177 王太子の覚悟、降り注ぐ槍
今週も始まりました。無理せず頑張っていきましょう。
ブクマや応援感謝です<(_ _)>
ヤクモは俺の隣に並び、クロメを睨みつけた。だが、彼女は臆することなく、悠然としている。
「もう一度言う。ソウガを攻撃に参加させることは許さん」
その言葉に、彼女はため息をつき、首を横に振った。そして令状を取り出し、はっきりと告げる。
「殿下のお言葉とはいえ、これは陛下の令状です。私には従う義務があります」
クロメは王家の紋章が押された令状を広げ、突きつけた。ヤクモはそれを一瞥し、鼻を鳴らす。
「ふん、ならば、ここから先は俺が指揮を執る。すべての責任は俺が取る。そう父上に報告しておけ」
その瞬間、初めてクロメから余裕が消えた。わずかに目を見開き、すぐに眉間に皺を寄せる。その横から、アスカが慌ててヤクモに詰め寄った。
「ほ、本気ですか、殿下!? それでは、もし失敗でもしたら、廃嫡されるかもしれません!」
だが、やつは表情を変えることなく、クロメを見つめたままだ。
「……なるほど、ご覚悟はあるということですね。ですが、私にも責任があります。もし、相手が攻撃を仕掛けてきたならば、私たち魔翼部隊だけでも制圧に向かわせていただきます」
クロメはヤクモの眼差しを真っすぐ受け止め、静かに告げた。これ以上は一歩も引かないという、強い意志を感じる。
「わかった。それでいい。だが、ソウガは疲れている。もし何かあっても、今夜は休ませる。いいな?」
ヤクモの言葉に、クロメはこちらへ視線を移した。そして、ため息をつくと、無言で頷く。お互いに納得してはいないが、ここが落としどころだろう。
俺はヤクモに向かって小さく頭を下げると、ハンナたちと一緒に、大型魔導車の隣に立てられたテントへと向かった。
――――――――――――
ヤクモたちを残し、俺たちはテントに入り、しばし休息をとる。本当なら今夜、これからの方針について話し合うつもりだったが、予定が狂ってしまった。
唇を噛みしめ、簡易ベッドで横になっていると、ヤクモがさきほどの青年兵を連れて入ってきた。
「おい、いいのか。こっちに来て!?」
俺は慌てて上半身を起こし、大声を上げてしまう。すると、ヤクモは肩をすくめ、テーブルの横に置かれた椅子に腰を下ろした。
「ふん、もともと俺はここで休むつもりだったんだ。そこまで驚く必要もないだろう。それに、色々と話しておきたい」
やつは眼鏡をくいっと押し上げ、つまらなそうに言った。以前なら、その態度に怒りを覚えたかもしれないが、今は違う。
俺を休ませるためだけに、ヤクモは父である王の令状に逆らった。その重さが分からないほど、俺も鈍くはない。
「そうか。悪いな、気を使わせて。本当なら俺たちが赴くべきなんだが――」
「気にするな。あっちのテントには、アスカもクロメもいる。ゆっくり話し合いもできん」
ヤクモは眉を曇らせる。その隣に立つ青年兵も、苦笑いを浮かべた。
「そういえば、さっきは助けてくれて、ありがとうございました」
俺はアスカと一触即発の雰囲気になったとき、間に割って入り、その場を収めてくれたことを思い出し、彼に深々と頭を下げた。
「いいえ、こちらこそ、もう少し早く止めるべきでした。まさか、隊長が剣まで抜こうとするとは思いませんでした」
青年はため息を漏らした。どうやら、彼もアスカに苦労させられているらしい。かなり気の毒に思い、眉を下げる。
「まあ、アスカも悪いやつじゃないんだがな……。それより、こいつだ。名前はセンタロウ。近衛騎士で、中隊長を務めている」
ヤクモが彼に親指を向けると、俺はじっと見つめる。ヤクモと雰囲気が似ている。血が繋がっているのかもしれない。
「ソウガ。こいつと俺は赤の他人だ。ただ似ているだけだ。というより、似ているから近くにいると言ってもいいかもな」
俺を見て、ヤクモはにやりと笑い、ナツメとハンナに視線を流す。だが、彼女たちは首を傾げるだけだ。
「ふっ、分からないのか? こいつは、学園に通っていた俺の影武者だ」
その瞬間、ナツメとハンナは目を見開く。センタロウさんも苦笑いを浮かべ、ばつが悪そうに頭を掻いた。
「センタロウさんとお前。似てはいるが、影武者が務まるほどではないと思うのだが――」
「ああ、このままだと無理だ。だが、魔導具があるだろう。髪の色と声を似せ、化粧を施せば、見分けることは難しい」
ヤクモが笑顔を崩さず答えた。たしかに顔よりも、表情や仕草のほうが似ていた。魔導具と化粧で容姿を真似れば、見分けるのは難しいかもしれない。
「なるほどね。私たちが学園を休んだことで、彼はすぐに正体がばれたと気づいたわけだ。それで急いで、そのことを伝えるために、今回の遠征に参加したってことだね」
ナツメが少し悔しそうに呟き、ハンナはヤクモとセンタロウさんを交互に見比べた。そんな二人に笑みを零す。
彼は俺よりも年上に見えるが、それでも二十歳には達していないと思う。この若さで近衛騎士の中隊長を任されているとなると、武力も相当なはずだ。
自然な立ち振る舞いにも隙がない。アスカの部隊に所属しているということは、武導機人に乗るのだろう。
「まあ、こいつの紹介はこれでいいだろう。それよりも今後についてだ。あまり時間は残されていない」
その言葉に全員が頷く。じっと俺たちの様子を見守っていたリュウゾウ先生とカジコさんも、テーブル近くの席に着いた。
「そうだね。こちらには時間がない。けど、相手は準備万端だ。父の話だけど、かなり前から動いていたみたいだ。一時期だけど、王都に住む機人の研究者や技術者が、アクアクサ領へ大量に流出したって」
ナツメが眉を曇らせ、情報を提供する。たしかに、あれほどの機人を改造・製造するなら、多くの優秀な人材が必要だ。
(……やはり、シロエは俺たちを騙していたのだろうか)
あの悲しげな横顔を思い出す。彼女が嘘をついているとは、どうしても思えない。だが、ナツメの言葉も疑いたくはなかった。
「まあ、反乱は起きたんだ。もう経過はいい。それよりも、住民の被害を抑えることを考えるぞ」
ヤクモが俺を見つめ、静かに語りかける。カジコさんは煙草の煙を吐き出し、俺たちを見つめると、笑みを浮かべた。
「そうだな。反乱は起きたが、終わったわけじゃない。まだ、俺たちができることはあるはずだ」
その言葉に全員が頷いた――そのとき、爆音が轟いた。
慌てて俺たちはテントから駆け出し、目の前の光景に絶句する。
そこには無数の巨大な槍が、夜空に放物線を描きながら、こちらへ降り注ごうとしていた。
貴重な時間の中、読んでくださり感謝です(//Д//)
ブクマや★で応援いただけると励みになります!




