185 託された重さ
不安定な天気が続きますが、体調にはお気をつけて<(_ _)>
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俺は森の中で悠然と立つ、ヤクモの細川二式を見つめる。
銀色の装甲に浮かぶ、複雑な魔力回路。腰には剣が備え付けられ、左肩の後方には、背中に収納された魔導砲の砲口がちらりと覗いている。
魔導機人並みの魔法増幅性能と、武導機人の機動力と出力を兼ね備えた最強の機種。まさしく、機人の中の王というべき機体だ。
弱点は、魔法と物理、両方の防御力が低いことだ。さらに、王族しか搭乗できないという大きな制約もある。
だが、防御力に関しては、頑強な盾や装甲で補うことができる。俺が羨望の眼差しを向けていると、ヤクモが声をかけた。
『おい、ソウガ。ぼうっとするな。せっかくセンタロウがアスカとクロメを抑えているんだ。急いでシロウの屋敷に向かうぞ』
苛立ちを隠さないヤクモに眉を下げる。だが、その通りだ。せっかくセンタロウさんがヤクモに成り代わり、足止めをしてくれている。
俺はこめかみの下にあるボタンを二回押し、口元の装甲を開いた。
「ういとるたい」
浮遊魔法を唱えた瞬間、膨大な魔力が吸い取られる。やはり、武蔵零式を装着して魔法を発動したときの消費量は大きい。
ちらりとモニター右下の魔力残量を見る。表示されているのは『130/160』。アクアクサ領を訪れてから、俺の魔力はさらに上がった。
――おそらく十五万を超えている。ならば、消費された魔力は二万以上だ。
想像を絶する消費量に眩暈を覚えるが、仕方ない。足が地面から離れ、ゆっくりと浮かび上がることを確認し、口元の装甲を閉じた。
そのまま上昇し、ヤクモの細川二式の操縦席付近に備え付けられた足かけを掴む。その瞬間、やつの機体も宙に浮いた。
その光景ににやりと口角を上げ、すぐに五大機能<風>を起動する。
「ふきよるよ」
刹那、背中から振動が伝わり、俺とヤクモは空へ向かって一気に上昇した。背中と脹脛の排気口から勢いよく吹き出す風。それは、細川二式と武蔵零式の二体を容易に運んでいく。
とはいっても、方言魔法『ういとるたい』で重量はほとんどない。だが、その巨体は空気抵抗や風の影響を大きく受けるはずだ。
それを感じさせない五大機能<風>の性能に、改めて驚かされる。
次の瞬間、モニターの端に、こちらへ槍を構える天草槍式を捉えた。俺はさらに加速し、一気に前進する。直後、放たれた槍が背中をぎりぎりで掠め、通り過ぎた。
視線を落とすと、氷の猛虎がその機体の腕を噛み千切っていた。心からナツメに感謝した。
『おい、何度も言わせるな。ぼうっとしている場合じゃないぞ。早くシロウの屋敷に向かえ!』
『すまない、ヤクモ。少し気が緩んでいた。飛ばすぞ。何か異常があれば教えてくれ』
ヤクモに謝罪し、慌てて風の出力を上げた。すると、ヤクモの細川二式が片手を上げ、前へと倒した。おそらく了解という意味なのだろう。
その姿に笑みを零し、遥か先に見える白亜の屋敷――シロエのいる場所へ視線を向けた。
――――――――――――
俺たちはファンドウの上空を滑るように飛ぶ。地上では、天草砲式たちが炎の砲弾を放っていた。だが、俺は振り子のように右へ左へと揺れ、その間をすり抜けていく。
『……改めて思うが、原初の機人の性能は規格外だな。七翼が乗る機人以上の飛行能力だ』
収納されていた魔導砲を左肩へ展開し、天草砲式に砲口を向けていたヤクモが独りごちた。
たしかに性能は凄い。だが、消費される魔力も常軌を逸している。
すでに魔力は『112/160』だ。まだ飛行を始めて十分も経っていない。それなのに、すでに『18』も消費している。おそらく、シロエの屋敷に着くころには『100』を切っているだろう。
だが、ファンドウにいるすべての機人を相手にする必要はない。それに、ヤクモもいる。俺は屋敷に待機する機人だけを相手にすればいい。
やがて、丘の上に建つ白亜の屋敷が見えてきた。すぐに降下を始め、細川二式と共に屋敷の門前へ降り立つ。
『悪いが、ここは頼む。ヤクモ』
そう告げて、銀装の機人――細川二式を見上げる。ヤクモは丘を駆け上がる天草砲式を見下ろしながら、機体の首を縦に振った。
モニターに映し出された魔力残量『102/160』を確かめ、俺は視線を下へずらす。そこには、五大機能の三つ――『地・火・風』が浮かび上がっていた。
覚悟は決まっている。それでも、少しだけ気持ちが揺れる。だが、その間にも車輪の機人たちは迫っていた。
息を吸い込み、ゆっくりと言葉を放つ。
『やる――ばい』
一瞬で、右の手のひらに青い魔法陣が浮かび上がる。いつもと変わらないはずの右手が、少しだけ重く感じた。
細川二式へ歩み寄り、そっと銀の装甲に手を当てる。
『やる――ばい、おもか』
その瞬間、言いようのない喪失感が全身を駆け巡る。視界の端で、五大機能の『地』の文字が灰色へと変わり、起動を終える。
だが、後悔はない。
俺は唇を噛みしめ、ヤクモに告げた。
『悪いが、後は頼む』
『……ああ、任せろ』
俺は細川二式に背を向け、屋敷へと歩き出す。その背中へ、ヤクモの声が響いた。
『おもか!』
銀装の機人から発せられたヤクモの声が、ファンドウの街に響き渡る。直後、大地が揺れ、みしみしと鉄が軋む音を武蔵零式の集音機能が拾った。
振り返ることはなかった。
屋敷の門扉に手を当てる。そして、目を開くと同時に、力任せに押し込んだ。一瞬で鉄と木でできた頑強な門扉が砕け散る。
その先には、屋敷を守るように立つ紅蓮の機体――清正二式が立っていた。
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