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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag
第一部 「まもの使い」編

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「さあて、まずは。

 状態を把握するところから始めましょう」


キラーヤはふたりの回復術士に語りかけながら、診療の開始を合図した。


ルカリアは現在、スライムベッドに横になっている。

キラーヤと魔力の交通をさせてから、血色は良く呼吸も安定している。


「その前に環境整備ね。

 ディアドラ、綺麗な水を出せる魔物はいる?」


「もちろん。

 カモノハシの魔物がいます」


「ちょっと呼んできて」


「それは私がやるよ!」


鏡の付喪神ロットンが、本体である鏡の装飾にある妖精の姿を借りて手を上げる。水鏡も含めて、この世界のあらゆる鏡を行き来できるロットンなら、魔物のスカウトはお手の物なのだ。


あっという間にカモノハシの魔物を連れてきたロットンは誇らしげだ。


「お見事!いい仕事!」


キラーヤに褒められて嬉しそうに飛び回っている。


「さてカモノハシ君、

 ちょっとしばらくお水供給係やってくれる?」


良く分かっていない様子で頷いたカモノハシを部屋の隅に置き、壺から取り出したトレイの中には普段汚水処理に活躍してくれているスポンジ型の虫魔物を放つ。


「まずは手洗いから。

 カモノハシくん、お水よろしく」


綺麗な水をだばだば吐き出したカモノハシの口元で、

キラーヤは流水と商店で買った石けんを使い、手だけでなく手首までしっかり洗った。


「さ、あなたたちも」


促されてリンネとシルヴァも入念に手を洗う。


「この世界には、

 人の目に見えない生き物が無数にいるの。

 それが人の傷口や体内で巣を作ると、

 熱が出たり痛みが出たりして命に関わるのよ。

 しっかり手を洗うのはその生き物を除去するため。

 細菌とかウイルス、って私は呼ぶわね」


その話を聞いて心配になったのか、ふたりは慌てて2回目の手洗いを始めた。


「まあ、洗っても完全に除去はできないから、

 ほんとに必要な時は私が除菌するから大丈夫」


そう言うと、次に濡れ布巾を作ってルカリアの身体を拭き始める。血で濡れた口元を拭き、口を開けさせてのぞき込む。


「暗いわね。

 確かダンジョンにライトの魔物がいたはず」


「ライトマンですね。呼びましょう」


呼ばれてきたのは部屋のスタンドライト。と思ったら、ぐにゃりと動き出す。腰を折るように支柱を曲げ、頭にあたるライトを深く下げる。

両手にあたるサブライトを腰の前後に置き、とっても紳士な礼を取る。


「ライトマン、お願い!

 手のライトでこの人の口の中、照らしてくれる?

 傷がないか確認するわ」


ぴょんぴょんやってきたライトマンは右手で器用にルカリアの口の中を照らす。

キラーヤは口腔内の粘膜の傷や歯のぐらつきがないかを確認する。


「ほっぺたの中噛んでるね。

 血はほとんど止まってるけど」


ほら、と回復術士たちにも見せていく。


「血が出てるなら出血源を特定する。

 そして清潔にする。除菌、っと」


「そ、その除菌、とは何でしょうか。先生」


先生、と呼ばれてキラーヤは面食らう。


「久しぶりにその呼び方されたな・・・

 懐かしい」


キラーヤの面前に、かつての職場の光景が蘇った。

同僚や看護師さん、色々な人から、

「吉良先生」と呼ばれた日々。


充実した検査器具や治療薬、

細分化された専門科の中で、頼れる各科の同僚医師がいた。


あの日々がどれだけ恵まれていたか、

今のキラーヤには分かる。


「今は・・・私ひとりだもんね」


リンネの質問に答えず、ぽつりと呟く。

すると首元から、「ひとりじゃないよ」と声がした。


ずっと忘れていたが、クダギツネを首に巻いていたのだ。

もはや自分の一部のようになったクダギツネが、ひょろりとキラーヤの頬を撫でる。


「何でも言って、僕頑張るから」


そう言ったクダギツネの目を見て、キラーヤは思い出した。


「そう、だったね。

 全然ひとりじゃなかった。

 でもごめん、毛が入るといけないからちょっと離れてて」


「ひどーい!」


そう笑ったことで力が抜けた。

改めてリンネに向き直り、


「除菌っていうのは、

 さっき言った目に見えない生き物を殺すことよ。

 私は技を使えるけど、

 人間だったら高精度の酒精や沸騰したお湯で除菌するの」


「な、なるほど」


「細菌やウイルスが身体の中で増えてしまうことを、

 感染と呼びます。

 これらについてはまた改めて」


「は、はい!」


「キラーヤ先生」


「はい、シルヴァ先生」


「技とは、何ですか。

 あなたは先ほど『まもの使い』と言ったが、

 それはいったい?

