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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵
幕間 異世界の夏休み

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193/200

193 ナツメの専属執事(3)

三連休……。あっという間にでしたね。私は仕事でしたが……(T_T)

ナツメとの夏休みはこの話で終わりです。次回からハンナとなります<(_ _)>

 車道に沿ってまっすぐ伸びる歩道を、私とソウガは並んで歩いていた。行き交う人々が、私たちの姿に目を奪われる。


 多くの夜会や舞踏会に参加し、注目を浴びてきた私は慣れている。だが、きっとソウガは慌てているだろう。


 期待を込め、ちらりとソウガへ視線を向ける。だが、彼は気にした様子もなく、ただ前だけをまっすぐ見つめ、堂々と歩いていた。


 その佇まいに、私まで目を奪われていると、遠くからこちらを見ていた女性たちの声が耳に届く。


「何、あの黒髪の執事さん。まだ若いのに堂々としていて、格好いいわ」

「それに、執事とは思えない体つきね。服の上からでも、鍛えられていることがよく分かるわ」


 その言葉に、笑みを浮かべてソウガを見るが、やはり動揺する様子はない。どうやら聞こえていないらしい。


 ――少し、面白くない。


 けれど、本番はまだ先だ。気を取り直して前を向くと、『サロン・ド・オーカドゥ』までは、もう目と鼻の先だった。


 私は小さく口角を上げ、歩く速度を少しだけ速めた。



――――――――――――



 私たちはドアマンに日傘を預け、店の中へ入ると、出迎えた案内係の女性に空いている席があるか尋ねた。


 彼女はしばらく考え込んだあと、支配人を呼んでくるので待ってほしいと告げ、店の奥へ向かった。


 やがて、グレーのスーツを身に纏った壮年の男性が現れ、深々と頭を下げる。


「ようこそお越しくださいました、ナツメ様。お席はございますが、本日はあいにく、いくつもの茶会が催されております。少々、喧騒が耳に届くやもしれませんが、よろしいでしょうか」


 その言葉に、笑みを浮かべた。どうやら大きな茶会ではなく、偶然、いくつもの茶会が重なっただけらしい。


 これなら、ソウガに注目が集まる。当初の目的を果たせそうだ。


「いや、気にしないでくれ。せっかく久しぶりに来たんだ。もし可能なら、その茶会が見渡せる席に案内してもらえると嬉しい。偶然の再会や、新しい交流の機会になるかもしれないからね」


