121 孤独な台座、落ちる影
私は山頂から動くことなく、戦況を思い返していた。
済聖光学園のシンヤさんが森から上空に飛び出して索敵するたび、チームの脱落を告げるアナウンスが流れた。
続々とフィールドから出ていくチームを眺めながら、私は仮説を立てた。
テッペイさんたち二体の機人はシンヤさんから指示を受けると、すぐに他校のチームへ向かい、速攻で撤退に追い込んでいた。
だが、相手のチームは三体だ。二体しかいないテッペイさんたちが、簡単に勝てるとは思えない。
しかし、<聖騎士>のシンヤさんなら可能だ。守りや浄化、回復に特化した聖魔法すら攻撃特化に変換できる<聖剣>を持つ彼なら――。
それにナツメさんの話によれば、済聖光チームの最後の機人は清正三式――武導機人で、ボウガンを武器にしているらしい。
人目を惹くテッペイさんの純白の機人が囮となり、その隙を突いて物陰から武導機人が判定用の魔導具を撃ち抜いた――そう考えられた。
相手は三年生だ。実戦経験も戦闘技術も、私たち一年生より高い。様々な戦法や戦術を用意していてもおかしくない。
やはり前回総体の総合優勝を果たした済聖光学園が、私たちの最大の壁となって立ちはだかる。つい操縦桿を握る手に力が入った。
『いよいよ大詰めだね、ソウガ、ハンナ。まだ相手は麓にいるようだし、すぐに攻撃してくることはないと思う。作戦を考えようか?』
紺碧の機人――魔導機人に搭乗するナツメさんの声が届く。彼女の機体に視線を向けると、背を向け麓を見下ろしたままだった。
私も視線を戻し、前方を警戒しながら答える。
『そうですね。まずは攻めるべきか、守るべきか――それとも逃げるべきか。基本方針を決めましょう』
静寂が満ちる森を見つめながら提案すると、ソウガの声が搭乗席に響いた。
『逃げるのは無理だろうな。機動力ならシンヤさんの魔導機人がいる相手が上だ。それにこの深い森の中――相手がどこにいるか分からないのに、どこに逃げるんだ? 下手をすれば、逆に遭遇するかもしれないぞ』
足元のカメラに切り替えると、こちらを見上げる武蔵零式がモニターに映る。休憩を終えて装着したようだ。魔力は回復できたか尋ねようとしたとき、ナツメさんが口を開いた。
『ソウガの言う通り、逃げるのは難しそうだね。なら守るか、攻めるか――二人はどっちがいいと思う?』
その言葉に思考を巡らす。ソウガが指摘した通り、機動力は相手が上だ。ならば麓に広がる森の中で戦うのは、相手を有利にさせる。
加えて、シンヤさんの魔導機人は一時的にだが上空を飛べる。先に見つかってしまう可能性が高い。そうなれば、待ち構えられて奇襲や狙撃される。
選択肢があるようで、実はなかった。私は小さくため息を吐き、告げた。
『ソウガ、ナツメさん。ここで迎え撃つしかないでしょう。麓の森にいた敵チームは、シンヤさんに見つかり、テッペイさんたちに倒されました。その結果から見ても、麓の広大な森は相手が得意とするフィールドです』
モニターに映るソウガに視線を向ける。漆黒の小型機人は顎に手を当て、考えているように見える。だが、装甲に隠れ、表情が見えなかった。
(……本当は何も考えていないのかもしれない。まさか、そんなことはないか)
つい笑みが零れ、張り詰めた気持ちが解ける。それに救われた気がして、視線を戻したとき、ナツメさんが話し出した。
『そうだね、ハンナの指摘は正しい。ここで待つことにしよう。相手は麓に下りてきてほしいだろうけど、無視だね。だってポイントはこっちが上回っている。アナウンスを聞いて数えていたから間違いないよ。相手は「18」で、私たちは「19」だ。おそらくどこかのチームが敵を倒したのか、棄権したみたいだ』
ずっと森を警戒をしていた紺碧の機人――ナツメさんの白秋三式が初めて、こちらを向いた。
太陽は正午を過ぎて傾き始めているが、それでも日差しは強い。紺碧の装甲を激しく照らし、ぎらりと光を返す。その姿には自信が漲っていた。
『このまま、ここで待っていれば、シンヤさんたちは必ず来るよ。別に来なくてもいいけど、夕刻になって試合が終われば、ポイント差で私たちの優勝が決まる。それを見過ごせる彼らじゃない』
その通りだ。ライバルである私たちベアモンド学園に負けることを、簡単に受け入れるほど済聖光学園のプライドは低くない。
シンヤさんたちは間違いなく、山頂にいる私たちを目指して登ってくる。私は警戒を一段階高め、周囲を見渡した。
ここは古代の城跡。人の手で切り拓かれた削平地が広がる。だが、その広さはわずか十メートル四方。
八メートル超の機人にとって、それは足場というより、天に突き出した孤独な台座のようだった。
ところどころに顔を出す古い石畳だけが、かつての栄華の断片を残す。ここが遥か昔、戦場だったことを思い出させた。
私は眼下に広がる急峻な斜面を睨みつけた。最後にシンヤさんの機影を確認できたのは、ナツメさんが見張る西側――目の前に広がる森とは反対だ。
だが、油断はできない。大きく迂回し、こちらから登ってくる可能性だってある。相手は済聖光学園を代表する精鋭――シンヤさんとテッペイさんだ。
私がいつでも魔法が発動できるよう操縦桿に魔力を込めると、聖導機人は薙刀を構えて盾を突き出した。遅れて左肩の魔導砲が、微かに光を帯びる。
(……これで、いつ襲撃されても大丈夫。ボウガンは盾で防げるし、魔法は聖火で浄化できる。同型の聖導機人――テッペイさんの蘆花三式の改造機が襲ってきても、この薙刀で斜面に突き落とす)
私は様々な攻撃を予測し、対応すべき動きをイメージする。
やがて日が傾き、初夏の峻烈な日差しを背中に浴びる。足元に伸びる影を見やり、西側を警戒するナツメさんを心配した。
猛烈な陽光を正面で受け、視界を確保するのは難しいはずだ。そう感じて声をかけようとしたとき、巨大な影が落ちる。
咄嗟に見上げ、息を呑む。紺碧の機人――シンヤさんだ。私は天を駆ける魔導機人へ魔導砲の照準を合わせた。
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