 あとこの魔物達、普通に会話できるんですが、

 彼らは特別な魔物ですか?」


そういえば説明し忘れていた。


「私はジョブが『まもの使い』なの。

 ほら、こうやって、色んな魔物の力を借りることができる。

 私はこれから、彼らの力を借りて治療をするのよ。

 あと魔物の声が聞こえるのは私の能力の影響。

 彼らは普通の魔物よ」


怖くないから安心して、と言葉をかけると、

シルヴァは覚悟を決めたように深く頷く。


ルカリアの身体の外傷をチェックし終わると、

次は身体診察に入る。


「まず基本の体温・血圧・呼吸ね。

 SpO2は諦めよう」


SpO2・・・血中酸素飽和度は、血液中に充分に酸素が行き渡っているかの重要な指標だが、今は測定する術がない。

また体温や血圧だって今は正確に測定はできないため、目安でやるしかない。


「体温はこう!」


と、キラーヤは自分とリンネ・シルヴァの額を順番に触り、最後にルカリアの額を触る。


「うん、変わりなし!熱なし!

 ちょっと低いくらい!」


リンネとシルヴァも倣って比較する。


「血圧はこう!」


人差し指、中指、薬指を揃え、ルカリアの首にそっと触れる。


「脈よーし」


「キラーヤ先生、

 血圧って、何ですか・・・」


おずおずと手を挙げるリンネに、キラーヤは頭を抱える。

そうだった、そこからだった。


「心臓から栄養豊富な血液が、

 身体全体にちゃんと行き渡っているかの指標よ」


「なるほど」


「高ければ良いってもんでもないの。

 これについてはまた追々」


「はい!」


「あと、今は首を触ったけど、

 太い動脈が体表から触れるところは他にもある。

 例えば」


そう言って、ルカリアの手首の内側、肘の内側、

そして鼠径・・・足の付け根を触る。


「いずれも脈よーし!」


「そ、そんな、異性のそんなところを・・・?!」


シルヴァが非難めいた目で見るが、


「仕事なら割り切りましょうよ、先生。

 ほら、触ってみて。

 この動脈は特に太いから触れやすい」


そう言って無理矢理シルヴァの手をルカリアの鼠径にやった。

どく、どく、と、脈動する血管が触れるはずだ。


「本当だ。良く分かる」


「今は羞恥心とかそういうの忘れていきましょう。

 大事なのはしっかり全身状態を把握すること」


「はい、先生」


そのとき、ルカリアが薄く笑った。


「キラーヤお前、本当に先生なんだな」


「そうよ、そう言ったじゃない。

 リンネ先生にも触らせるからね」


「おいおい、俺の尊厳はどこいった」


「協力してよ、患者さん」


「分かったよ、煮るなり焼くなり任せる」


そして恥ずかしがって顔を真っ赤にしたリンネ先生も無事大腿動脈に触れる。


「呼吸は・・・呼吸が早くないか、

 苦しそうじゃないか、胸が正常に上下しているかを見る。

 もし片方の胸しか動いていないことがあれば、

 それは異常よ。胸の中に病があると分かる」


「はい」


「では、続いて身体診察に入ります」


キラーヤは次々と身体を触っていく。

下瞼を引き下げ、首筋を触り、指で胸を軽くタップし、お腹を優しく押す。

四肢を持ち上げ、力を入れさせ、患者にも動かして貰う。


その都度、自分が今何を見ているか、

どうなったら異常か、かいつまんで説明していった。


そして、


「身体診察上は眼瞼結膜の色調から貧血を疑う程度。

 その他特記すべき異常なし、と考えます」


と結論づけた。


「では、画像検査に移ります。

 その前に、二人には伝えておくことがあります」



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