124 監視者の舌打ち、聖剣の牙
ソウガとテッペイが走り出した、その瞬間――別の場所で、苛立たしげに戦況を睨む女性がいた。
彼女は部屋に設置されたモニターに映る純白の機人と、漆黒の小型機人を見て、舌打ちをする。炎翼のアスカだ。
(……せっかく遮音の魔導具を貸してやったのに。なんてざまだ。<聖騎士>なんて呼ばれているが、こんなものか)
彼女は戦争時にしか装備が許されない貴重な魔導具を、済聖光学園の整備担当の学生に密かに渡していた。
もちろん大会本部もこのことは知っており、黙認している。さらに機人の改造に学生以外――工匠ギルドのアリタス家の技術者が加わっていることも認めていた。
すべては光武七翼――炎翼のアスカの指示だ。
彼女は竜蛇山から少し離れた場所に建てられた仮設施設から、トライアド・サバイバルを観戦している。
アスカの前の巨大なモニターには、竜蛇山に設置された固定カメラと、山中に潜む機人たちの望遠レンズが捉えた映像が、次々と送り届けられていた。
腕を組み、憮然とした表情でモニターを睨むアスカに、大会本部長や実行委員長は何も言えず、気づかれぬよう距離を取り始める。
そんな最悪の雰囲気の中、漆黒のローブを纏う美女――魔翼のクロメが、アスカの隣の席に腰を落とした。
「そんなに怒っては、皆さんが怖がりますよ。アスカさん」
ぎろりと睨むアスカに、クロメは肩をすくめる。
「珍しいな、クロメ。お前が学園総体を見に来るなんて」
その言葉に、クロメは苦笑いを浮かべた。宮廷魔導士の総帥である彼女は多忙を極める。学生同士の試合を見る余裕などあるはずがない。
「仕方ないではありませんか、アスカさん。もしこの試合でソウガ君が優勝したら、今度の内乱鎮圧では私の部隊に編入されるんです。彼の実力を確認するのは当然でしょう」
「ふざけるな。そんなことはさせない! それに万が一、優勝しても、陛下が気に入らなければ召集されることもない!」
大声で叫ぶアスカを前に、大会本部長と実行委員長は腰を抜かし、椅子から転げ落ちた。そんな男たちを見て、クロメは眉を下げる。
(彼らも可哀想。アスカさんに無理難題を押し付けられて……。だけど、この試合が終われば解放されるわけだし、もう少し我慢してもらいましょう)
涙目の彼らに妖艶な笑みを向けると、二人は頬を染め、クロメをじっと見つめた。
その様子を忌々しげに見つめるアスカだったが、注意することなくモニターに視線を戻す。
クロメも大会本部長たちから視線を外して座り直すと、正面に映る二体の機人をじっと見つめた。
巨大なモニターに映る純白の機体と漆黒の機体。済聖光学園のテッペイと、ベアモンド学園のソウガ――二人は今、まさに激突しようとしていた。
◆
突然の暴風で大量の葉が舞い、視界を遮る。だが、モニターに映る緑の吹雪の隙間から白い機影を捉え、俺は一気に駆け出した。
漆黒の装甲を葉が叩き、乾いた音を立てる中、猛然と突き進むと、光盾を振り下ろす聖導機人が目に飛び込んでくる。
宙を舞う無数の青葉の中をすり抜ける光盾。一枚の葉も斬らず、まっすぐ俺へ振り下ろされた。
防御を無視する攻撃――受けることはできない。俺は半身になって躱し、光盾を伸ばした腕へ回し蹴りを放った。
ガキンッ――金属同士がぶつかる甲高い音が響き渡る。直後、蹴り飛ばされた腕の勢いを利用して、純白の機人の上半身がぐるりと百八十度回転した。
再び光盾が襲いかかる。遠心力が加わった一撃は鋭く、俺は咄嗟に身をかがめる。頭上すれすれを白い剛腕が通り過ぎた。
間一髪で躱した俺は、そのままクラウチングスタートの姿勢になり、駆け出した。一瞬で聖導機人の足元まで詰め寄り、腰を沈める。
拳を握り締め、腰まで引いた――そのとき、力が吸い取られるような感覚が襲った。視線を上げると、白い砲口がこちらを向き、魔法陣を浮かび上がらせている。
(多分、<聖剣>化した回復魔法だろう。ここまでの効果とは思わなかったな)
かなりの体力を奪われ、膝をつきそうになる。だが歯を食いしばり、なんとか耐えて正拳を叩き込んだ。
ボコンッ、と純白の装甲が凹み、聖導機人は大きく体勢を崩す。斜面を滑り落ちながら、もう片方の腕――その砲口をこちらに向けた。
次の瞬間、悪寒が走り、吐き気を覚える。全身から血の気が引き、指先が冷たくなる。テッペイさんが浄化魔法を<聖剣>化させ、俺に施したのだと悟った。
体力を奪われ、状態も悪化した。朦朧とする意識の中でモニター右下の魔力残量を確認すると、『90/140』と表示されている。
影響を受けるのは操縦者だけ――そう分かり、青ざめた顔で安堵する。俺は右手を滑落する聖導機人へ向け、叫んだ。
『あつか――けん!』
魔法剣を発動すると、右手に蒼炎の剣が現れる。視界が霞む中、俺は人差し指を伸ばし、純白の機人に照準を合わせた。
指先が聖導機人の右脚と重なる。俺は引き金を引くように指を曲げる。その瞬間、大気を裂いて蒼炎の剣が放たれた。
蒼炎は滑り落ちるテッペイさんの機人へ真っすぐ突き進み、直後、純白の装甲を穿って右脚を破壊した。
(……これでテッペイさんは、もう動けないはずだ)
テッペイさんの機人には判定用の魔導具はなかった。脱落は取れない。だが足を奪えば十分だ。
俺は眩暈に耐えながら、視線を山頂へ向ける。そこには、上空を飛びながら二体の機体――ナツメとハンナを翻弄する紺碧の機人の姿があった。
すぐに加勢へ向かおうと、鉛のように重い足を引きずって山頂を目指す。――そのとき、鬱蒼と茂る木々の合間に、不自然に光る固定カメラが目に入った。
それは、持ち主の憎悪が宿っているかのように、鈍く淀んだ光を放っていた。
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