122 空より刺客、森より矢
西に傾き始めた太陽。鋭い陽光が差し、俺は思わず目を細める。すると、モニターの輝度が調節され、視界がクリアになった。
自然とモニター右下を見る。魔力残量は『105/140』。休憩前が『97』だったから、一時間足らずで『8』回復したことになる。
これならシンヤさんたちと戦っても問題ない。魔力残量が二割――『28』を切ると、強制的に装甲が解除される。これだけは頭の隅に留めておく。
モニターの輝度調整がない魔導機人――ナツメに見張りを代わろうと歩み寄ろうとしたとき、影が落ちた。
顔を上げて凝視する。モニターに、太陽を背に上空を飛ぶ紺碧の機体が映る。シンヤさんの魔導機人だ。魔法剣『あつか』を起動するため、右手を上げる。
次の瞬間、白く輝く火弾が紺碧の機人に直撃した。振り返ると、ハンナの聖導機人の魔導砲が淡く輝いていた。
聖なる力を帯びた火弾は、シンヤさんの機人を包み込み、二門の魔導砲から吹き出る風魔法を浄化した。直後、彼の機体は空中で大きく体勢を崩す。
その隙を突き、ナツメが魔法の発動を始める。彼女の機人の魔導砲が青く輝き出した。そのとき、森の中から矢が飛び出した。
『ナツメ、狙われているぞ! 避けろ!』
俺が大声で叫ぶと、武蔵零式の音響出力が勝手に上がり、耳を劈くほどの俺の声が竜蛇山に響き渡る。
ナツメは即座に反応し、機体を反転させて巨大な盾を前面に突き出した。そして、その影に隠れて右肩の魔導砲から水魔法を発動する。
ヒュンと大気を裂き、水弾は森の中に吸い込まれる。直後、ナツメが構える盾に矢が当たり、甲高い音を立てた。
間一髪で、彼女は敵の攻撃を防ぎ、牽制の魔法を撃ち込んだ。俺は次の攻撃はないと判断し、ハンナに視線を戻す。
そこには、上空から落下するシンヤさんの機体に薙刀を突き上げる聖導機人の姿があった。その様子を凝視する。
体勢を崩しながらも、真下にいるハンナの機人に、しっかりと目を向ける魔導機人。その機体には判定用の魔導具は付いておらず、ボウガンが握られていた。
嫌な予感がした。俺は反射的に走り出す。直後、一直線で落下する紺碧の機人に、ハンナが鋭い刺突を放った。
穂先が当たる瞬間、シンヤさんの機人が空中をスライドし、ハンナの薙刀を回避した。空を切る穂先。彼女の機人に隙ができた。
それを見逃すことなく、紺碧の機人は即座にボウガンを向ける。
俺は高速移動を発動し、一瞬でハンナの機人の足元まで駆け寄ると腰を落とし、シンヤさんの魔導機人を見上げた
魔導砲から豪風を吹き出して水平に飛ぶ機体。シンヤさんは聖導機人の頭部を目がけてボウガンの矢を撃った。
俺は瞬時に跳躍し、足を振り上げる。ガキンッと金属音が上がり、鋼鉄の矢は大きく軌道をずらし、ハンナの機人の頭上を通り過ぎていく。
安堵の息を吐き、着地した俺は視線をシンヤさんに向ける。彼の紺碧の機人は、こちらを向いたまま離れていった。
背中から落下する機人。肩に備え付けられた魔導砲が小刻みに動き、体勢を立て直すと、森の中へと消える。
『ハンナ、大丈夫か?』
純白の機人――ハンナに視線を戻し、声をかけた。彼女は盾を上げ、周囲を警戒していた。
『うん、安心して。矢は当たってないわ。それよりもナツメさんよ。彼女は大丈夫なの?』
魔導具で拡張された声から、わずかに動揺の色が滲んでいた。だが、ナツメを気にかける余裕はあるようだ。俺はひとまず安堵する。
『うん、問題ないよ。ちょっと驚いたけど、ちゃんと盾で防いだ。だけど、こっちの魔法も当たらなかったみたいだ。手応えがなかった』
ナツメの声が届き、振り返る。彼女は機体を森に向けたまま、警戒を解かずに答えた。その姿に笑みが零れる。
(さすが、ナツメだ。微塵も油断がない)
俺は心の中で賛辞を送った。ハンナの手前、口に出して褒めるのは控える。とはいえ、ハンナは二つ年下の十四歳だ。ナツメと比べるのは少し酷だ。
装甲の下で苦笑すると、視線を感じて振り向く。そこには純白の機人――ハンナが、こちらをじっと見ていた。
操縦席に座る彼女が見えたわけではないが、何となく怒っている気がした。思わず、ひゅっと息を呑むと、ハンナは背を向け、警戒に戻った。
汗が頬を伝う。俺は動揺を隠しながら、ハンナとナツメに告げる。
『シンヤさんは、ボウガンを武器にしている。確かに、あれほどの機動力だ。飛び道具とは相性がいいだろう。それに武導機人も同じボウガンだ。かなりの腕前だった。ナツメの魔導機人に付けた判定用の魔導具を、正確に狙っていた』
そこで言葉を切り、周囲を見渡す。まだ、相手が動く気配はない。ハンナもナツメも、眼下に広がる急峻な斜面に目を向けていた。
彼女たちの機人の背中を見つめ、言葉を続ける。
『あとは、テッペイさんの聖導機人だが、ナツメの話では魔導砲を外しているらしい。どんな武器で攻撃してくるのか分からない以上、この狭い山頂で戦うのは危険かもしれん。俺が森に入って探してみる』
俺の提案に彼女たちは振り向くことなく、手を上げて了承の意を伝えた。本当に二人とも、一分の隙もない見事な集中力だ。
その姿に口角を上げる。これなら俺がいなくても、シンヤさんたちに遅れをとることはない。俺はゆっくりと歩き出した。
やがて眼下に、鬱蒼と生い茂る森が広がる。その瞬間、突風が吹き抜け、千切れた葉が漆黒の装甲を乾いた音で叩いた。
俺は静かに息を吐き、大きく踏み出す。それに応じるかのように樹冠がざわめき、鳥が一斉に飛び立った。
――それはまるで、これから起こる惨劇を予感させる不吉な嘲笑のようだった。
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