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「まもの使い・・・?」
第二王子サルバドールは、早馬に乗って現れた魔物討伐隊長、デルーカスを出迎えていた。
転がり落ちるようにサルバドールに駆け寄り、息を切らし跪くデルーカスの発した言葉に、サルバドールは反応した。
「さようでございます、殿下。
私たちはまもの使いにその道を阻まれました」
「まもの使いとはあの、物語上の伝説ではないか」
ふん、とひとつ鼻で笑うと、ソファに深く座ったまま足を組み、言い放つ。
「失敗した言い訳にしては陳腐ではないか」
「いえ!言い訳ではございません!
我々は皆見たのです。
無数の魔物を引き連れた黒髪の女を!
・・・殿下、我らは魔物の女王を怒らせたのです。
これ以上彼らを害することはなりません」
「誰に向かって物を言っている」
冷たく吐き捨てたサルバドールはさらに言い募る。
「お主が言っていることが本当ならば、
むしろ討伐は続けてもらうことになる」
「なぜ!!国を危険に晒しますぞ!」
「まもの使い」
そう言って、サルバドールはソファから立ち上がる。
そして一枚の紙とペンを持ち、再びデルーカスの前に戻ってきた。
ローテーブルに置いた紙に、「まもの使い」と書き付ける。
さらに隣に「悪役」という文字を書き付け、それをイコールで結んだ。
「僕はね、とあるヒーローを舞台に乗せないといけない。
その舞台に必要な登場人物のうち、
退治される悪役が不十分だったんだ。
良い情報をありがとう、デルーカス」
「退治される」のところで大きくまもの使いに×を付け、サルバドールは嬉しそうに笑った。
「引き続きよろしく頼むよ。
上手い具合にまもの使いを誘い出してくれよ、
討伐隊長」
愕然とするデルーカスと、ひとり高笑いするサルバドール。
すべてを見ていた側近は気付かれぬようため息をついた。
さしずめ、まもの使いにルカリアをぶつけ、
見事な勝利を収めたルカリアを賢者に引き戻す算段を立てたのだろう。
サルバドールにとって、デルーカスはただの捨て駒。
まもの使いの情報はサルバドールにとってはご褒美のようなものだ。
サルバドールの中での彼らは、ちょうどいい引き立て役。
物語を盛り上げる尊い犠牲にすぎない。
何なら被害は大きければ大きいほど良い。
その方がヒーローが際立つから。
『悪趣味だ』
側近はそっとその場を離れ、報告に向かった。
彼の本来の主、皇帝の元へと。
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「で、どうやってルカリアのところに行くのです」
「いや、道中考えてたんだけどさあ」
キラーヤとディアドラ、そして愉快な仲間たちは輪になって座り、考える。
場違いなように執事スライムだけが、どこから出してきたか分からないティーセットに菓子をサーブしている。アフタヌーンティーじゃないんだぞ。
「前に、ディアドラが言ってたことを思い出したの。
『自分の著書は自分の手足』みたいなこと、
言ってなかった?」
「ええ。その通り・・・あ」
「座標、ロイン大図書館内のディアドラの著書、
とかで飛べないかなって」
「それは恐らく可能です。
私の著書は複数格納されていますので、
書物を指定すれば問題ないかと」
「そこから先は頑張って探せばいいか。
よし、行こうか!」
「ま、待って!」
止めたのは姿見の付喪神、ロットンであった。
「どうしたの?」
「あのさ、その人の部屋、鏡、あった?」
「うーん、あ、あったかも」
「じゃ、じゃあ、私そこ飛べる」
「あ、そうでしたね」
姿見の付喪神であるロットンは、世界中のあらゆる鏡の中を行き来することができるのだった。
「なにそれ、めちゃくちゃ便利じゃん!
