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方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転  作者: 黒鍵
第二章 塩の大地と金色の誓い

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168 神像の下の兵士

お盆休みが明けました。

大雨の被害に遭われた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます<(_ _)>

 俺はシロエのことを一旦、胸の奥に押し込め、丘を下りた。麓に着き、振り返って屋敷を見上げる。


 変わった様子はない。まだ、ヤクモが脱出したことには気づいていないようだ。煌々と明かりが灯る、要塞と化した屋敷。そのとき、シロエの横顔がよぎった。


(……あれは要塞ではなく、彼女を閉じ込める監獄なのかもしれない)


 俺がそう思いたいだけだ。だが、彼女のあの表情を思い出すと、間違っていない――そう思ってしまう。


「おい、ソウガ。ぼうっとするな。あれを見ろ」


 その声で我に返る。真剣な眼差しをこちらに向けるヤクモ。だが、その視線は俺ではなく、別の何かを捉えていた。


 慌てて、後ろを見る。そこには紺碧の巨人が並び、屋敷へと向かっていた。よく見ると下半身がない。足の代わりに四つの車輪が付いている。


「……そういうことか」


 列をなす異形の機人を睨み、ヤクモが呟く。俺は理解が追いつかず、言葉が出ない。


「……魔燃機関だ。町から消えた魔導車も、船から外された機関も、全部あれに積んだんだ」


 指先が震える。魔燃機関は大型船を建造するために、住民から提供してもらったと彼女は言っていた。


(まさかシロエが、嘘をついていた……)


 鼓動が激しくなり、胸を押さえる。怒りでも、悲しみでもなかった。ただ、真実を伝えてくれなかったことが、苦しかった。


「あれは、一朝一夕で造れるものではないな。きっと、ずっと前から準備していたのだろう。俺たちが来る前からな」


 ヤクモは静かに告げた。俺は顔を上げ、思わず襟首を掴む。真っ白な生地を、俺の手についた泥が汚した。


 『ずっと前から』。それはシロエも、このことを知っていたということだ。ヤクモを睨みつける。


「俺を睨むな。知りたいなら、シロエ本人に聞け」


 ヤクモは俺の手を振り解き、睨み返した。視線を逸らす。たしかにこいつの言う通りだ。ただの八つ当たりだった。


 拳を握り締め、唇を噛む。今すぐにでも屋敷に戻り、彼女に真実を聞きたい。もし、彼女も計画を知り、俺たちを騙していたなら――。


「……ソウガ、決めつけるな。俺たちは、まだ何も知らない」


 はっと顔を上げる。ヤクモは襟に付いた泥を払いながら呟く。その顔には後悔の色が滲んでいた。


 こいつも反乱を止めるために、アクアクサ領に来たことを思い出した。今の状況に心を痛めているのは、こいつも一緒だ。


「すまなかった、ヤクモ。冷静じゃなかった」


 深々と頭を下げる俺に、ヤクモはため息をつく。


「俺が言うことじゃないが、今は目の前のことに集中しろ。すべては反乱を止めてからだ。その先が、大事なんだ」


 やつの言葉がすとんと胸に落ちた。


 何も知らず、何も分からない。そして、まだ何も決まったわけじゃない。今は全力で、最善と思うことをするだけだ。


 俺が頷くと、ヤクモはわずかに口角を上げ、街中へと歩き出した。



――――――――――――



 俺たちは街中へ入ると、大通りを避けて裏道を走る。複雑に入り組み、なかなか町の正門に辿り着かない。


 いっそ大通りに出て、一気に突っ切ろうかと思ったとき、ヤクモが声をかける。


「そろそろ、ソウケンが俺のことに気づくかもしれん。そうなれば、隠れて進む意味もなくなる」


 俺は笑みを浮かべる。どうやら同じことを考えていたようだ。俺たちは頷き合い、大通りへと飛び出した。


 大きな石造りの建物に挟まれた幅広い道。だが、ほとんどの建物には明かりが灯っておらず、人通りも少なかった。


 これなら問題ない。俺たちは周囲を警戒しながら、走り出した。


 昼間の暴動が嘘のように静まり返った街。うすら寒いものを感じながらも、足を止めることはない。


 しばらく走り続けると、クムァムーン様の神像が見えてきた。暴行を受ける兵士の顔がよぎり、奥歯を噛みしめる。


 やがて神像の前に着くと、その下に横たわる兵士を見つけ、俺たちは急いで駆け寄った。


 兵士に手を伸ばそうとしたとき、ヤクモが止めた。振り向くと、建物の窓や扉の隙間から、こちらをじっと見つめる住民たちに気づく。


「諦めろ。もう息をしていない」


 ヤクモは小声で告げ、俺は視線を戻す。彼の顔は青黒く腫れあがり、たしかに呼吸はしていないようだった。それでも、俺は確かめたかった。


 彼の首元に手を添え、すぐに引いた。脈はなく、冷たかった。俺は静かに立ち上がり、周囲を見渡す。扉の隙間からこちらを見つめる男と目が合った。


 その瞳は恐怖と憎悪で濁っていた。彼らも被害者だ。それに、この兵士を見捨てた俺に、何かを言う資格はない。


 神像の下に捧げもののように置かれた兵士を見つめ、俺は心の中で彼の冥福を祈った。


 もはや神の名を口にするには、ここは危険すぎた。そっと視線を上げると、クムァムーン様の頬に付いた一粒の露が、すっと流れた。

貴重な時間の中、読んでくださり感謝です(//Д//)

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― 新着の感想 ―
 魔燃機関のアイデアもさることながら、  それを大型船と結びつける。  さすがです╰(*´︶`*)╯♡  そしてーー最後の兵士の件で神像の頬から零れる、  一雫。胸が詰まりました。  次話も楽しみ…
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