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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag
第一部 「まもの使い」編

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「待て、待てサルバドール!」


第一皇子リグレオールは後悔した。

弟の猪突猛進さ、話の通じなさを侮っていた。


「サルバドール兄上、

 『予見の賢者』として申し上げます。

 あなた様の行動は国に徒なすことになる」


リグレオールとともにロインに入った皇女ナディーンもサルバドールに言い募る。



・・・最低限の共と護衛を連れ早馬でロインに入った二人の皇族は、皇室からの正式な書状を持ってサルバドールの暮らす皇室別邸における主たる権限を自らに移した。


そして使用人への命令権を公使しサルバドールを自室にて謹慎・監視させ、サルバドールの企ての進行状況を把握し阻止する。



はずだった。



まさか、屋敷に入るやいなやどことも知れない傭兵のような男達に敷地を包囲され、皇室の護衛や屋敷の使用人ごとすべて軟禁状態にされるとは。


もちろん護衛達は戦い、また別邸の兵士たちも戦った。

だが男達は言った。


「皇子、皇女殿下。

 あなたがたに危害を加えることはありません。

 誠心誠意お約束します。


 ですが、サルバドール殿下は仰せです。

 『殿下らが抵抗するようなら、

 その度に使用人を3人ずつ殺せ』と」



なんとサルバドールは、別邸の使用人達を人質に、逆にリグレオールとナディーンを封じたのだった。



傭兵を引き連れて颯爽と現れたサルバドールは、二人を見て言った。


「何の用です、兄上、ナディーン。

 まあ、分かっていますよ。

 僕の侍従はコウモリのような男ですからね。

 父上に僕の行動を告げ口していることくらい、

 想定内です」


「聞け!サルバドール!」


「だから聞いていますって」


「『まもの使い』には手を出すな!

 国が滅びることになるぞ!」


「まあ、それくらいの危険性であって欲しいですね。

 望むところです。

 それに、僕の計画が上手くいったら、

 それこそ逆に国を救うことになる。

 この行動も咎められることはないでしょう」


絶句したリグレオールに代わり、皇女ナディーンが進言する。


「・・・サルバドール兄上。

 兄上はその『まもの使い』を討伐するおつもりですか」


「ああ、その通りだ、ナディーン」


「いったい誰が?

 誰がそんな真似ができるというのです」


「それはもちろん、ルカリ・・・」


「ルカリアは病に倒れました」


ナディーンは断じた。

目を見開いたサルバドールは、唇を戦慄かせて問いただす。


「どういうことだ。

 ルカリアは『知の賢者』と共に図書館で任務中だと」


「図書館内で身動きが取れなくなっています。

 任務前から体調が優れなかったのです。

 『知の賢者』は彼を介抱しています。

 ・・・回復術が効かないのです」


「なんだと!!」


激昂したサルバドールはナディーンの胸ぐらを掴んだ。

リグレオールが止めようとするが、傭兵に静止される。


「なぜ救出しない!!」


「回復術が効かないからです」


その言葉にサルバドールは口を閉ざした。


この世界では、『回復術が効かない』とはすなわち、女神の許への渡りの合図・・・余命宣告となる。それに抗うは教義への背信。サルバドールもそれをよく知っていた。


「そ、そんな」


「ですから兄上。

 『まもの使い』を討伐できる秘術師はいないのです」


「・・・お前は!!

 『予見の賢者』は何をしている!!