直通便!行こう、すぐ!」
そう言うと、キラーヤは視界をロットンと共有し、ロイン大図書館の下層、ルカリアが臥せる部屋を指し示した。
「いける?」
「飛ぶ場所としては問題なさそう。
ちょっと潜ってみるね」
妖精の姿のロットンは自分の鏡に飛び込むと、しばらく後に戻ってきた。
「どう?」
「駄目!なんかバリアが張られてる!」
「さすがロイン図書館、魔物避けの結界が施されてるんですね」
冷静に分析するディアドラだったが、
「じゃあ、ディアドラの本に飛ぶ案も無理ってこと?」
「多分駄目ですね」
「ど、どうしよ。その結界、壊せないかな」
「いや、問題ないでしょう。あなた様ならば」
ディアドラはじっとキラーヤを見る。
「・・・そっか。やってみるか」
キラーヤは最近、自重することを諦めた。
多分思ったよりずっと、キラーヤは多くのチートを授かっている。
できると思えば、大抵できるのだ。
「よし!みんな壺に入って!」
その他の魔物をみんな壺に収納し、キラーヤはロットンの鏡に飛び込んだ。
中は真っ白な空間に無数の鏡が浮かんでいて、中には水たまりのようなものも見える。
妖精の姿のロットンが道案内をするように、キラーヤを導く。
そして、
「ここ!」
ひとつの装飾に乏しい鏡の前に辿り着く。
ロットンがコンコン、と叩くと、固い壁のような音がする。鏡に触れられもしないようだ。
「なるほど。とりあえず殴ってみよう」
魔力を手に篭め、その壁に向かってミノタウロスから拝借した衝撃波を打ち込む。
・・・が、びくともしない。
さらに出力を上げ、もう一撃。
・・・これも通用しない。
キラーヤはガスライターを取り出し、高火力の九尾の火柱で壁を焼き尽くした。
・・・が、これでも中には入れない。
「何なのよこの悪趣味な結界!
ちょっと待ってなさいよ、畜生!」
おおよそ成人女性に似つかわしくない悪態をつきながら、瘴気スムージーなど補給するつもりで一度鏡の外に戻った。そしてスムージーと瘴気だまりの瘴気をたんまりと魔力として蓄え、再度鏡の前に戻る。
「どうするの?」
「殴る」
「え、さっきだめだったじゃん」
「いや、手応えはあった。いける」
「そんな乱暴な」
「いや、いける」
キラーヤは己の拳を信じ、そして心中で女神ネフェリを強請った。
『おい女神、ここで頓挫させたら恨むからな』
そして渾身の一撃を、結界に向かってぶち込んだ!
パリン、
高い音を立てて結界が割れる。
「よし入れる!入ろう!」
そして鏡を抜けて侵入した個室に、
・・・ルカリアの姿はなかった。
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「サルバドールが・・・そんな馬鹿な真似を」
「もう、あいつ一回軟禁しましょう、父上」
ロインで何やら動いているサルバドールの侍従からもたらされた情報に、皇帝と第一皇子リグレオールは頭を抱えた。
「また物語に酔いおって。
それに、話に聞くまもの使いとは無論キーラ殿であろうな」
「まあ、そうでしょう。
幸い今のところこちらに危害を加えてはないようですが」
「腐ってもサルバドールも皇家の一員だ。
もし今回の愚行が帝国の意思と彼女が見た場合、
こちらに怒りが向く可能性もある」
「キーラ殿は割と理性的な方に思いますが。
サルバドールは私が止めましょう。
ルカリアの体調についても、どの道話さねば。
父上は早急にキーラ様と話を」
「ああ。しかし最近の彼女はとても我らでは追い切れん挙動をする。
現に今どこにいるかも分からん。
追わせたがとっくに見失った」
そのとき、
「伝令!伝令です!」
執務室に職員が飛び込んでくる。
「申し上げます!
ロインの抗魔結界が破られたとの情報です!
繰り返します!
ロインの抗魔結界、何者かにより破壊!」
皇帝と第一皇子は顔を見合わせた。
「・・・探す手間が省けたじゃないですか」
「・・・そのようだ」
皇帝は眉間の皺をほぐすように揉みながら、
「皇帝がここを離れるわけにはいかん。
リグレオール、ロインに向かってくれるか。
サルバドールの件も任せて申し訳ないが」
「承知いたしました」
「ナディーンも連れて行くがよい。
『予見の賢者』の力も借りよう」
「ええ、ありがとう存じます」




