161 竹輪の希望、港の誘い
本当に暑いですね。エアコンにも限界が……。
皆さん、熱中症にはお気をつけて<(_ _)>
俺たちは厨房にこもり、いくつもの竹輪を作っては、試食を繰り返した。
気づけば、日が傾き始めていた。材料を変え、鮫と小魚を混ぜたものや、塩の量を増やしたものなど、さまざまだ。
「これで、どれくらい保存できるか比べてください。できるだけ味のいいものが、長く傷まないことを願っているのですが……」
俺が調理台に並べられた無数の竹輪を見つめながら呟くと、シロエとソウケンさんは困ったように笑った。
「捨てるしかなかった魚を、食べられるようにしただけでも凄いことだよ。感謝している」
「そうです、ソウガ殿。まずは小魚で作った竹輪の調理法を、急いで領内に広めましょう。これだけでも救われる命があります」
二人は頭を下げた。俺は慌てて、首を横に振る。
「やめてください。俺は当たり前のことをしただけです。困ったときは、お互い様です」
その言葉にシロエは眉を下げ、ソウケンさんは真剣な眼差しをこちらへ向けた。
彼の瞳の奥に、希望とは違う暗い感情が見えた――そんな気がして、わずかに胸がざわつく。
「じゃ、俺たちは帰ります。いい成果が出るといいですね」
「もう帰るのかい。できれば、今日も夕食をどうかな?」
たしかに、いいかもしれない。ちらりとヤクモを見やる。だが、やつは肩をすくめて首を横に振った。
「今夜は遠慮させてもらう。竹輪――だったか。さすがに、あれを食べ過ぎた。また今度、誘ってくれ」
思わずシロエと目が合い、笑い出す。たしかに腹は十分に膨れ、他を食べる余裕はない。
「そうだね。たしかに今日は無理そうだ。なら、また誘わせてもらうよ」
彼女は片目を閉じ、笑って告げた。その笑顔に目を奪われる。この竹輪で少しでも状況が良くなればいいと、心の底から思った。
――――――――――――
宿に戻った俺たちは、受付で夕食の準備を断り、部屋へ向かった。途中でヤクモが厨房に寄り、俺に市場で買った鯛を出させる。
「お前たちで食べてくれ。余ったなら、客に振る舞ってもいい」
やつは厨房の奥で手伝いをしている子どもたちを見つめ、静かに告げた。その子たちも痩せ細っていた。一番下の子は、十歳にも満たないだろう。
家族で営んでいるこの宿も飢えていた。今朝、朝食を運んできた少女は腹を鳴らし、厨房の奥では三人の子どもたちが羨ましそうにこちらを見ていた。
ヤクモらしい。
この鯛を渡したところで、この宿の家族が抱える苦しみがすべて消えるわけではない。だが、気休めだと分かっていても、手を差し伸べてしまう。
そう思いながらやつを見ると、視線が重なった。ヤクモは無言で踵を返し、足早に部屋へと歩き出した。
だが、その耳が真っ赤に染まっていることを俺は見逃さなかった。
翌朝、支度を済ませて食堂に下りると、子どもたちが元気に挨拶してくれた。頬はこけ、目は窪んでいるが、表情は明るい。
俺も自然と笑みが零れる。テーブルに案内されて腰を下ろすと、すぐにヤクモが現れた。やつも子どもたちに笑顔で挨拶を返し、俺の前に座る。
「おはよう、ヤクモ。いい朝だな」
「ああ、たしかにな」
俺たちは頷き合い、表情を緩める。やがて料理が運ばれてきた。目の前に華やかな一皿が置かれる。
大きく深い皿に淡い金色のスープが湛えられ、その中央には鯛の頭があった。よく見ると、下にはパスタが敷き詰められている。
具材はこれだけだが、とても美味しそうに見えた。厨房へ視線を向ける。すると、子どもたちの父親と思われる男性が深々と頭を下げていた。
俺は口角が上がり、ヤクモに視線を向ける。やつは眼鏡を指先で押し上げるふりをして、顔を覆った。
しかし、優しげな眼差しまでは隠すことはできなかった。
俺はスプーンを握り、一口すすった。口の中に磯の香りが広がる。素朴な味付けだったが、素材の旨みをしっかりと堪能できる、心のこもった味だった。
俺たちは残さず綺麗に食べた。俺が目玉まで食べたときは、ヤクモが眉間に皺を寄せたが、気にしなかった。
食堂を出るとき、家族全員に見送られ、少し恥ずかしかったが、清々しい気持ちでもあった。
一旦部屋に戻り、俺たちはすぐに宿を出た。今日も町の様子を見るため、歩き出す。すぐにクムァムーン様へ祈りを捧げる住民たちが目に入った。
昨日よりも多い気がするが、気のせいかもしれない。俺は市場へ向かおうと提案する。もしかしたら、途中の港で大型船が見えるかもしれない。
ヤクモも頷き、俺たちは歩き出した。
――――――――――――
俺とヤクモが港に着くと、多くの漁師たちに囲まれた。俺はわずかに腰を沈め、万が一に備える。そのとき、日に焼けた壮年の男が前に出る。
「あんたたちがヤクモとソウガで間違いないか?」
「そうだ。何か用か?」
ヤクモが眼鏡を指先で押し上げ、鋭い視線で威圧する。その挑発的な態度に、俺の背中に冷や汗が流れた。
壮年の男は目を細めた――そのとき、一斉に漁師たちは頭を下げた。
「ありがとう! あんたたちが考えた『竹輪』。これで漁に出られる」
昨日とは違う漁師たちの態度に呆然とする。理解が追いつかない俺たちに、彼は早口で告げた。
「ソウケンさんから聞いたんだ。あんたたちが俺たちの領地を救うために、色々してくれたことを。だから、せめて礼をさせてくれ!」
男がそう言って後ろを向くと、息子と思われる青年が大きなガラス瓶を持ってきた。中では琥珀色の液体が揺れている。
「朝が早い俺たち漁師は、昼間から酒を酌み交わして友好を深めるんだ。秘蔵の酒だ。付き合ってくれ」
再び深々と頭を下げる漁師たち。断れる雰囲気ではない。ヤクモへ視線を向けると、やつは眉を下げて頷いた。俺も頷き返し、口を開く。
「分かりました。ただ、さっき朝食を食べたばかりです。それに用事もあります。でも、少しだけなら、大丈夫です」
その言葉に彼らは安心したのか、ほっと息を吐いた。そして、俺たちを漁師たちが集まる小さな小屋へと案内した。
忙しい中、読んでくださり感謝です<(_ _)>
ブクマや★で応援いただけると励みになります!




