178 槍雨を裂く魔翼
ひさびさの機人戦です。
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テントから飛び出した俺は、こちらに向かってくる巨大な槍を見て息を呑んだ。なぜ、このタイミングで攻撃を仕掛けてきたのか――。
だが、それよりも今は、あの無数の槍をどうにかしなければならない。手を掲げ、方言魔法『おもか』を展開しようとしたとき、その手を掴まれる。
「やめろ、魔法は使うな!」
振り返ると、ヤクモが俺を見つめ、その視線をちらりと後ろに向けた。その先では、クロメの白秋一式改造機『魔壊』の目が光り、立ち上がろうとしていた。
その迅速な対応に舌を巻く。まだ、ほかの兵士たちは機人にすら乗り込んでいない。さすが宮廷魔導士総帥だと、素直に感心した。
刹那、轟音が鳴り響き、地面がかすかに揺れた。慌ててファンドウのほうに向き直ると、百メートル先に無数の槍が大地に突き刺さっていた。
「やはり、牽制のようだな。もしくは、飛距離を調整するためだったのかもしれん。いずれにしろ、第二射に警戒する必要があるな。ナツメ、ハンナ。二人とも機人を起動し、待機してくれ!」
ヤクモがナツメたちに指示を出し、俺の腕を離すと、背後に視線を流す。その表情は険しく、唇を噛み締めていた。
『それでは、ヤクモ殿下。相手が攻撃を仕掛けてきた以上、制圧に向かわせていただきます』
その声に俺も顔を向ける。そこには紫紺の装甲を全身に纏った機人が立っていた。
両肩に魔導砲はない。代わりに、二つの掌の中央には、複雑な魔法陣が描かれた特大の魔石が埋め込まれていた。
さすが王都最強を誇る機人の一体だ。凄まじいほどの威圧感がある。ごくりと喉を鳴らすと、ヤクモの声が耳に届いた。
「……やむを得まい。だが、住民への被害は最小限に抑えろ。あと、危険だと判断したら、すぐに撤退しろ」
ヤクモが苦々しげに、クロメの機人を睨む。闇夜に溶け込むほどの漆黒のマントを纏ったその機人は、静かに前を向いた。
『ええ、分かりました。出来る限り、住民には攻撃しません。ただ、こちらに攻撃をしてきたならば――。まあ、いいでしょう。それでは、出陣します』
魔導具で拡声されたクロメの声は、どこか嬉しそうで、不安を煽った。だが、もう止めることはできない。
ヤクモに視線を向けようとしたとき、紫紺の機人がふわりと浮き上がる。そして、そのままファンドウに向かって進み出すと、その後ろに並ぶ魔導機人たちが立ち上がった。
静かに歩き出す紺碧の機人たち。その姿は敵を前にして、緊張しているようにも、興奮しているようにも見えた。
思わず駆け出そうとする俺を、ヤクモが肩を掴んで止める。視線を向けると、やつは無言で首を横に振り、ファンドウをじっと見つめた。
クロメが率いる魔翼部隊が進軍を開始して二分が過ぎた。突如、ファンドウから無数の槍が飛んでくる。
だが、魔導機人たちは慌てることなく、魔法で迎え撃つ。そのとき発するわずかな光を頼りに目を凝らすが、土埃と夜の闇が邪魔してほとんど見えない。
「ソウガ、気になるなら、私の機人に乗りなよ。少し狭いけど、私の機人には望遠機能があるから」
じっと戦況を見つめる俺の背中に、ナツメの声が届く。振り向くと、膝をつき、ハッチを開いた紺碧の機体が見えた。その操縦席からナツメが顔を出し、手招きをしている。
ちらりとハンナの蘆花二式に視線を向けるが、彼女は特に何も言わず、じっとファンドウのほうへ機体を向けていた。
ハンナに負い目を感じる必要はないが、俺は安堵の息を吐き、駆け足でナツメの機体に近づく。
すると、ワイヤーがするすると下りてくる。その先端には鐙が付いていた。そこへ右足を乗せ、ワイヤーを片手で強く握り締める。
身体がゆっくりと巻き上げられていく。ふと見上げた視線の先で、ナツメが手を伸ばしていた。彼女の手を掴み取ると、そのまま操縦席へと乗り込んだ。
操縦席は思ったより広かったが、俺が座れる余裕はなかった。眉を下げ、困惑する。そのとき、ナツメが声をかけた。
「別に戦うわけじゃないんだからさ。ハッチは開けたままでいいんだよ」
その指摘に困ったように笑う。少しは気持ちも落ち着いてきたと思ったが、まだ冷静ではないようだ。ナツメに礼を言って、目の前のモニターを凝視した。
彼女もくすりと笑い、モニター横のダイヤルを回してカメラを調節する。次第に映像は拡大され、鮮明になった。
そこには宙に浮いたまま、両手を突き出して風魔法を展開するクロメの機体が映し出される。機人の掌から生まれた二つの竜巻が、迫りくる槍の軌道を狂わせていた。
ほとんどの槍は、地上にいる魔翼部隊から大きく逸れて地面へと突き刺さった。わずかに残った槍も、二体の機人の魔導砲によって撃ち落とされる。
そして、残りの四体はファンドウの正門前に並ぶ異形の機人に砲口を向けると、一斉に炎の魔弾を放った。
それは、学園総体で見たどの魔法よりも鋭く苛烈だった。暗闇の中、夜を切り裂き、一直線に進む炎の流星。
直撃すれば、間違いなくただでは済まない。だが、異形の機人たちはその場から動くことなく、巨大な盾のような脛当てに身を隠した。
遠くて分かりづらいが、ファンドウの機人たちは仰向けに倒れているように見えた。直後、火柱が上がり、夜空を赤く染める。
一瞬で炎に包まれる機人たち。だが、炎が収まると、むくりと上半身を起こし、何事もなかったように槍を構えた。
その姿に絶句する。たしかに直撃したはずだ。しかし、ファンドウの機人たちは巨大な脛当てに傷が付いただけで、本体は無傷だった。
「どうやら、武導機人が持つ特別な防御魔導回路を、あの脛当てに集中させているようだね。本来は全身の装甲に施すんだけど、移動せず守るだけなら、あれは意外と理にかなっているかも」
ナツメがじっとモニターを見つめて呟いた。異様に足が大きく、動きづらい姿も、防衛に特化させるためなら納得できる。
しかも、異常なほど太い右腕も、投擲と打突だけを強化したものならば、理想的な形かもしれない。
だが、それでもクロメたち魔翼部隊のほうが有利だと思えた。たしかに槍の威力は凄まじく、物理防御能力が低い魔導機人には有効だが、数には限りがある。
それに、クロメの風魔法である程度防ぐことはできていた。いずれ追い詰められるのは反乱軍だ。
少しずつファンドウへと近づくクロメたち。そのとき、正門が開かれた。ナツメがモニター横のダイヤルを回しながら、カメラをそちらへ向ける。
次の瞬間、モニターに映し出された映像に息を呑む。それは門を滑るようにくぐり抜ける異形の鉄の群れ――。
門から現れた機人たちは、腰から下に付いた六つの車輪を激しく回転させる。そして、土煙を上げながら、大地を埋め尽くすように次々と溢れ出てきた。
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