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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag
第一部 「まもの使い」編

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ずかずかと入り込んできたキーラは慌ただしくルカリアに駆け寄ると、その身体をあれやこれやとチェックしている。


そしてこちらに視線を寄越すと、


「トライツ、久しぶり!」


と歯を見せて快活に笑った。

そして思いもよらぬことを言い出す。


「今からルカリア治療するけど、いいよね?」


「ち、治療?

 しかし、ルカリアさんには回復術は効かないのでは」


そのはずだ。だってトライツは、その原因を知っている。

だがキーラはなおも笑って言い切った。


「ううん、回復術じゃないの。

 私は私のやり方で、治療をする。治すの」


「そ、それは」


「教義に反するんでしょ?

 構いやしないわ、私は『まもの使い』だもの」


というわけで、連れてくね?

とルカリアの身体を宙に浮かせたキラーヤ。



トライツは焦った。

ルカリアは既に、トライツが隠していた真実を知っただろう。

賢いこの男のことだ、その先だって勘づいているかもしれない。


そんなことができるとは思えないが、キーラは異世界の住人。

過去の叡智に記載のない知識を持っている可能性だってある。


・・・ルカリアを、治されては困るのだ。



トライツがどうすべきか言葉を探しているうち、キラーヤの連れのチョコブラウンの髪の女性が鼻を押さえ、地の底から響くような声で叫んだ。


「・・・なぜ、この匂いがするんだ」


そしてカツカツと踵を鳴らし部屋を歩き回り、そしてルカリアを見据えて詰め寄った。


「・・・お前か」


未だ力は入らず、瞼だけを上下させるルカリアに、なおも女性は叫ぶように言い募る。


「なぜ手を出した!どこに隠し持っている!出せ!」


「ちょ、ちょっとディアドラ、どうしたのよ」


キーラが女性を宥めるが、女性は止まらない。


「キラーヤ様、こいつから嫌な匂いがします。

 死の匂いだ」


「そりゃあ死にかけてるからね・・・ 

 見るからにボロボロだし」


「違います。この匂いは間違いない。

 『死を招く石』を持っている」



トライツは吹き出る汗が頭皮から額を伝ったのを感じた。


こいつは何者だ。なぜそれに気付いた。


キーラはしばらく女性とやりとりをした後大きく頷き、ルカリアに問いかけた。



「ルカリア、これだけ答えて。


 あんた自分の意思で死にたいの?

