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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag
第一部 「まもの使い」編

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「・・・行ったのか」


サルバドールは『神殿に全戦力を』とだけ言い、それまで使用人ごと屋敷を包囲していた傭兵たちを引き連れ出て行った。


残された使用人とリグレオール、そしてナディーンは顔を見合わせる。


「・・・サルバドール兄上は、

 何をするつもりなのでしょうか」


「神殿へ全戦力を、と言ったな。

 神殿に戦を仕掛けるつもりか。

 皇室が神殿に襲いかかるなど、本当に国が滅ぶぞ。

 しかも大義名分を明確にせずに」


「兄上、すぐに父上へ伝達を」


「ああ」


そう言ってリグレオールは自らの胸に輝く勲章を外し、その裏に刻まれた魔法陣を発動した。


「皇帝陛下、応答願います」


これは伝達秘術の魔法陣である。緊急時の伝達に使い、皇室のメンバーほか大臣級、また賢者たちも持っている。


「リグレオール、どうした」


皇帝はすぐに反応した。

リグレオールはサルバドールの狼藉について話し、彼がまもの使いを討伐するつもりであること、図書館内で何があったかは不明だが、その舞台を神殿総本山に定めたようだと説明する。


「・・・馬鹿なのか、あいつは」


「ええ、大馬鹿者です」


「皇室の名を掲げた傭兵くずれが、

 大義名分も明らかにせず神殿総本山に攻め入るとは」


「父上・・・」


「この回線を神殿の教皇に繋ごう。

 あとトライツにも」


「は」



・・・かくして、緊急のオンライン会議が整った。

急に連絡が来た教皇は訝しげだが、揃った面子からただ事ではないと悟ったようだ。


『いかがされました、皇帝陛下。

 それに第一皇子、賢者様も』


「教皇よ、誠に申し訳ない。

 端的に言おう。

 第二皇子サルバドールが、

 非正規軍を率いて総本山に向かっている。

 もちろん皇室の意思ではない」


『な・・・なぜです!!

 我々が一体何をしたと!!』


「教皇よ。

 奴の大義名分は我々にも不明だ。

 すぐに我が正規軍を出し、貴殿らを守ろう」


『経緯については僕からご説明します』


口を開いたのは『知の賢者』トライツだ。


『殿下の狙いはご神体の間です。

 

 僕はとある方とロイン大図書館最下層にて、

 任務にあたっていました。

 その途中で彼は病に倒れ、脱出困難となりました。

 回復しないと判断し、

 僕が魔法陣に乗せることを決めたのです』


『なるほど。あの領域では貴殿の判断が正義だ。

 筋は通っている』


『実はその場に乱入してきた女性がいました。

 彼女はかつて彼と共に旅をしていた人物です。

 何らかの手段で僕らの元へ辿り着きました。

 

 二人はよほど思い合っていたのですね。

 彼の元を離れず、共に魔法陣に乗ることを選びました』



皇帝の眉がぴくりと動く。



『女性が大図書館に潜った時、

 侵入者として警報が鳴りました。

 それを聞いて駆けつけたのがサルバドール殿下です。

 ですが、殿下は勘違いをなさいました』

 

トライツは蕩々と続ける。


『実は病に倒れたのは、

 殿下が以前からご執心の秘術師でした。

 殿下が駆け込んできた時、

 ちょうど魔法陣に乗る二人をご覧になった。

 そして…女性による誘拐だ、と』


教皇は思わず吹き出した。


『女性が秘術師を誘拐?

 馬鹿げている』


『はい。ですが、そのようにお考えになった。

 女性がとある伝説の存在に似ていたからです』


『伝説の存在?』


『はい。「まもの使い」をご存じでしょうか。

 黒髪黒目、魔物を引き連れた魔物の女王。

 殿下は彼女がそうであるとお考えでした。

 そして、秘術師を救い出して彼女を討つ、と』


『出鱈目だ!

 陛下、どうにかしてくれるんでしょうな』


皇帝はトライツの演説を聞いたあと、

ふむ、と頷いた。


「無論。

 第二皇子サルバドールはこの時点より、

 国逆として皇家より除名。

 正規軍による鎮圧をはかる」



渋い声色の教皇を納得させ、会議の回線は切れる。

残ったのは皇帝と第一皇子リグレオール。


皇帝はさきほどのトライツの話に違和感を覚えていた。


『二人はよほど思い合っていたのですね。

 彼の元を離れず、共に魔法陣に乗ることを選びました』


トライツはそう言った。

だが、皇帝はつい先日、キラーヤに会っている。

そのときの彼女の言葉とは大きく食い違う。


「リグレオール。

 トライツと連絡を取れ。

 そして監視しながら総本山へ向かえ。

 …こたびの黒幕、奴かもしれん」


リグレオールと、隣に控えるナディーンはは大きく頷いた。




ーーーーーーーーーーーーーーー



「リンネ先生、シルヴァ先生!」


朗らかに歯を見せて笑う、魔物を引き連れた女性に二人は見覚えがなかった。


「えっと…どちらさまでしょうか…」


「あ、そっか、姿は見てないよね。

 森の神殿で一度お話してるんだけど。

 ほら、肩の痛みかと思ったら心臓だった患者さん。

 放散痛のお話したの、覚えてない?」


ふたりの回復術士は顔を見合わせた。


ふたりが総本山に修行に来るきっかけを作った、あの姿なき声。


「た、たしかに、声に聞き覚えが…」


「良かった!

