175 炎翼と魔翼、迫る制圧
少しだけ暑さが和らいだような気がしましたが、気のせいでした(´;ω;`)
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俺は頭上を通り過ぎていく二体の機体に目を見開いた。あれはただの機人ではない。一体には見覚えがあるが、以前見たものよりも少し形が違って見えた。
深紅の機体は炎を纏うように空を裂き、紫紺の機体は影そのもののように音もなく滑空していた。
間違いなく、炎翼のアスカと魔翼のクロメだ。俺は頬を伝う汗を拭い、その先に視線を向ける。すでに他の機人たちも、こちらに近づいていた。
慌てて駆け出す。二体の機人は、大型魔導車の荷台に手が届く距離まで迫っていた。
俺は息を切らし、必死に走り続ける。ようやくヤクモたちのもとに辿り着くと、目の前の光景に息を呑んだ。
ヤクモの前には、紅蓮のマントを羽織ったアスカと、漆黒のローブを身に纏ったクロメが膝をつき、頭を垂れていた。
「よくぞ、ご無事でヤクモ殿下。王都から、アクアクサ侯爵家に囚われたと報せを受けたときは、生きた心地がしませんでした」
アスカの声は歓喜に震えていた。彼女もヤクモを慕う一人なのかもしれない。そう思うと、複雑な気持ちになる。
「本当によかったです。これで何の憂いもなく、アクアクサ領を制圧することができます」
隣のクロメは頭を下げたまま、口角を吊り上げた。その顔は魔女そのものだ。やはり、こちらも油断できない相手だ。
「二人とも心配をかけてすまなかった。すぐに無事を知らせることができず、申し訳ないと思う。まだしばらくは、アクアクサ領にも動きはないだろう。少し休んでくれ」
ヤクモは表情を変えることなく、彼女たちを労うと、眼鏡の縁に指を這わせた。その頬には、わずかに汗が滲んでいる。
どうやら、ヤクモにとっても二人の到着は予想外だったのだろう。当初の予定では、アクアクサ領から抜け出したことは伏せ、時間を稼ぐつもりだった。
こいつだけを隠して別行動をとらせる案もあったが、もはやそれも叶わない。計画を立てる前に、選択肢が潰されていく。
焦りながらも、この状況をどう打開すべきか思考を巡らせる。
そのとき、足元から振動が伝わってきた。後ろを見ると、多くの機人が速度を落としながら止まるところだった。
機人の数を数える。魔導機人が六、武導機人が八、聖導機人はいない。どう見ても、攻撃することしか考えていない編成だった。
無機質に陽光を反射する機人たちを見上げていると、背後から声が届く。
「おい、ソウガ。貴様が殿下を誑かして、ここまで連れてきたのか!」
振り返ると、アスカが肩を揺らし、大股で歩いてくる。動揺している俺には、言葉を返す余裕がなかった。
彼女は俺の襟首を掴み、詰め寄る。俺は口を閉じたまま、遥か先に見えるファンドウを見つめた。
「何か言ったらどうだ! このまま斬り伏せても――」
「やめろ、アスカ!」
ヤクモが近づき、アスカの手首を掴む。珍しく怒りを露わにしていた。それでも俺は、ファンドウから視線を外すことができない。
「俺がこいつを誘ったんだ。アクアクサ領の反乱を止めるために!」
アスカは眉を上げ、忌々しげな眼差しを向けたまま手を離すと、ヤクモを俺から遠ざけた。
「それは殿下がお優しいからです。きっと、そうなるようにこいつが誘導したのです。あの気味の悪い魔法を使って」
ヤクモがため息をつき、首を横に振る。どうやら、こいつもアスカへの説得は諦めたようだ。
正直、誤解されようがどうでもよかった。だが、ファンドウを救う方法を考えるには、少し騒がしすぎた。アスカに手を向けて呟く。
「ちと、おもか」
その瞬間、アスカが地面に叩きつけられる。周囲の地面は陥没し、小さなひびが入った。怒りに任せたつもりはなかった。ただ、考える時間が欲しかった。
だが、これで少し静かになる。そう思ったとき、そっと肩を掴まれる。顔を向けると、カジコさんがじっと俺を見つめていた。
「ソウガ君。私は言ったはずだよ。思い詰めるなってね」
はっと息を呑む。そして、魔法を解除すると、カジコさんに向かって深々と頭を下げた。
後ろではアスカが起き上がり、剣の柄に手を伸ばそうとしていた。忠誠心が高いのはいいが、周りが見えていない。冷静に事実を受け止めることもできていない。
こんなやつしか、ヤクモの周りにはいないのだろうか。少し心配になる。俺はカジコさんの前に出て、腰を落とした。
無手でも問題ない。親父から散々、格闘術を叩き込まれている。アスカの指先が剣の柄に触れそうになった――そのとき、ひとりの男が割って入った。
「アスカ様、彼はクロメ様の部隊に配属されることが決まっています。これは越権行為です!」
機人に乗るための特殊な皮鎧を纏った青年は、アスカの前に立ち、両手を広げた。ちらりと視線をずらすと、ヤクモが安堵の息を吐いている。
どうやら彼こそが、本当の意味でヤクモを慕う者なのかもしれない。俺は構えを解き、その青年の背中に向かって礼を述べると、この場を離れた。
後ろからアスカの声が聞こえるが、無視する。お互いに冷静になったほうがいい。視線を落とし、短く息を吐き出したとき、足元に影が伸びた。
ふと顔を上げる。そこには妖艶な笑みを浮かべ、こちらを見つめる宮廷魔導士団総帥――魔翼のクロメの姿があった。
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