194 ハンナの幼なじみ(1)
寒暖差が激しいので、皆さま体調にお気をつけてください<(_ _)>
今回からハンナ視点です(`・ω・´)ゞ
魔導車の窓から見える風景に目を細めるソウガの横顔を、私はじっと見つめていた。彼は夏休みに入ってすぐ、ナツメさんの専属執事として三日間働いた。
元々は一週間の約束だったが、そんな長い時間、彼を独占――もとい、拘束することは許されない。入学してから、ソウガは一度も実家に帰っていない。
少しでも長く、家族と過ごす時間を作ってあげたかった。
だから、ナツメさんの実家に乗り込み、彼女の父であり、ピクセル家当主でもあるジュンイチ様を巻き込んで抗議した。
当初、ナツメさんは頑なに拒否した。だが、ジュンイチ様に仲介していただき、どうにか三日という期間まで縮めることに成功した。
おかげで、八月に入る前に彼の実家へ向かうことができた。
ソウガの父親――ライガ様が治めるシースイの町は、王都から離れており、魔導車でも丸一日はかかる。
途中でコーシ領に寄り、一泊することも考えた。だが、できるだけ早く、ソウガに実家へ帰ってもらいたかった。
そう思い、父上に無理を言って宿泊設備を備えた大型魔導車を手配してもらった。
昨夜は別の部屋で寝た。けれど、同じ魔導車の中。隔てる壁は薄く、彼の寝息がかすかに耳に届き、なかなか寝付けなかった。
だが、そう思えば思うほど、胸が苦しくなる。ソウガはアクアクサ領で、心に深い傷を負った。
それは、住民を助けられなかったことだけじゃない。おそらく、あの領地を治めていたシロウ様の死も関係している。
火事で命を落としたその人は、実は女性だった。その事実を父から聞いたとき、驚きと同時にソウガの顔がよぎった。
ソウガは、シロウ様のことを絶えず気にしていた。それは助ける対象の一人というには、少し特別なものを感じた。
彼女との間に何があったのかは知らないし、聞くつもりもない。ただ、それでソウガが傷ついているなら、慰め、癒してあげたい。
それが婚約者としての務めだし、私の願いでもある。昨夜のことを思い出しながら、彼の横顔を見つめ続ける。
そのとき、魔導車が大きく揺れた。舗装は進んでいるが、一部、まだ荒れている場所もある。窪みか、大きな石の上をタイヤが通ったのだろう。
よろめく私の肩に、ソウガはそっと手を添えて支えた。
「大丈夫か、ハンナ。王都からかなり離れたからな。ここら辺は、まだ道も荒れている」
笑顔で彼は告げる。けれど、その顔はどこか悲しそうに見えた。
きっと思い違いだ。そう思いたいのに、胸がきゅっと締め付けられた。
魔導車は、道が荒れて揺れも大きくなってきたため、速度を落とした。次第に、窓の外を流れる景色も緩やかになる。
二人でじっと緑豊かな田園風景を眺めていると、急に景色が変わった。多くの建物が並び、道も整備され、揺れも小さくなる。
どうやら、シースイの町に着いたようだ。やがて魔導車は速度を落とし、静かに停まった。
車内から出た私たちは、ゆっくりとシースイの町中を歩く。荷物は運転手や付き人たちが、ソウガの実家に届けてくれる。
私は久しぶりに、この町をソウガと一緒に見て回りたかった。
ここで、私は彼と出会った。
あのころ、八歳だった私に、十歳の彼は初級とはいえ、大人顔負けの魔法を見せてくれた。
そして、そのあと家路につくソウガの後を、私はどきどきしながらこっそりついていった。
すると彼は、山の向こうに悠然と飛ぶワイバーンを、たった一つの魔法で仕留めてみせた。
あのときの光景と彼の姿を、私は一生忘れないだろう。
わずかな期間しかこの町には滞在しなかったが、その間、ソウガは私にとても優しくしてくれた。
想像を超える魔法を使えるのに彼は奢ることなく、一緒におままごとにも付き合ってくれた。
――初恋だった。
あれから六年の月日が流れても、ソウガへの想いが色褪せることはなかった。
そして、ベアモンド学園で彼と視線が重なった瞬間、止まっていた時間が動き出し、胸を焦がすほどの恋へと変わった。
理由なんてない。そう思ってしまった。
すでに婚約者になることは決まっていても、この胸の高鳴りは大切にしたい。彼への純粋な想いだから――。
じっと彼の横顔を見つめていると、頬が熱くなる。きっと、あのころの私が、そうさせているのだ。
自然と、ソウガの手を握っていた。
彼は少しだけ目を見開き、はにかむと、私の手を握り返した。その姿に幼いころの彼が重なる。
きっと大丈夫だ。
この夏休みで、彼の心を癒してみせる。そう決意して視線を上げると、ソウガの実家が見えてきた。
ちらりとソウガを見る。
彼は先ほどとは比べものにならないほど目を見開き、呆然と立ち尽くしていた。
「……あれが俺の家?」
そう呟く彼を見て、私は首を傾げた。
貴重な時間の中、読んでくださり感謝です(//Д//)
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