123 <聖剣>の正体
俺は山頂から下り、森の中に入ると、集音機能を起動して耳を澄ませる。だが、鳥のさえずりや枝葉が擦れる音しか聞こえなかった。
ナツメが見張る西側にテッペイさんは潜んでいると予想したが、違ったようだ。このまま東側まで迂回し、探索を続けようとしたとき、モニターが切り替わる。
映し出された映像には、こちらに突っ込む純白の機体――聖導機人の姿があった。慌てて迎え撃つべく構えるが、背後の映像だと気づいて横へ跳躍した。
直後、轟音が耳を劈く。すぐに集音機能を停止し、地面に手刀を突き刺して、斜面から滑り落ちるのを阻止する。
なんとか滑落せずに済んだ俺は顔を上げる。モニターに、こちらを見下ろす聖導機人――テッペイさんが映っていた。俺はその機体を見て、息を呑む。
ナツメが言った通り、肩に魔導砲はない。加えて装甲は薄く、今まで見た機人よりも一回り細く見える。
だが、それよりも驚いたのは両腕だった。左右の腕には手がなく、代わりに砲口が突き出ている。
もはや改造の範疇を超えている。だが、大会本部が認めたということは、生徒たちが行ったということだ。俺は大きく息を吐いて落ち着く。
そのとき、純白の機人の両腕が光り出した。手首から先を切断された腕をかざす機人。その先端の砲口から閃光が迸った。
眼前に迫る光弾を腰を落として回避すると、そのまま一気に駆け上がった。一瞬で詰め寄った俺は、背後に回り込み、飛び蹴りを放つ。
聖導機人の背中を目がけて跳躍する武蔵零式。足刀が届く瞬間、視界の端に白き砲口を捉えた。咄嗟に足を戻し、両腕を前面で交差して体を捻る。
直後、光弾が直撃する。すぐに俺はモニター右下の魔力残量を確認した。『99/140』――魔法防御が発動し、『5』が消費された。
油断していたことに気づく。バックアタック・マッチの決勝と同じ展開だった。あのときもテッペイさんは、背後から襲う俺を見破り、攻撃した。
なんとか体勢を立て直して着地すると、背を向けたまま腕の砲口だけをこちらに向ける純白の機体を見やる。
パワードスーツである武蔵零式とは異なり、機人の可動域に限界はない。
眼前の機人は、肩の付け根から上腕を異音もなく百八十度回転させ、肘を本来ありえない方向へ深く折り曲げていた。
――人間なら肩は外れ、肘の関節は壊れている。
機人は魔核にイメージを伝達して操縦する。あのような動きを想像できるテッペイさんの異常さに、背筋が冷たくなった。
思わず息を呑むと、純白の機人は腕を戻して振り向いた。
『よく回避できたな、ソウガ。さっきは背後から近づく俺に気づかなかったくせに』
その言葉に首を傾げる。俺は集音機能を使い、周囲を警戒していた。音も立てずに背後をとったテッペイさんが一枚上手だっただけで、揶揄される覚えはない。
『テッペイさん、さっきは見事でした。無音の接近――かなり注意して周りを見て、聞き耳を立てていましたが、全然気づきませんでしたよ。さすがです』
納得できないところはあるが、素直に賛辞を送る。テッペイさんは俺よりも二つ年上で、経験も技術も勝っている。揶揄われても仕方ない。
『……何を言ってるんだ。皮肉のつもりか? 俺は普通に近づいただけだぞ』
(……普通? じゃあ、俺の耳は何を聞いていた?)
意味が分からず、再び首を傾げる。見事な隠密だった。混乱させようとしているのだろうか。油断なく純白の機人を見据える。
直後、聖導機人の両腕から光が伸びた。おそらく光盾――防御魔法だ。ナツメやハンナの話では、<聖騎士>のテッペイさんは聖魔法を攻撃特化に変換できるらしい。
(<聖剣>化と言っていたが、まさしく聖剣だな)
両腕の砲口から伸びる光盾は金色に輝き、聖なる雰囲気が漂っている。武蔵零式の魔法剣に似ているが、盾と呼ぶには細長く、剣と考えれば少し短い。
それに、防御魔法を攻撃特化させるとは、どういうことだろうか。あの光盾で殴るだけなら、聖魔法を扱える者なら、誰でもできる。
少し興味を持ち、ゆっくりと聖導機人に近づいていく。あと一歩で間合いに入る――そのとき、純白の機人が動いた。
テッペイさんは大きく踏み込み、地面すれすれまで腕を下げると、一気に振り上げた。俺は眼前に迫る光盾を睨み、両腕を交差して魔法防御を展開する。
武蔵零式の前に浮かぶ青い魔法陣に、鋭く尖った光盾がぶつかる――ことはなかった。光盾は魔法陣をすり抜け、漆黒の装甲に吸い込まれる。
直後、両腕に激痛が走り、膝をついた。何が起きたか分からず前方を見やると、再び光盾を振り下ろそうとする聖導機人が映る。
慌てて後ろに跳んで回避すると、光盾が地面に突き刺さった。地面に腕を突き立てる聖導機人は、静かに腕を上げた。直後、眼前の光景に眉を上げる。
光盾が刺さっていた地面は抉れておらず、何もなかったかのように平らなままだった。自然と、痛む両腕を見る。漆黒の装甲に傷はない。
(……だったら、さっきの激痛は何だったんだ)
視線を下げたまま動けない。腕には痛みが残ったままだ。軽く握り締めるだけで激痛が走る。呆然と立ち尽くす俺に、テッペイさんの声が届いた。
『混乱しているようだな、ソウガ。何も教えないのは公平じゃないな。簡単に俺の<聖剣>について教えてやるよ。俺は防御魔法を防御無視の攻撃に変え、回復魔法で体力を消耗させる。そして浄化で体調を悪化させることができる』
その言葉に目を見開く。『聖剣』とは言っているが、『呪い』だ。防御を無効にして攻撃する光盾は理解できる。
だが、体力を奪う魔法や状態を悪化させる魔法なんて、前世のゲームに出てくる闇魔法そのものだ。
この世界には火水風土聖の五つしか属性がない。それ以外の属性は存在しないことになっている。
予想だが、テッペイさんを含めた歴代の<聖騎士>たちは、希少な闇属性を持っていた。そして説明できない属性ゆえに、<聖剣>などと呼んだのだろう。
さっきまで聖なる雰囲気が漂っていた光盾が、くすんで見える。現金な自分に苦笑いを浮かべ、小さく頭を振った。
『テッペイさん、わざわざ教えてくれて、ありがとうございます。あと一つだけ、教えてもらえませんか?』
目の前の聖導機人は静かに立ったままだ。俺はそれを肯定と受けて言葉を続ける。
『テッペイさんは、聖魔法を使えるんですか?』
『……あぁ、使える。だが、その力は他の属性と同じく弱いがな』
その声は暗かった。<聖騎士>と呼ばれながら、聖魔法が得意ではないことに負い目を感じているのだろう。気軽に聞いていい内容ではなかった。
『変な質問をして、すいませんでした』
俺は深々と頭を下げて謝罪した。もし、この瞬間攻撃されても文句を言うつもりはない。
やがて頭を上げる。眼前の聖導機人は静かに佇んでいた。その誇り高い精神は、まさに『聖騎士』そのものだった。
俺は笑みを浮かべ、拳を突き出した。それに呼応するかのように、純白の機人も両腕を上げ、その先から光盾を伸ばす。
その瞬間、突風が起き、二体の機人の間を通り過ぎた。視界を埋め尽くす緑の吹雪の中、俺とテッペイさんは同時に動いた。
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