198 ソウガの実家(2)
『転生忍者は忍べない』完結投稿のため、こちらは一週間だけお休みします。
完結後、通常どおりの投稿に戻ります<(_ _)>
ナツメの声を聞いた俺は、急いで朝食を口の中に詰め込む。
その間、ずっとハナが睨んでいたが、俺だってナツメが訪れることは聞いていない。
(そぎゃん目で見らんでよかたい)
前世の故郷の言葉を心の中で呟き、気持ちを切り替える。
たしか、母さんは「ナツメさんたち」と言っていた。ということは、他にも誰かが実家に来ているということだ。
消去法で考えると、ヤクモは外していい。
夏休み前に予定を尋ねたが、何やら忙しいらしい。どうやら、コイズミ陛下が何か企んでいるとのことだった。そして、それに俺も大きく関わっていると聞かされている。
そのため、ヤクモは事前にいろいろと調べているようだ。
アクアクサ領での一件を経て、俺たちは友情を深めた。恥ずかしながら、やつを親友だと思っている。
(じゃあ、ヤクモ以外で実家に来そうな人物は誰だ?)
チサト生徒会長やマサヒコ先輩たちだろうか。いや、さすがに実家まで訪れるほどの間柄ではないと思う。
しばらく考えたが、答えは出なかった。仕方なく席を立ち、玄関へ向かう。
ハナもついてこようとしたが、まだ朝食をとっていない。彼女にナナエと一緒に食堂に残るよう告げ、足早にその場を後にした。
玄関に着くと、ナツメが俺を見つけ、笑顔で手を振った。少し目が笑っていないような気もしたが、それよりも、彼女の隣に並び立つ二人の人物に目を見開く。
灰色の髪を短く切り揃えた壮年の男性は、リュウゾウ先生だ。そしてもう一人は、特徴的な紫色の髪を後ろで束ね、眼鏡をかけた美女――カジコさんだった。
この二人なら大歓迎だ。
だが、二人とも優秀な学者で忙しいはずだ。こんな田舎に、わざわざ保養に来るとは思えなかった。
それはそれとして、アクアクサ領の一件からそれほど時間は経っていないのに、すごく久しぶりな気がする。二人に駆け寄る。
「おはようございます、リュウゾウ先生、カジコさん。アクアクサ領では、大変お世話になりました。二人が来てくれて、すごく嬉しいです!」
自分でも驚くほど喜びが込み上げてきて、満面の笑みを浮かべた。
「ああ、おはよう、ソウガ。アクアクサ領では大変だったな。だが、お前のおかげで学生を招集せずに済んだ。一教師として、礼を言わせてくれ」
先生は深々と頭を下げた。俺は慌てて、大きく首を横に振る。
「顔を上げてください。俺はヤクモ――友達に頼まれて手伝っただけです。犠牲を少なく鎮圧できたのも、先生とカジコさんが五大機能<風>の封印を解いてくれたおかげです」
俺と先生が互いに譲らず、頭を下げ合っていると、カジコさんが声をかけた。
「玄関の前で、男同士、何をやっているんだ。それよりソウガ君、大事な婚約者を放っておくのは、同じ女性として見過ごせないのだがね」
顔を上げると、彼女は片目を閉じ、口元からパイプを離した。そして、その先をくいっと右へ向ける。
そこには、半目でこちらを睨むナツメが、腕を組んで立っていた。
――――――――――――
俺は、笑顔で話しながら歩く母さんとナツメの後ろをついて行く。手には、宿泊用の大きな鞄を持たされていた。
「本当に緑茶の件ではお世話になったわ。おかげで売り上げも順調なの」
「それはよかったです。私も父に助言した甲斐がありました」
二人の会話を聞き、眉を下げる。
いつの間にか、ナツメの実家――ピクセル家も緑茶の販売に関わっていたらしい。そんな話は聞いていなかった。
だが、王都の名店『サロン・ド・オーカドゥ』でも取り扱ってもらっているのは、王都に絶大な影響力を持つピクセル家のおかげだろう。
これで少しでも実家が潤い、生活が豊かになれば、イルガやナナエの幸せにも繋がる。そう思うと、ナツメには頭が上がらない。
黙って二人の会話に耳を傾けていると、母さんが立ち止まった。
「ここを使って、ナツメさん。客用の寝室にするか迷ったんだけど、ハナちゃんと同じ婚約者だもの。ソウガの隣の部屋にしたわ。駄目だったかしら?」
「い、いいえ、ありがとうございます……」
顔を真っ赤にして小さく頷くナツメ。こんな姿は見たことがなかった。女の子らしい反応に驚き、じっと見つめていると、母さんが声をかけてきた。
「ほら、ぼうっとしていないで、ナツメさんの荷物を部屋に運んでちょうだい。専属執事さん」
その言葉に、ため息が出そうになる。
たしかに三日という短い間だが、ナツメの執事として働かせてもらった。だが、もう約束は果たされ、対等な立場に戻ったはずだ。
ひと言、言おうとしたとき、背後からハナの声が聞こえた。
「ごきげんよう、ナツメさん。随分と早い到着ですね」
「ごきげんよう、ハンナ。そうかな? たった一日だよ。大した違いじゃない」
笑顔で挨拶を交わす二人だが、目が笑っていない。鈍感な俺でも理由は察する。だが、どうすればいいのかは分からない。
助けを求め、母さんへ視線を向ける。すると彼女は微笑みながら小さく手を振り、そそくさとその場を後にした。
何をしたかったのか。場を収めることなく立ち去る母さんを見送る。そのとき、二人がこちらを向き、同時に口を開いた。
「ソウガ、早く私に会えて嬉しいよね?」
「もう少し私とゆっくりしたかったはずです。ねえ、ソウガ?」
笑顔を浮かべるナツメとハナ。
二人は少しずつ詰め寄ってくる。だが、俺に答えはない。どちらを肯定しても、どちらかを否定しても、後が怖い。
こんなときにカジコさんがいれば、茶化してその場を濁してくれるのに。
思わず廊下の向こうへ視線を送る。だが、誰も来る気配はない。その間にも、二人はじりじりと近づいてくる。
もはや土下座でもして、うやむやにしようとしたとき、俺の部屋の扉が開いた。
「あ、兄さん。ここにいたんですか。すみません、勝手に部屋に入って。父さんが、稽古をつけるから呼んできてほしいと言っていたので――」
「そ、それは急がないとな。すまん、二人とも。急用ができた。じゃあ、また後で!」
そう告げてイルガの手を取ると、駆け足でその場を後にした。
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