152 湧き出た真水、決まった方針
村へ戻った俺は、真っ先に村長のサブロウさんのもとへ向かい、新たな水脈が見つかったかもしれないと伝えた。
サブロウさんは目を見開き、呆然とする。だが、真水かどうかを急いで確かめたい俺は、早口でバケツとロープを貸してほしいと頼んだ。
慌てて頷き、立ち上がるサブロウさん。だが、すぐによろめき、倒れそうになる。俺は咄嗟にその細い体を支えると、そのまま背負った。
「どこにバケツがあるか、教えてください」
「すまん、ソウガ殿……。できれば、村の者にも声をかけたいんじゃ。悪いが、指示を出すから、そのまま連れて行ってくれ」
急ぎたい気持ちはあるが、水脈を確かめるにも、その後のことを考えるにも、人手は必要だった。
俺はサブロウさんの言葉に頷き、走り出した。
――――――――――――
俺はサブロウさんを背負ったまま、彼の呼びかけに集まった村人たちを引き連れて歩いていく。
やがて、ヤクモが待つ窪地に辿り着いた。
草が生い茂り、足元が見えない。俺は慎重に進み、ようやく穴を見つけて、そっと覗き込んだ。
水は湧き上がり、水位も上がっていた。だが、それでも水面までは深い。八メートルはありそうだ。まずは飲んでみて、確かめるしかない。
俺がバケツとロープを受け取ろうと振り向きかけたとき、背負っていたサブロウさんが叫ぶ。
「こ、こんなところに水が湧くとは!」
唐突に耳元で響いた大声に、びくりと身体が跳ねた。体勢が崩れ、穴の中に落ちそうになる。俺は慌ててのけ反り、勢い余って尻もちをついた。
すぐに村人たちが駆け寄り、俺たちを起こしてくれる。尻を擦りながら立ち上がると、バケツとロープを受け取り、サブロウさんを彼らに預けた。
ぽちゃんと、バケツが水面に届く。
かなり長いロープだったが、ぎりぎりだった。俺は慎重にバケツを手繰り寄せ、引き上げる。覗き込むと、水は透明で綺麗だった。
これなら飲める――そう思いながらも、恐る恐る口に含む。
「ど、どうじゃ。海水は混ざっておらんか!?」
村人に支えられていたサブロウさんが、身を乗り出して尋ねる。その隣には、いつの間にかヤクモも並び、心配そうにこちらを見ていた。
ここにいる全員の視線が俺に集まる。その圧に飲み込まれそうになり、ごくりと唾を飲み込む。
言葉が出ない。
ようやく俺が答えようとしたとき、ヤクモがバケツを奪って口をつけた。
「……真水だ。飲めるぞ!」
やつの一言で村人たちから歓声が上がり、サブロウさんは目に涙を浮かべ、その場に座り込んだ。ヤクモはその肩に手を置き、バケツを差し出す。
「お前も飲んでみろ」
サブロウさんは震える手でバケツを受け取り、一口飲んだ。
その瞬間、目から大量の涙が流れ落ちる。震える肩を叩きながら、ヤクモが口を開いた。
「どうやら、河童と言ったか――。あいつの言葉は正しかった。『村を助けて』と言って、あそこを指差した」
その言葉に、俺は大きく頷く。
やはり河童は、俺たちを助けようとしてくれていた。さすが、水を司る妖怪だ。その超常的な力で水脈を見つけてくれたのだろう。
俺は顎に手を当て、考え込む。方言魔法『ほぐる』は、『きれいか』よりも魔力を使わない。これなら、魔力が枯渇することはないはずだ。
もし河童が協力してくれるなら、塩害被害を抑え、魔塩草の脅威からアクアクサ領を救うことができるかもしれない。
自然と視線は、ヤクモに流れた。
顔色は戻ったが、疲労の色は滲んでいる。妖怪との会話にどれほどの魔力が必要なのか分からない。あまり無茶はさせられない。
俺はどうすべきか迷い、頭を掻きむしる。そのとき、ヤクモの声が耳に届く。
「これで方針が決まった。俺と河童が水脈を見つけるから、お前が掘れ。この村はもう大丈夫だろう。次の村に向かうぞ」
俺は言葉を失い、ヤクモを見て眉をひそめる。たしかに俺も考えていたが、こいつの魔力が心配だ。俺は声を落として尋ねた。
「大丈夫なのか、お前の魔力は? それに、あいつは協力してくれるのか?」
ヤクモは喜び合う村人たちを眺めながら答えた。
「ああ、問題ない。どうやら妖怪を認識するときに大量に魔力を奪われるが、あとは会話するときぐらいだ。これから先は、必要なとき以外は、手振り身振りで意思疎通を図るつもりだ。それに、あいつも協力したいと言っている」
その表情は穏やかで、妖怪を恐れていた面影は消えていた。そんなヤクモを見て、口元が綻ぶ。
「何を、にやにやしている! 急いで次の村に向かうぞ」
ヤクモはわずかに頬を染めて叫んだ。すると、村人たちは驚き、歓声が止む。
今度は俺が腹を抱えて笑い出すと、ヤクモは軽く俺の頭を叩き、逃げるようにその場を足早く離れていった。
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