 ディアドラの言う石に心当たりは?」



ルカリアはまだ頭は動かせないようだが、わずかに身じろぎをする。そしてまた掠れた声で、キーラに訴えた。


「死にたくない。

 …キラーヤ、頼む。俺を生かしてくれ」


ルカリアの紅い瞳はまっすぐにキーラを見据え、その視線と声色には希望と信頼が宿っているのが、トライツにも分かった。



「うーん、ここじゃ治療もできないわね。

 よし、人が来る前にずらかるわよ」


キーラは何やら、脱出方法について周囲の魔物と相談しているようだった。

漏れ聞こえる話だと、キーラの力が今は抗魔秘術により充分出せないらしい。


『・・・仕方がない』


トライツは気付かれぬよう息を吐いた。


『上手くいくと思ったんだけどな。

 何年も錬ってきた計画だから、勿体ないけど。


 ・・・こうも想定外の事ばかりだと、

 この先僕が危なくなるからね』



そして優しい『知の賢者』の顔でキーラに語りかける。


「キーラ様、お久しぶりです。

 あの、脱出の方法なんですが、僕がお力になれるかと」


「え、そうなの?教えて!」


キーラは何も疑う様子もなくトライツを話の輪に入れた。


「あそこに転移の魔法陣があります。

 外に繋がっています」


「キラーヤ様、あまりお勧めはできません。

 あの壁にあるタペストリ、教会のものです」


ディアドラ、と呼ばれた茶髪の女性が再度口を挟む。


ー・・・先ほどから邪魔をしてくれる。


「まあ外に出さえすれば、

 いくらでも脱出はできるけどねえ」


「その通りですが」


「でもディアドラが勧めないなら、

 止めておこうかな。

 また力尽くで出るか」


「まぁそれがいいでしょうね」


そう言って別の方法を探し出す魔物達を横目に、トライツは自身の耳にガチャガチャと金属のぶつかり合う音が近づいてくるのに気付いた。


『しめた』


そして声を上げた。


「あの、恐らくですがここに誰か来ます。

 聞こえませんか、あの音」


「音?・・・あ」


耳をそばだてたキーラの耳にも、足音とガチャガチャ音が届いたようだ。


「魔物たちは壺に隠れて。

 ディアドラだけ傍にいてくれる?」


「もちろん」


キーラの合図で一斉に魔物は姿を消し、

人間だけが残る。


さらに音は近くなるが、煉瓦の迷路に迷い込んでいるようだった。

だが声は聞こえる。


「ルカリア!無事か!ルカリアー!」


ルカリアの名を叫びながら、あっちでもないこっちでもないと大勢で探し回っているようだ。


『しめた。 

 ルカリアさんを呼び捨てにするあの声』


トライツは己に運が回ってきたことを悟った。


「キーラ様、お逃げください。 

 あの声、恐らくサルバドール殿下です」


「サルバドール・・・

 ああ、あの魔物殺しの?」


「魔物殺し?」


トライツは自身が知らない事がキーラの口から出てきて戸惑った。


「ええ、そいつの指示らしいんだけど、

 無抵抗の魔物を害するものだから最近シメたの」


「シメ・・・」


「いっぺん顔を見てやろうと思ったのよ。

 望むところだわ」


「な、なりません! 

 殿下はルカリアさんに心酔しているんです。

 思い込んだら最後、話を聞くタイプの人ではありません。

 しかも神殿の熱心な信者です。

 治すなんて言ったら問答無用で捕らえられます」


「うーん、自分一人なら何とかなるけど、

 こっちに手負いのルカリアもいるしなあ。

 ルカリア、壺の中入れる?…無理か」


未だルカリアは全く動けない。

壺、というのが何を言っているか分からないが、狭いところに詰め込める状態ではないだろう。


「じゃ、早めに出るか」


よおし、と膨大な魔力を練りだしたキラーヤに、トライツは戦慄した。

これは無理矢理転移しようとしている。


『この短期間で、ここまで成長したのか』


そして、自分の計画は失敗するだろう、という確信を強くした。



『ここまでか』



その時、



「ルカリア!無事か!」


聖遺物の間に飛び込んできたのは、やはりサルバドールだった。傭兵のような連れを幾人も連れている。


トライツがいるのを認めたサルバドールはずかずかと詰め寄り、


「リグレオール兄上から聞いた。

 『知の賢者』殿、感謝する。

 体調を崩したルカリアを介抱していたそうだな。

  

 侵入者はここまで及んでいないか?

 案ずるな、僕の軍勢がこれから図書館を捜索する」


と一気にまくし立てた。


と、サルバドールの隣にいた傭兵風の男が奥を指さして叫ぶ。


「あ、貴女は!!」


その指の先にはキーラが不敵な笑みで仁王立ちしており、傭兵風の男はキーラに怯えているように見える。


「あら、先日ぶりですね。

 ということは、そちらがあなたのボス?

 サルバドール?でしたっけ?」


「なッ・・・不敬な!!」


「殿下、彼女が『まもの使い』です!!

 刺激なさいませんよう!」


「『まもの使い』だと?!

 なぜそんなものがここに・・・ルカリア!!」


キーラが連れているのがボロボロになったルカリアだと気付いたサルバドールは半狂乱に陥った。


自ら剣を抜き振り回し、キーラに斬りかかる。


「貴様、ルカリアをどうするつもりだ!」


漸撃を避けながら、キーラは答える。


「いやどうもなにも私は・・・」


「口答えするな!!!」


「いやほんとに話聞かないな!!」


サルバドールが説得できるタイプの人間ではなく、さらに傷でも付けようものなら懲罰の対象となり得る身分だと察したキーラは、この場を見限った。


「仕方ない、あの魔法陣使うよ!

 ディアドラも壺に入って!」


そう言って魔法陣のほうに駆けだしたのである。


『かかった』


そしてトライツは呟いた。


「書き換え、無効化」


その言葉が聞こえたか、ルカリアの紅い瞳がこちらを凝視しているのが見えたが、走るキーラを止めることはできまい。


トライツは己の勝利を確信した。



『上手くいかなかったけど、

 ここで勝てば次はまたある』


キーラは魔法陣を踏み、転移が始まる。


「逃がすな!」


追おうとするサルバドールをトライツは力尽くで止めた。


「なりません!

 あの魔法陣の先は、教会のご神体の間です!」


「なんだと?!」


トライツの言葉に振り返った間に、キーラとルカリアは姿を消していた。



呆然とその残渣を眺めるサルバドールに、トライツは優しい顔で吹き込んだ。


「手負いのルカリアさんがあの空間に入れば、

 恐らく長くは持ちません」


サルバドールは魂を抜かれたように放心していたが、突如踵を返す。



「神殿総本山に、総戦力投入。

 ルカリアの救出と、『まもの使い』の討伐を!!!」



それも悪くない、と、トライツは嗤った。








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