 あ、私はキラーヤ。

 聞いてもいい?この部屋では術は使える?」


あたふたするリンネに代わり、シルヴァが答える。


「前室含め、

 ご神体の領域で術を使うことは禁じられている」


「なるほど、じゃ知らないか。

 よっと」


禁じられている、とシルヴァが言ったにも関わらず、キラーヤと名乗った女性はその場でぐるりと辺りを見渡した。


「…うん、大丈夫。ちゃんと使える」


「では、早速転移して治療を」


隣にいる焦げ茶の髪の女性がキラーヤに促すが、キラーヤは渋い顔だ。


「うーん。来てるなあ」


「来てるとは?キラーヤ様」


「さっきの馬鹿皇子、

 やたら大群引き連れて馬に乗ってる。

 これはこっちに来そうな勢いよ」


「うへえ。しつこいですね。

 では早速転移を」


「いやさぁ…」


さらにキラーヤは言い淀むと、言いづらそうに呟いた。


「ここで治療しちゃ、駄目かなぁ…」


「ここで?!なぜよりによって敵陣ど真ん中で?!」


「この前室、いいんだよね。 

 白くて明るくて、何もなくて。

 つるつるの床材といい、治療室にぴったり。

 あと…」


と言い、二人の回復術士をびしりと指さし、


「ちょうどいい人質、兼助手がいる」


指名されたリンネは縮み上がる。


「な、なにを?!人質?!助手?!」


「そう。

 今から患者を治療します。

 回復術じゃない、原因を探って治す治療よ。

 興味ない?」


リンネの喉が鳴る。


興味は…ある。

それを夢見て、この総本山に来たのだ。

その手段があるならば、この目で見てみたい。


どう答えようか口をはくはくさせていると、

隣のシルヴァが声を上げた。


「…興味は、ある。

 貴女はその術を持っているのか」


「ええ、少なくとも貴方たちよりは」


にかっと笑ったキラーヤに、シルヴァは詰め寄った。


「頼む、見せてくれ。

 人質でも助手でも何でも良い。

 このとおりだ」


と、勢いよく頭を下げる。

リンネはハッとし、シルヴァに並んで頭を下げた。


「わ、わたしも!

 お願いします!」


キラーヤは腕を組むと、


「その意気や良し」


と大きく頷いた。


「ディアドラ、と言うわけで、

 この部屋を死守するわよ。

 頼める?」


「もちろん。

 ですが私はお傍から離れませんよ。

 魔物に関するアドバイスは必要でしょう」


「じゃ、誰に仕切って貰おうか」


「適任がいます」



その時、どこからかスピーカーで音声が聞こえてくる。


『リンネ先生、シルヴァ先生、

 ご神体の間に異常ないか』


ふたりの回復術士は顔を見合わせる。

キラーヤはそれを見ると、高らかに声を張り上げた。



「えー、こちらご神体の間、前室。

 この部屋をこれより占拠致します。

 リンネ先生とシルヴァ先生は人質です。

 

 我が名は『まもの使い』キラーヤ。

 この後押しかけてくる馬鹿皇子に伝えて。

 『患者を生かしたいなら指くわえて見てな』ってね」



音声の向こうが突然の部屋ジャック宣言に騒がしくなるのを確認すると、満足げな表情を浮かべる。



そして魔物の女王は部下達に指令を出す。


「治療部隊と籠城部隊に分かれるわよ。

 治療部隊はスライムと、

 付喪神ロットンを筆頭に順次召喚。

 籠城部隊の隊長は…」


「俺がやろう」


そう言って現れたのは、


「シータ!」


森の瘴気だまりの主、ハイエルフのシータであった。


「来てくれたんだ!」


「ああ、ディアドラが救援要請を送ってきた。

 相変わらず無茶をする。

 任せておけ、

 こういうときは人型に近い者のほうが良い」


「あら、じゃあ私も行くわ」


そう言って並び立ったのは妖精王、華のドレスの美しい姫君だ。


「この二人が扉を守ってたら、

 魔物っていうか神々しいわねぇ…」


「ジュエルドラゴンもつけますか?」


「いいかも。

 あんまり悪そうな軍団じゃなさそうに見えるし」




…かくして、慌てて駆けつけた神殿の職員が見た光景は。


「……神話の世界か?」



世にも美しい宝石をその身に纏った竜。


その尾に腰掛ける、

流れる銀髪を流した麗しき「森林の賢者」ハイエルフ。


そして鼻をくすぐる草花の芳香、

蔦で編まれたチェアに優雅に腰掛ける華の化身のような姫君が、



「お邪魔しないでくれる?」



とこちらをガンくれている、何とも言い難い図であった。









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