 笑顔で告げると、支配人は一瞬だけ目を見開いた。だが、すぐに恭しく頭を下げ、隣に立つ案内係へ目配せをした。


 案内係に導かれ、奥へと通された先には、磨き抜かれた白い大理石の床と、繊細な浮き彫りが施された壁に囲まれたサロンが広がっていた。


 規則正しく並べられたテーブルは、まばゆい金の装飾に彩られている。流麗な曲線を描く椅子も含め、ひと目で一級品だと分かった。


 まるで宮殿を思わせる空間の中で、多くの貴婦人や令嬢、若き子息たちが、優雅に茶を楽しんでいた。


 私は素早く、サロンにいる顔ぶれを確認する。どの席も、我が家より家格の低い者たちばかりだった。思わず、安堵の息が漏れる。


 やがて、私たちは一番奥の席へと案内された。テーブルはさほど大きくないが、施された装飾はどの席よりも豪華だった。


 テーブルの前に立ち、周囲を見渡していると、案内係の女性が近づき、椅子を引こうとする。


 手を挙げ、それを止めた。そして、ソウガへ視線を向ける。彼は一瞬だけ目を伏せ、腰を折り、私のそばへ近づいた。


 それと同時に、案内係の女性は一歩下がる。ソウガは彼女へ軽く頭を下げ、そっと椅子を引いた。その前に私は立ち、ゆっくりと腰を下ろす。


 その瞬間、サロンにいた多くの貴婦人や令嬢たちから、感嘆の吐息が漏れた。


 その光景に満足する。ふと後ろへ視線を向けると、ソウガは背筋を伸ばし、まっすぐに立っていた。


 案内係の女性を下がらせると、すぐにウェイターが現れ、ソウガへメニューを手渡した。彼は無言で受け取り、私の隣に立つ。


 ソウガは背筋を伸ばし、少しだけ腰を落としてメニューを広げ、私が目を細めるたびにページを捲った。


 その流れるような所作に驚きながらも、メニューを読み進める。すると、『緑茶』という言葉を見つけた。


 これは、ソウガが開発した、茶葉を発酵させずに作るお茶だ。まだ完成して間もないはずだが、すでにこの店で取り扱っていることに驚く。


 だが、ちょうどいい。


 私が『緑茶』を指差すと、ソウガはメニューを閉じ、ウェイターを呼んで注文を済ませた。


 やがて、ウェイターがティーセットを運び、テーブルに並べる。そして、緑茶を注ごうとティーポットへ手を伸ばした。


 私は手を挙げ、それを制する。そして、ソウガへ視線を向けた。


 彼は静かに頭を下げ、右手でティーポットを持ち、左手でソーサーごとティーカップを支えると、ゆっくりと緑茶を注ぎ、私の前へ静かに置いた。


 こちらも、なかなか慣れている。どこかで練習でもしたのだろうか。


 だが、せっかく彼が注いでくれたお茶が冷めてしまう。ティーカップを口元へ運び、ひと口飲んだ。


 気づけば、多くの貴婦人や令嬢がこちらを見ていた。その視線のすべてが、ソウガへ注がれている。


 どうやら、計画は上手くいったようだ。


 私が彼女たちへ笑顔を向けると、一人の令嬢がこちらに向かって歩いてきた。たしか彼女は、シグルイ男爵家の次女。名はカンナだったはずだ。


「ごきげんよう、ナツメ様。今日はお一人ですか?」

「ごきげんよう、カンナ様。うん、一人だよ。最近、いろいろと忙しくてね。ようやく時間ができたから、息抜きに来たんだ」


 私が笑みを浮かべて答えると、彼女は頷き、ちらりとソウガを見る。彼はその視線に気づき、目を伏せて深々と頭を下げた。


「あ、あの、彼はピクセル家に仕えている執事だと思いますが、随分とお若いのですね」


 その言葉に、にやりと笑いそうになる。


 どう答えれば、皆の注目を集められるだろうか。あまり誇張すると信じてもらえないかもしれない。ならば、素直に紹介すればいい。


「ああ、仕えてもらっているのは今日からだよ。彼は学園総体のトライアド・サバイバルで、一年生ながら優勝した逸材でね。今日は護衛兼専属執事として、私に仕えてもらっているのさ」


 私がわざと大きな声で伝えると、他の令嬢たちも席を立ち、こちらへ集まってきた。


「やっぱりそうですよね。ベアモンド学園の風雲児――ソウガ・アクオスさんですよね。最近はヤクモ殿下とも親しいとか」


 そう言って、ソウガへ詰め寄る彼女は、ヒルケル子爵家の長女だ。たしか、済聖光学園の二年生だったはずだ。


「私も見ました。特にバックアタック・マッチでの勇姿は凄かったです。あの聖騎士のテッペイ様と互角に渡り合えるなんて――」


 その隣で目を輝かせているのは、キノー男爵家の三女、ノゾミ。彼女は、まだ中等部だったはずだ。


 どうして中等部の学生までソウガのことを知っているのだろう。私が首を傾げていると、ノゾミはソウガの手を両手で握り締めた。


 さすがのソウガも、これには目を見開いた。使用人として無下に振り払うこともできず、頬を染めたまま固まっている。


 その瞬間、周囲から黄色い悲鳴が上がった。いつの間にか、多くの令嬢に囲まれるソウガ。


 その光景に満足するが、なぜか胸がざわつく。いつもの笑顔とは違い、苦笑いだが、自然だ。その瞳に切なさの色はない。そのことは嬉しい。


 この胸のざわつきの正体くらい、分かっている。だが、素直に認めるのは癪だった。心の奥底にそれを沈め、半目でソウガを睨む。


 ふと手元を見れば、いつの間にか私のティーカップは空になっていた。


「ソウガ。お茶がないけど」


 冷たく言い放った言葉に、彼の肩はぴくりと跳ねて、慌てて令嬢たちの輪から抜け出すと、私の隣に立ち、お茶を注ぐ。


 安堵の表情を浮かべるソウガにため息を漏らす。その横顔を見て、胸の奥が少しだけ軽くなった。


 彼は緑茶を注ぎ終わると、再び私の後ろに立ち、背筋を伸ばす。だが、すぐに令嬢たちに囲まれ、眉を下げた。


 その光景を見て、決意した。残り二日間はどこにも出かけず、屋敷の中でソウガをこき使ってやると――。

貴重な時間の中、読んでくださり感謝です(//Д//)

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― 新着の感想 ―
 女性の心理をうまく表現されていて、感心してしまいました。  ソウガ君のモテっぷりに、ナツメさんの嫉妬心がのぞけて良かったです。  ナツメさんターンが終わって、ハンナさんはどのような感じになるの…
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