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『まもの使い』、ゴッドハンドを志す~限界女医、異世界に召喚されたら何をする?~  作者: wag
第一部 「まもの使い」編

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「なんで壊す必要があったんですか!

 こんなんすぐ警戒されて人間が飛んできますよ!」


もぬけの殻になったルカリアの私室で、乗り込んだキラーヤと魔物達は喧々諤々言い合っている。


「だ、だって、ディアドラだって言ったじゃん、

 『あなたなら大丈夫』って!!」


「それはあなたが人間だから、

 抗魔結界をすり抜けられるって意味です!

 何でわざわざ壊すんですか!!」


「だ、だって、忘れてたんだもん、

 自分が人間だってことをさ~・・・」


そうなのである。

生身の人間なら問題なく入れたかもしれないのにも関わらず、

わざわざキラーヤは自身の拳に魔物の力を纏わせ、

結界をぶん殴って破壊してしまったのである。


そうなれば異常を報せる警報が人間に伝わるのはほぼ必至。

部屋にみんな入った途端、ダンジョン全体に魔物の力を削ぐ秘術がかけられてしまった。

技は出せるものの、威力が弱い。


恐らく今後、侵入した魔物を排除すべく、何某かの調査なり戦力なりが投入されるのだろう。


「・・・まあ、やってしまったことは仕方ありません。

 さっさとルカリア殿を探してずらかりましょう」


「多分転移使えないけど、どうしようか」


「まあ、何とかなるでしょう」



ということで、廊下を出てルカリアを探す。


が、


「なにここ、迷路?」


「意図的に通路が複雑になっているように見えます。

 これは探すのに骨が折れそうです」


同じような煉瓦づくりの廊下と曲がり角が続き、また分かれ道も多い。網羅して探していったらその間に見つかってしまいそうだった。


とりあえず千里眼で壁を透視して見てみるものの、抗魔秘術によって視界がぼやけてしまい、うまく探し出せない。


何か手はないかとキラーヤは考える。


「GPSとかないよね・・・あ」


と、自身の腕にはめたバングルに思い至る。


『何かあればこれを地面に叩きつけろ。

 位置情報が分かるからすぐに駆けつける』


確かルカリアはそう言った。

鈍く光沢のある細身のバングルを、じっと見る。


「私の居場所はルカリアに伝わるんだよね。

 逆はどうだろう」


とりあえず、ということで、キラーヤは自らの腕からバングルを抜き取ると、


「えいや」


と、床にたたき付けた。



すると、バングルが細かく振動したかと思うと、ずるずると地を這って動き出すではないか。


「これは、ひょっとするとひょっとする?」


「かもしれませんね」


拾い上げて腕にはめ直すと、ぐん、とより強い引力で一方向に引かれるのを感じた。


「よし、行ってみよう」


「無事でいてくれるといいんですが」


そうして魔物達は、駆けだした。



ーーーーーーーーー



「・・・こんなの、想定してませんよ」



トライツは青ざめた顔でへたり込む。


目の前には、蔦の呪縛から放たれ、しかし力の入らぬ身体を横たえる一人の男。


その紅い瞳だけが、まっすぐトライツを睨み付けている。



『確かに触れさせた。

 確かにルカリアさんの中には、

 「過去の叡智」が流れ込んだはずだ』


国の全てを記憶する聖遺物『過去の叡智』に触れた瞬間、その者の頭脳には暴力的なまでの情報の奔流が押し寄せる。


ジョブ『器』を持つ者が修行をしてなお、

その圧倒的な量とその中に揺蕩う感情の海に飲まれ、瞬時に精神を壊されることもあるこの試練。常人が触れれば、間違いなく廃人となる、はずだった。



確かに、聖遺物に触れた直後、ルカリアはその瞳をすさまじい勢いで左右に動かし、流涎し脊椎を弓なりに反らせ、激しくけいれんした。


そのけいれんが止み、力なくその身が床に叩きつけられたのも、トライツは確認したのだ。


まさかその目に再びトライツを写すことがあるとは、想定していなかった。



「まさか・・・受けきったのか」



ーーーーーー



ルカリアは情報の嵐に飲まれた。

強制的に聖遺物に触れさせられた途端、頭で落石を受けたような衝撃が走る。


命の起源、神話、獣との戦い、放浪と定住、国造り、秘術の芽生え、神殿の教義、恋と別れ、産声、英雄譚、良く育つ豆、内乱、戦争、戦争、戦争。


この国のあらゆる記憶が頭の中に膨大な水流のように押し入り、まるで息が出来ない。まるで水責めのようだ。


数字の行列、物語、裁判での供述、誰かの恋文、あらゆる人のジョブ。



・・・責め苦のように、鉄の柱で身を貫くように止まらぬ情報の暴力の中で、ルカリアは「それ」を見つけた。



『あった』


それを見つけた途端、手放しかけていたルカリアの意識が急速に戻ってきた。


『トライツの狙いは、これか』


芋づる式に繋がる違和感。ルカリアは自らに課されたものがまだあると確信した。


『俺はまだ、くたばる訳にはいかない』


未だ止まぬ奔流の中、頬の内側を噛み、血の味で意識をつなぎ止める。


やがて奔流は少しずつ収まり、ルカリアは生き延びた。



身体に力は全く入らず、もはや指一本動かせる気がしないが、それでも、生きた。


震える瞼をこじ開け、座り込んだトライツを牽制するように睨み付ける。



『俺はまだ、生きる』



そして呼んだ。



『キラーヤ、どこだ。

 お前に話さなきゃいけないことがある』


・・・そのとき、ルカリアのバングルが細く震えた。


ルカリアの呼びかけに応えるように。



ーーーーーーーーーーーー


「しょ、正直に言うと、混乱しています。

 ルカリアさん、あなたまさか、

 正気を保てているんですか」


ルカリアは全く動かない。

しかしその問いかけを肯定するように、一度だけまばたきをした。


トライツは全身の毛穴から汗が噴き出すのを感じた。


予定が狂った。どうすれば。どうすればいい。


…いや、関係ない。

どうせあのように死にかけの姿だ。計画は変えない。


再度ルカリアを拘束しようと、秘術の蔦で彼を捕らえようとする。


…が、


トライツの蔦ははじかれ、ルカリアの身体に触れることもできない。


「その身体でまだ秘術が使えますか」


死にかけてはいるが、ルカリアは歴史上稀に見る秘術師。秘術師でもないトライツの術を阻むなど、本来朝飯前だったのだ。


「仕方ありません。

 僕、力仕事は苦手なんですけど」


そういってトライツは、自らルカリアを運ぼうとルカリアに歩み寄る。


が、パチン、とその足は弾かれた。


血に濡れた口元がかすかに動き、


「それには及ばねえよ」


と掠れた声が耳を掠めたそのとき。



バン、と扉を蹴る音がし、


「いた!!!

 ルカリア、無事?!生きてる?!」


キラーヤを筆頭とした魔物軍団が、雪崩れ込んできたのであった。

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