184 白銀の天使と紺碧の猛虎、再び
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俺は森の中に身を潜め、様子を窺っていた。すると、大型魔導車から二体の機人が起き上がる。ナツメの白秋二式と、ハンナの蘆花二式だ。
紺碧と純白の機体は朝日を浴び、陽光を反射する。一歩進むたびに地面は揺れ、鉄が擦れる音が響いた。
「何をしている、お前たち! 出陣は後衛が到着してからだ。今すぐ降りろ!」
王都軍の天幕から飛び出してきたのは、炎翼のアスカだった。朝早いというのに、彼女はきちんと甲冑を着込んでいる。
やはり簡単にはファンドウに行かせてもらえないようだ。舌打ちしそうになり、どうにか堪える。
すると、俺たちのテントからヤクモが現れ、声を張り上げた。
「よせ、アスカ! これは俺の指示だ。ナツメとハンナには、牽制と偵察の意味も兼ねて出撃してもらう。たった二体だ。相手も本気だとは思うまい」
その言葉に、アスカはすぐさま地面に膝をつき、頭を垂れた。
彼女の姿に満足そうに頷き、ヤクモが二体の機人へ指示を出そうとしたとき、クロメが静かに近づいてきた。
「ヤクモ殿下、私は何も聞いていませんが?」
彼女は笑顔を浮かべて尋ねる。だが、その目は笑っていなかった。
「そうだな。ついさっき、ソウガたちと話し合って決めたからな。まだ、やつの魔力は回復していないようだ。このタイミングで相手に襲われたら、万が一もありうる。貴様の部隊の機人も損傷しているだろう? だから、二人に牽制させる」
ヤクモは人差し指で眼鏡を押し上げ、冷たく告げる。クロメはじっとヤクモを見つめ、その真意を推し量ろうとしていた。
だが、一切表情を変えないヤクモに、クロメは肩をすくめ、ため息をつく。
「分かりました。ですが、もし二人に危険があれば、すぐに私たちも向かいます。そして、状況次第では、そのまま制圧作戦に移行するかもしれませんが、よろしいですか?」
彼女は妖艶に笑い、問いかける。それでもヤクモは表情を変えなかった。やつは不敵に笑い、言葉を返す。
「よかろう。だが、二人に危険がない限り、一歩も動くことは許さん。分かったな!」
その言葉に、臣下の礼を取ったままのアスカの肩が跳ねた。クロメも少しだけ目を見開き、静かに頷く。
俺はその光景に安堵の息を吐き、森の奥へと姿を消した。
――――――――――――
森の中を走る俺は、立ち止まって背後を見た。アスカやクロメたちからは、かなり距離が離れている。ここなら大丈夫だろう。
俺は呼吸を整え、手をかざして唱えた。
「きなっせ」
直後、空間が捲れ、漆黒の小型機人が現れる。武蔵零式だ。黒鉄の胸に手を触れると、前面の装甲が開いた。
(……もう後戻りはできない)
静かに息を吐き出し、背中を向けると、武蔵零式へ倒れ込んだ。
――武蔵零式を装着した俺は、全力で森の中を駆け抜ける。
やがて、銀の装甲を纏った機人が見えてきた。それは地面に膝をつき、微動だにせず、静かに待機していた。
一切動かない機人。その姿に眉を下げ、声をかけようとしたとき、地面から振動が伝わってきた。
思わず街道へ視線を向ける。モニターには、街道を疾走する紺碧の機体と純白の機体が映っていた。走る姿は軽やかで、明らかに学園総体で見た機人とは違っている。
さすが宮廷魔導士や近衛騎士が搭乗する機体だ。その性能に舌を巻く。じっと見つめていると、機動力で劣るナツメの白秋二式に向けて槍が飛んできた。
その瞬間、先頭を走るハンナの蘆花二式の魔導砲が輝き、巨大な白銀の魔法陣が浮かび上がった。
『すぅすーすぅ』
魔導具で拡張されたハンナの声が、真夏の空に響き渡る。すると、白銀の天使が現れ、襲いかかる無数の槍に氷の吐息を吹きかけた。一瞬だった。槍はすべて氷に変わり、砕け散った。
キラキラと砕氷が舞う中、ナツメの白秋二式がハンナの機体の横を駆け抜ける。その速度は、明らかに魔導機人の限界を超えていた。
目を凝らすと、モニターが自動で画像を拡大する。目に映る姿に息を呑んだ。ナツメは魔導砲の砲口を背後に向け、風魔法を発動していた。
それは学園総体でシンヤさんが使った操縦方法だ。見よう見まねで習得できる技術ではない。それでもナツメなら可能かもしれないと思ってしまう。
少しだけ彼女の才能に嫉妬してしまい、苦笑いを浮かべる。だが、すぐに表情を戻し、戦況を見守った。
やがて巨腕の機人――天草槍式が再び槍を構え、迫りくるナツメの機体に狙いを定める。
その瞬間、ナツメは機人を急停止させ、背後へ向けていた魔導砲を前方に向ける。直後、砲口の前に紺碧の魔法陣が浮かび上がった。
『さむか!』
機体から発せられたナツメの声に大気が震えた。刹那、氷の猛虎が飛び出し、槍を構えた天草槍式へ突っ込む。
迫りくる氷の猛虎に、機人たちは槍を突き出した。だが、そのすべては紺碧の毛皮に弾かれ、凍りついていく。
気づけば、それは槍だけに留まらず、腕まで浸食し、氷漬けにしていた。
その光景を見た他の機人たちがファンドウの中へ逃げようとする。だが、上空に佇む白銀の天使が、それを許さなかった。
彼女は両手を胸の前で組み、純白の翼をはためかせる。次の瞬間、吹雪が起きた。
それは、灼熱の太陽すら凍らせるのではないかと思うほどに強烈な雪の嵐だった。
白銀の天使は、一瞬でファンドウの正門を氷で封印し、周囲の機人たちの足元を凍らせた。
ナツメとハンナが正門に着いてから、まだ五分も経っていない。そのわずかな時間で、ファンドウの正門に配置された機人たちは完璧に制圧されていた。
しかも、犠牲者を出すことなく――。
改めて二人の才能を見せつけられ、ごくりと喉を鳴らした。そのとき、背後から声が届く。
『ソウガ、いい加減に俺たちも行くぞ。ナツメとハンナは役目を果たした。次は俺たちの番だ』
振り返り、装甲の下で笑みを浮かべる。そこには銀装の機人――ヤクモの細川二式が、猛烈な陽光をぎらりと弾き、立っていた。
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