192 ナツメの専属執事(2)
三連休最終日ですね。私は仕事ですが……(T_T)
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私は魔導車に揺られながら、窓の外を流れる街並みから視線を移し、目の前に座るソウガを見た。
彼は執事らしく背筋を伸ばし、外へ目を向けることもなく、目を閉じて静かに座っていた。私はその姿に満足し、声をかける。
「ふふ、随分と板についてきたね、ソウガ」
「ありがとうございます、ナツメ様」
ソウガは胸に手を当て、恭しく頭を下げた。いつもは見せない彼の仕草に、鼓動が速くなる。
それを悟られないよう、咳払いをして言葉を続けた。
「おほん。それで、ソウガはどこか行きたい場所はあるかな?」
「……いいえ。私は、ナツメお嬢様のお望みの場所へ、お供するだけです」
彼は頭を上げることなく、静かに告げた。
「ふふ、ソウガ。今のは百点だ。ねえ、結婚するまでずっと、私の専属執事でいるのも悪くないかもしれないよ♪」
「ご冗談はおやめください」
ソウガは顔を上げ、私の顔をまっすぐ見つめて、首を横に振った。どうやら、本気だとは思わなかったらしい。少しだけ胸の奥が痛んだ。
(……まあ、彼ほどの実力があれば、これからも王家や他の有力貴族が放っておかないだろう。私も、彼を縛りつけるつもりはない)
肩をすくめ、ソウガに笑顔を向けた。すると、彼は頬を赤くし、視線を伏せる。そこで、ようやく大事なことを思い出した。
「そういえば、聞いていなかったな。ソウガ、私の今日の服装はどうかな?」
その言葉に、彼は眉を上げ、開きかけた口を閉じた。その顔は、困っているようにも、恥ずかしがっているようにも見える。
何も言わず、じっと見つめていると、ソウガは拳で口元を隠し、小さく咳払いをした。
「コホン。とてもよくお似合いです、ナツメ様」
平静を装いながらも、目を伏せて答えるソウガ。その姿は微笑ましかったが、望む答えではなかった。
「今のは二十点だね、ソウガ」
頬を膨らませ、少し冷たく言葉を返した。彼は目を見開き、すぐに顎へ手を当てて考え込む。
(今日は、私の専属執事だ。それくらい察してほしい)
半目で睨み、答えを待つ。やがてソウガは耳まで真っ赤になりながら、自信なさげな声で告げた。
「綺麗だと思った。それに、青い服がお前の瞳によく似合っている。い、いつもより、ずっと可愛い……」
そこまでが限界だったらしい。彼は口を閉じ、俯いてしまった。だが、それは私も同じだった。ソウガの言葉に、鼓動が激しく胸を叩く。
お互いに耳まで赤く染め、まともに顔を見ることができない。視線を足元から上げることすら、できなかった。
二人の間に沈黙が落ちる。そのとき、後部座席のスピーカーから、テイオの声が聞こえた。
『ナツメ様。そろそろ、どちらへ向かわれるのか教えていただきたいのですが……』
どこか申し訳なさそうに告げる彼に、慌てて答えた。
「そ、そうだね。なら、『サロン・ド・オーカドゥ』まで頼むよ」
咄嗟に口から出た店の名前に、ソウガは首を傾げる。
あそこは王都でも有名な老舗の高級喫茶店だ。いつも多くの貴族の令嬢や子息が集まり、優雅な茶会が開かれている。
ソウガの思わぬ言葉で少し調子を狂わされたが、あそこへ連れていき、注目を集めさせれば、きっと困った顔が見られるはずだ。
私は内心でほくそ笑み、彼へ視線を向けた。すると、彼はわずかに目を見開き、すぐに訝しげな表情を浮かべる。
どうやら、私の思惑に気づき始めたらしい。
――――――――――――
どうやってソウガをからかおうか考えていると、魔導車がわずかに揺れ、速度を落とし始めた。
窓から外を覗くが、まだ目的地までは少し距離がある。
『申し訳ありません、ナツメ様。どうやら本日は、大きな茶会が開かれているようで、道が少々混み合っております』
テイオの声に、困惑の響きが混じる。
大きな茶会が開かれるのであれば、私も把握しているはずだ。王家に次ぐ歴史を持つピクセル家が、招待されないことなど滅多にない。
どうすべきか迷っていると、ソウガがこちらをじっと見つめていた。その金色の瞳に吸い込まれそうになる。
少し不安はある。けれど、彼が一緒ならどうにかなるだろう。もし貸し切りで入れないのなら、諦めて別の店へ向かえばいいだけだ。
「分かった。ここで降ろしてくれ。あとは二人で歩いていく」
『かしこまりました』
テイオの声がスピーカーから聞こえると、魔導車が道の端に静かに停まる。ソウガが腰を上げ、ドアへ手を伸ばした。その瞬間、外側から扉がすっと開く。
彼は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに魔導車から降りた。どうやら、先に降りたテイオが扉を開けてくれたらしい。
ソウガはテイオから何かを耳打ちされ、小さく頷く。
そして、私が頭を打たないよう、車の屋根へそっと左手を添え、腰を深く曲げて右手を差し出した。
私は彼の手を取り、ゆっくりと車外へ足を下ろす。立ち上がった瞬間、真夏の日差しが眩しく照りつけ、思わず目を細めた。
そのとき、足元に影が落ちる。ふと顔を上げると、ソウガが日傘を差し、容赦なく降り注ぐ陽光から私を守っていた。
あまりにも自然な仕草に、胸の奥がまた小さく跳ねる。
「……なかなか気が利くね、ソウガ」
「専属執事ですから、ナツメ様」
彼は恭しく答え、穏やかに微笑んだ。今度の笑顔は、さきほどのような作り物には見えない。
私は小さく笑みを返し、歩き出した。すると、テイオが深々と頭を下げる。
「どうか、お気をつけて」
もう一度頷き、隣を見る。ソウガは背筋をまっすぐ伸ばし、片手で日傘を持ちながら、私の歩調にぎこちなく合わせていた。
その姿に満足し、前を向く。そこには、王都でも最高峰と名高い喫茶店『サロン・ド・オーカドゥ』が、気高くも優美な姿を見せていた。
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