181 防衛線の真意
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俺はモニターに映る機人をじっと見つめる。だが、ナツメが告げた「二人乗り」という言葉と結びつくような場面は見つけられなかった。
「なるほど、そういうことですか。さすが、リュウゾウ先生とナツメさんです」
ずっと黙っていたハンナがぽつりと呟く。視線はモニターから彼女へ集まった。
「少し巻き戻してください」
ハンナが静かに告げると、モニターの横に立っていた兵は頷き、装置を操作する。ノイズを混じらせながら巻き戻る画面を見つめていると、彼女が手を挙げて止めた。
モニターには、天草砲式が土煙を上げ、扇状に展開する静止画が映し出されていた。俺はその映像を凝視するが、特に違和感を見つけられない。
「こちらを見てください」
ハンナは巨大なモニターに近づき、一体の機人を指さした。その機体は、進行方向とは違う方向に上半身を向けていた。
全員がその機人を見たことを確認すると、彼女は控えていた兵に映像を再生するよう促した。
その瞬間、その機人は進行方向とは違う方向を向いたまま、凄まじい速度で走り出した。誰もがその映像を見て、息を呑む。
「なるほどな。魔導車を運転する人間と、上半身の機人を操縦する人間が乗っていたわけか」
アスカがモニターに映る映像を見ながら、つまらなそうな表情を浮かべ、独りごちた。
「たしかに答えが分かれば簡単な仕掛けです。ですが、わずかな時間で見つけ出した洞察力と知識、そして思考の鋭さは賞賛すべきことですよ」
クロメがアスカの言葉を打ち消すかのように、すぐに返した。だが、彼女がナツメとハンナに向ける視線には、強い警戒心が滲んでいた。
一瞬、天幕の中に不穏な空気が流れる。そんな中、リュウゾウ先生が口を開いた。
「だから、本来は二つ魔導砲を備え付けているはずが、ひとつに見えたわけだ。よく見ろ。この魔導砲は二つを縦に連結しているだけだ。根元の魔導砲で土魔法を発動して弾体を作り、砲口付近で火魔法を纏わせて発射している」
先生は魔弾を放つ魔導機械の映像を拡大して説明した。全員がその言葉に頷くと、カジコさんが口を開いた。
「とはいえ、一朝一夕でできる芸当じゃないな。かなり訓練を積まなければ、こんなことはできまい。それに、よく見ろ。魔弾を撃つとき、こいつらは動きが止まっている。それほど呼吸を合わせるのが難しいという証拠だ」
それだけ告げると、彼女はパイプを咥え、目を閉じた。その姿にリュウゾウ先生は苦笑いを浮かべ、クロメは目を細める。
今までずっと口を閉じていたヤクモが、全員を見渡して語りかけた。
「もう一体の機人は『天草槍式』と言ったか。あれはその名の通り、槍を投擲するか、突き出すことに特化した機体だ。両足に装着した盾は厄介だが、移動には適さない。まさに防衛に特化した機人だ」
やつはもう一体の機人の名を告げ、簡単に説明する。
「そして、もう一体の『天草砲式』は、従来の機人を上回る機動力と、強力な魔導砲を備えた迎撃特化の機人です。なかなか厄介な組み合わせですね」
クロメが言葉を引き継ぎ、肩をすくめた。たしかに欠点はあるが、二体が揃い、互いを補うことで、堅牢な防衛線ができあがっている。
このファンドウを攻略するのは難しいような気がする。だが、どうしようもない違和感を覚えた。何か大事なことを忘れているような――そんな感覚に襲われる。
「ですが、このまま籠城をしても、王都から独立を認めさせるのは難しいのではないでしょうか」
今までずっと黙って、ヤクモの後ろに控えていたセンタロウさんが顎に手を当てて呟いた。
その瞬間、心の中に抱いていた正体不明の不安が像を結び、はっきりと輪郭を現した。思わずヤクモを見つめる。
「なるほどな、やつらの目的は、やはり籠城することだ。王都を攻め込むつもりはない。おそらく、こちらは陽動で、別の領の豪族か貴族が王都に向けて進軍の準備を進めている可能性があるな」
眉間に皺を寄せ、ヤクモが告げると、その場に緊張が走る。たしかにこれほどの悪政を敷けば、反発する貴族や豪族は他にもいるかもしれない。
だが、ここは海に囲まれ、隣接する領地はない。いったい、どこと盟約を結んだのだろうか。テーブルに広げられた地図を見つめる。
「なら、ヤッツシロウエル領しかないね。あそこは海に隔たれているけど、アクアクサ領とは近い。ウトロスカ領とウキニカ領も近いけど、ふたつは王都に隣接しているから、そうそう謀反を起こそうとしないはずだよ」
ナツメの声に顔を上げると、彼女は全員を見渡し、最後に俺を見つめた。たしかに船があれば、連絡は可能だ。
俺は、機人の開発のためにすべての船の魔燃機関を集めたという言葉を信じ込んでいた。己の迂闊さに呆れてしまい、ぎゅっと拳を握り締めた。
「ならば、方法は二つですね。早々にアクアクサ領を制圧するか。急いで王都に戻り、ヤッツシロウエル領が侵攻する前にこちらから攻めるか。どちらがよいと思いますか?」
クロメが笑顔でヤクモに尋ねる。その顔は人を惑わす魔女のように見えた。
「ふん、分かり切ったことを聞くな。アクアクサ領を制圧するしかないだろう。まだ、謀反を起こしていない貴族を罰することはできん」
ヤクモは妖艶に微笑むクロメを苦々しげに睨みつけ、言葉を続ける。
「それに、このまま撤退したなら、王家が敗走したという噂が流れ、アクアクサ領を旗頭に団結を企む輩が現れるかもしれん」
その言葉にクロメは満足そうに頷き、アスカは黙って耳を傾けていた。二翼に挟まれたヤクモは人差し指で眼鏡をくいっと上げ、一拍の間のあとに言い放った。
「明日の午後には後衛も到着する。それを待って、ファンドウを制圧する!」
咄嗟に立ち上がり、ヤクモを睨む。だが、やつは小さく首を横に振るだけだった。その瞬間、どうしようもないほど大きな絶望が、重く胸を圧し潰した。
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