと拭う。


「い、いたたまれない」


ルカリアが情けない声を出すが、


「だまっらっしゃい」と一蹴した。


あっという間に作成した下着と、柔らかな新緑色のロングガウンを手に戻ってきたアラクネから衣服を受け取る。


同性であるシルヴァに下着の交換とそのあたりの清拭、ついでに着替えを頼んだ。


「これでよし」


剥ぎ取った衣類と身体を拭くのに使った布巾を風呂敷で一式包むと、九尾を召喚してそれをぽーんと投げる。


「九尾!これどこか延焼しないところで焼いちゃって!」


「分かったわ、

 岩山の岩の間で焼いてくる!」


「念のためどこで焼いたか目印付けてきて!」


「りょうかい!」


風呂敷を持ってどこかへ消えていく九尾を見送ると、



「さて、ディアドラさん、頼みますよ」


キラーヤは魔人に指示を出した。


「合点です」


ディアドラはルカリアに近づき、顔を近づけ全身嗅ぎ回る。


どこかで「絵面ァ・・・」という声が聞こえたような気がしたが、関係ない。使える能力は全て使うのだ。


やがてディアドラが身体を起こし、


「残念ですがまだあります。

 恐らく身体の中ですが、匂いに偏りがあります。

 腹あたりが一番濃い。この辺にあるかと」


と結論づけた。


「じゃあロットン、出番!」


「あいあいさー!」


いよいよ画像検査である。

本体の鏡の姿を顕現させたロットンの中に、ルカリアの身体を宙に浮かせて通す。


ロットンは分かりやすいように、その鏡面にスキャン画像を映し出してくれた。


「ありがとうロットン。

 今の記録して、

 行ったり来たり見直しができるようにしてくれる?」


「あいあい!」


「よし、一旦ゆっくり頭から足まで映して」


「あい!」


キラーヤは二人の回復術士に、


「これが人間の身体の中の断面図。 

 臓器の位置、血管の走行、

 そういったものが映し出せる。

 この検査は人間では再現難しいかな」


「す、すごい・・・」


「キラーヤ先生、

 これでどうやって病を見つけるんです?

 ご神体が光ったりするんでしょうか」


「いいや。ただただ、

 正常と違うところをしらみつぶしに探すだけ」


そうなのだ。

画像検査は決して「ババーン!!」みたいな派手な検出はしてくれない。

ひたすらに正常画像と比べ、異常をあぶり出していく地道な過程なのだ。


「ま、それでも身体を透視できるのはありがたいよ。

 この場で正常が分かるのは私だけだし、

 ちょっと時間ちょうだい。頑張るから」


そう言ってキラーヤは、見慣れない鏡面のCT画像を検分しだす。


「足側に行って。そこ、ちょっと戻って」


ロットンに細かく指示をしながら、

じろじろと画像を見つめる。


その背中を見て、リンネはこそっとシルヴァに呟いた。


「なんだかとっても・・・堅実なんですね。

 術って言うから、もっと凄いものかと思ってました」


シルヴァは軽く首を振る。


「いや、これはこれで凄い。

 キラーヤ先生がやっているのは、

 魔法のまねごとじゃないんだ。

 まるで家を設計するように、

 緻密で、順序立てて考えている。


 ・・・俺が学びたいことが、

 すぐ近くにあるような気がする」



ーーーーーーーーーー


扉の向こう、集まった回復士たちはシルヴァの言葉に顔を見合わせる。


みな、口には出さないが、キラーヤの診療に釘付けなのだ。


「・・・第二皇子が来たら、どうしましょうか」


教皇の側近が呟く。

多くの回復術士には、これからこの場所を目がけてやってくる第二皇子の事は伝わっていない。


教皇は重い口を開き、


「正規軍に任せる。

 我々はこの部屋を開けることを許可しない。

 ・・・患者の安全が最優先だ」


と、言った。


側近は戸惑った。


この言葉は重い。

信仰の頂点にある教皇が、「病を治す」という背信行為を容認したのだから。


その戸惑いが伝わったか、教皇は肩をすくめる。


「仕方があるまい。

 前室は『まもの使い』に占拠され、

 人質まで取られているのだから。

 我々は戦闘を望まない。だから従うのだ」


そう言った教皇の目は、相変わらず食い入るように壁のモニターに張り付いていた。 

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