186 紅蓮を動かす青い葉
二章もあと四話です。
ここまで読んで頂き、本当に感謝です<(_ _)>
俺は目の前で槍を構える清正二式を観察する。武導機人特有の赤い装甲に、複雑な魔導回路が浮かび上がっていた。
それは強固な物理防御と魔法防御が施されている証拠だ。
清正二式には、三式よりも高出力な魔燃機関が搭載されている。だが、操縦には繊細なイメージ伝達と魔力制御が求められる。加えて、高い魔力量も必要だ。
学生が操縦するには、経験も技術も魔力も、すべてが足りない。
ただ、ナツメやハンナ、ヤクモは同じ『二式』を難なく操縦している。だが、それは三人が優秀すぎるだけだ。
まだ一度も戦ったことのない清正二式だが、正直、負ける気はしない。いくら性能が高いといっても、三式と比べて速度は一・五倍、出力も二倍程度だ。
武蔵零式の相手にはならない。
それでも油断することなく、ゆっくりと近づいていく。
刹那、目の前から紅蓮の機体が消えた。
突然のことに、呆然とする。左右を見ても、機影すらない。
次の瞬間、モニターの右半分が切り替わり、こちらへ迫る紅蓮の機体が映し出された。
(この映像は、バックカメラからだ!)
とっさに体を左へ投げ出す。武蔵零式は地面を転がりながらも、間一髪でその一撃をかわした。
直後、槍を突き出したまま走り抜ける清正二式の姿が、モニターに映し出される。その姿を見て、背筋が凍る。
見た目は清正二式だが、性能はまるで違う。魔導機人や武導機人を天草砲式や天草槍式に改造できるほどの技術者がいるのだ。
清正二式を改造することも可能なはずだ。己の油断と浅慮に舌打ちする。
魔燃機関を載せ換えたのか、駆動系を制御する魔核に細工をしたのかは分からない。だが、さっきの動きは、清正一式すら上回っていた。
俺は『観の目』を起動し、画面右半分をバックカメラに切り替え、神経を集中させる。
そのとき、再び紅蓮の機体が目の前から消えた。
だが、今度はすぐにその姿を捉える。さっきと同じく背後に回り込んだ紅蓮の機体が、モニターの右半分に映っていた。
俺は振り向くことなく、ぎりぎりまで引きつける。右画面に映る機体が槍を突き出した瞬間、腰を落とした。
穂先が頭上ぎりぎりを通り過ぎ、ぎらりと光る刃が、前方を映す左側のモニターに現れる。
その瞬間、一気に立ち上がり、高速で腰を回転させて右足刀を突き出した。
俺が放った横蹴りは、清正二式の左膝を捉えた。機人の脚は後方へ跳ね上がり、大きく体勢を崩すと、そのまま転倒し、壁に組まれた櫓へ激突した。
木材に押し潰される紅蓮の機体。だが、すぐに起き上がる。全身の装甲に浮かび上がる魔導回路が、血管のように脈打っていた。
明らかに異常だ。あれほど激しく倒れたのだ。機体は損傷し、操縦士も無事では済まない。少なくとも、軽い脳震盪は起こしたはずだ。
たしかに、追撃を恐れるのは分かる。だから早く起き上がり、体勢を立て直したほうがいいのかもしれない。
しかし、あれほど急ぐ必要はない。距離は十分に離れている。それに俺も反撃を警戒し、無闇に攻撃を仕掛けるつもりはなかった。
卓越した技術を持つ操縦士だ。経験も豊富だろう。そんなことは分かっているはずだ。どこか焦っているように見える。
だが、相手も急いでいるのなら好都合だ。俺は先手を打つ。ゆっくりと走り出し、徐々に速度を上げる。そして歩幅を強引に変化させ、不規則に左右へ踏み込んだ。
親父直伝の『幻徒』だ。武蔵零式の並外れた機動力で、あたかも分身したかのように残像を引いて駆ける。
いくら想像を絶する動きをしようが、こちらの動きを捉えることができなければ、攻撃することはできない。
一気に距離を詰めると、目の前に刃が迫った。俺は踏みつけようとした足を、強引に前へ伸ばす。
股関節が地面につくほど両足を開くと、太ももに胸が触れるほど上半身を倒し、機人の刺突を回避する。
そのまま左へ倒れ込み、地面に手を伸ばし、体を支える。そして、大きく開いた足を閉じる勢いを利用し、独楽のように体を回転させる。
一、二、三。
回るたびに速度を上げ、そのまま超低空の回し蹴りを繰り出した。
鉄がぶつかり合う激しい金属音が轟く。それと同時に、紅蓮の機人は再び倒れた。
俺はすぐに起き上がり、機体の上へ飛び乗った。
すると、信じられないことに、清正二式は両手を伸ばし、武蔵零式を掴んだ。
さきほどの転倒で、すぐに動くことなどできないと思った。それほどの衝撃だった。少なくとも、操縦桿から手は離れたはずだ。
いや、離さなくても、ほんの一瞬でも意識が飛べば、再び機人の制御を取り戻すまでに五秒はかかる。
――なのに、目の前の機人は転倒した直後、瞬く間に動いた。
呆然とする俺を清正二式が握り潰そうとする。武蔵零式がミシミシと悲鳴を上げる中、魔力残量を確認する。モニター右下には『96/160』が浮かんでいる。
俺は両腕に力と魔力を込め、叫んだ。
『あつか――けん!』
その瞬間、前腕の装甲から蒼炎の剣が突き出し――それに合わせるように、渾身の力で両腕を広げた。
鉄が千切れ、甲高い破裂音が屋敷の中庭に響き渡る。
清正二式の十本の指は、すべてを弾き飛ばされ、掌だけになった。解放された俺は、そのまま機人の胸部まで駆け上がり、魔法剣を振り上げる。
そして、操縦席を避けるように首を落とし、両腕を薙いだ。
残されたのは、操縦席のある胸部と両脚だけだ。もはや戦うことはできない。
俺は地面に下り、機体を持ち上げると、清正二式をうつ伏せに寝かせた。
その間、機人が抵抗することはなかった。さきほどまでの凄まじい執念を見せた戦いが、嘘のように大人しい。
首を傾げながらも、操縦士の安否を確認するため、背中のハッチを強引に開き、操縦席を覗き込んだ。
そこには、ソウケンさんが座っていた。
戦っている最中から、薄々気づいていた。アクアクサ領で、あれほどの気迫と執念を持つ者を、俺は彼しか知らない。
竹輪を教えたとき、アクアクサ領を救えると呟いた彼の横顔がよぎる。俺はソウケンさんに手を伸ばした。
だが、目の前の光景に息を止める。その手は届くことなく、宙で止まった。
次第に指先が冷たくなっていく。
俺の瞳には、腹部を突き破り、青い葉を広げる魔塩草と、苦悶の表情でそれを押さえるソウケンさんの姿が映っていた。
貴重な時間の中、読んでくださり感謝です(//Д//)
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