 占ったのか、ルカリアの行く末を!!」


「『予見の賢者』の占術は、

 個人的な興味で使うことは許されません」


その言葉を聞いたサルバドールは腰から剣を引き抜き、ナディーンの首筋に当てた。


「サルバドール!!」


リグレオールは悲鳴を上げる。


「占え、『予見の賢者』。

 さもなくば賢者の血をここで途絶えさせることになる」


「女神がお許しにはなりません」


「占えばいいのだ、それで私は宣託を得る、

 お前は血を流さずすみ国の損失を免れる」


「・・・兄上」


ナディーンはリグレオールを見る。


「・・・占術を許可する」


リグレオールのその言葉を聞き、ナディーンは目を閉じた。


「どうぞ、サルバドール兄上」


「では聞こう。

 秘術師ルカリアはこのまま死ぬ運命か」



『予見の賢者』ナディーンは目を閉じたまま、

紅い瞳の男の運目を占った。

ナディーンの意識は研ぎすまされ、世界の音が降りてくるのを待つ。


『・・・え?』


・・・降りてきた予想外の結果に、ナディーンは思わず目を見開いた。


「どうだ。結果は出たか」


『予見の賢者』は占術の結果に対して虚偽を言うことは許されない。


「・・・はい。

 秘術師ルカリアは、死なないと出ました」


「なんだと?!」


驚いたのはリグレオールのほうだった。


「女神の意思が覆るというのか」


「私にも分かりません。

 しかし、占術にはそう出ました」


その言葉を聞いたサルバドールは嬉しそうに剣を降ろし、


「やはりそうだ。

 ルカリアはそうでなくては。

 彼は回復する。

 そして悪しき『まもの使い』を倒す。

 舞台は整った」


と高らかに笑った。



そのとき、飛び込んできた街の衛兵らしき男から、図書館の抗魔結界が破られたという情報が入る。


「こうしちゃいられない、

 僕はルカリアを救出に向かいますよ。

 魔物なんかに彼を傷つけられたらたまらない。


 お二人はそこで大人しくお待ちください」


そう言って傭兵を連れて出て行ってしまった。




・・・そして、怒りに血相を変えて再び彼が戻ってきた時。

『まもの使い』がルカリアを連れ去ったとして、神殿に全戦力を向かわせると宣言した時。


リグレオールはさらに後悔したのだ。



「ナディーン、私はしくじった。

 私がすべきだったのは、

 弟との対話などではなかった。


 あいつはきっと、キーラ殿の話をしても聞き入れない。

 自分の物語を完成させるために、

 都合の悪い話は全て聞き捨てただろう。


 私がすべきだったのは・・・

 『国家反逆犯』との戦の準備だったのだ」



と。 




ーーーーーーーーー



リンネとシルヴァが、『ご神体の間』の業務を任されてしばらく。


ふたりの情熱は、灰色に燻っていた。



『ご神体の間』の前室の所定の椅子に掛けて、一日を過ごす。


その重い石造りの壁を開くことを許されるのは、一日に数度。


前室では、どういう秘術なのか、『ご神体の間』の中の様子と音声が絶えず映し出されている。


業務にあたる回復術士は、各地の神殿から送られてきた患者の声が途絶えたのを見計らい、部屋に入る。絶命を確認すると、その身体を元の神殿へ送り返すのだ。



苦しみもがきながら送られる者。

腹に大きな穴が開き、尊厳のために巻かれた布を真っ赤に滴らせる者。

自身の最期を悟り、静かに手を組み祈る者。



どんな人間にも等しく訪れる、死。

そしてこの部屋での最期の顔は、みな穏やかだった。



「・・・運命の理に抗うことは、罪だろうか」



前室の隣の椅子で、シルヴァは思わず呟いた。


「シルヴァ先生」


呟きを耳にしたリンネは、思わず聞き返す。


「すまない、ふと思っただけだ」


シルヴァは自らの右手を見つめ、さらに続けた。



「俺たちは回復術のさらなる向上を求めて、

 ここに来たはずだ。そうだな」


「ええ、その通りです。

 『症状の原因を考え、適切な術を』。

 その勉強に来たのですから」


「だが、そのヒントになるような学術本は、

 この総本山では見つからない。

 あるとすれば禁書の棚だ」


「・・・はい」


「まるで、

 『小癪な真似をするな』と言われているようだ。

 そうは思わないか」


「・・・先生の言いたいことは分かります」


リンネも軽く俯いた。


「この部屋で見るのは、

 あらゆる人に等しく訪れる死。

 どんなに学び、どんなに抗おうと、

 死の理から逃れることはない。


 ・・・私たちのやろうとしていることに、

 意味はあるのでしょうか」



・・・シルヴァは答えない。


「・・・命を長らえさせることを、

 考えてはいけないのでしょうか」


彼らの先輩回復術士は言った。


『ここにいる回復術士たちは、

 一度はみな背信行為に思いを馳せる。

 病を治せはしないのか、とね。

 だが、ご神体の傍で祈りを捧げる日々を過ごすと、

 そんな考えは浅はかだと知るのさ』


と。


「・・・帰ろうか、森の神殿へ」


シルヴァが言う。


「・・・そうですね」


リンネも答える。



・・・・・・その時。

新たな患者が魔法陣に乗って転移してきた。


だが、様子がおかしい。


床に倒れた男性が重篤な様子なのは分かるが、一緒に転移してきた女性はピンピンしている。


そして、話している内容が物騒だ。


「シルヴァ先生」


「しっ、・・・聞こう」


ご神体の欠片を身体に取り込んだという男性。

歴史上、ご神体を削るという禁忌を犯す人物がいたという話。

女性は壁を叩いて出すように懇願するが、シルヴァは首を振り、安易に出すことを許可しない。


事の進捗を固唾を飲んで見守る二人だったが、

魔物が次々出てきたあたりでは完全に予想の範疇を超え、

見ていることを気付かれないよう息を潜めた。


「シルヴァ先生、どうしましょう。

 助けを呼びに走りましょうか」


「・・・いや、待て、リンネ先生。

 この声、どこかで聞き覚えはないか」


「わ、分かりません、

 何ですかあの蔦・・・ヒッ!下から出てきた!!」


「本当に、

 彼らが手違いでこの部屋に送られてきたのなら。

 ただの危険人物なのか」


「先生、先生、あれ! 

 開けられちゃいます!!」


どうやら深く思考に入ったシルヴァは、こう見えてパニックに陥っているようだった。


そして、ついに。


無数の魔物と共に壁をこじ開けた黒髪の女性は、

ふたりの姿を見るなり叫んだ。


「リンネ先生、シルヴァ先生!!」


と。


・・・どなたでしたっけ?

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