120 近づく決戦、夕刻までは遠い
私は次の指示を仰ぐソウガを見る。モニターに映る漆黒の小型機人――武蔵零式は、青く光る目をこちらに向けていた。
その姿を見つめながら、彼の言葉を思い出す。ハンナが見張っていた森に潜んでいたチームは、ソウガが倒したらしい。
その数は八。ハンナも一チームを撤退させたので、合わせて九チームを脱落させたことになる。
そして、さっき私とハンナで協力して倒したチームが十一。少なくとも半分――合計二十チームがフィールドから去ったことになる。残りのチームは、私たちを入れて二十のはずだ。
このまま試合が終わる夕刻まで逃げ切れば、敵を脱落させたポイントで群を抜いている私たちの優勝が決まる。
他のチームが優勝するには、私たちを倒す以外ない。どんなに敵を倒しても、脱落したらそこで試合終了。取得した点数も取り消される。
今、フィールドにいるチームが残りのすべての敵を倒しても十九ポイントだ。私たちには届かない。
――とはいっても、その中には私たちも含まれるので、あまり意味のない計算だが。
操縦桿から手を離し、肩をすくめる。試合開始から一時間以上が経過している。その間、ずっと張り詰めたままだった。敵もしばらく来ないだろう。私は束の間に緊張を解く。
軽く首を回し、強張った身体をゆっくりとほぐすと、視界の端に青い機影を捉える。すぐにモニター横のダイヤルを回し、映像を拡大した。
そこには大空を飛ぶ紺碧の機人――私の機体と同型の白秋三式が映し出されていた。若干画像は荒かったが、特徴的な魔導砲は覚えている。
――済聖光学園のシンヤさんの魔導機人だ。風魔法を操り、上空まで飛んで周囲を見渡している。
おそらく広大な森の中に潜伏している他校のチームを探し、地上に待機しているテッペイさんたちに教えているのだろう。
右肩の遠距離用の魔導砲で狙いを定めるが、到底届く距離ではなかった。シンヤさんの魔導機人が空高く飛ぶ姿を見つめ、唇を噛む。
やがて、機体は重力に引っ張られて落ちていく。徐々に速度が上がり、地面が近づくと、真下に向いた魔導砲から突風が吹き出し、ふわりと着地した。
森の中に消える紺碧の機人。重なり合った枝と枝が押し広げられ、わずかに隙間ができる。その先に深紅の機人を捉えた。手にはボウガンが握られている。
機動力と出力に突出した武導機人が使う武器ではない。だが、一瞬見えたその機体は装甲が薄いのか、細く見えた。
――機動力に特化した改造を施しているのかもしれない。どのような戦術を立てたのか、思考を巡らせようとした瞬間、アナウンスが響き渡った。
<ただいま、大智学園のナナミチームが脱落しました。急いでフィールドから出てください>
どうやら、テッペイさんが敵を倒したらしい。かすかに揺らぐ木々の隙間から、純白の機人――ハンナの機体と同型機の蘆花三式が見えた。
少し離れた場所には、フィールドの外へ向かう三体の機人の姿もあった。
一瞬だけ見えたテッペイさんの聖導機人の肩には魔導砲はなく、両腕に小さな盾が備え付けられていた。
こちらもかなり改造がされている。おそらくテッペイさんの実家――工匠ギルドのアリタス家から技術的支援を受けている。
本来、あそこまでの大幅な改造は学生では不可能だ。授業で習う範疇を超えている。たとえ王都屈指の名門である済聖光学園でもだ。
アリタス家の技術者が学園に出向し、学生たちに教えたのだろう。ぎりぎり規定に触れることはないが、学生の大会に大人が介入することに眉を下げる。
ふと炎翼のアスカの顔がよぎり、心がざわついた。そのとき、ソウガの声が届く。
『ナツメ、ハンナ。あれは済聖光学園のシンヤさんだ。麓の敵チームは、あちらが片づけてくれそうだな。俺は魔力を回復させる。二人とも、悪いが見張りを頼んでもいいか?』
『わかったよ、ソウガ。私たちも休憩しながら見張っておくよ。君の武蔵零式と違って、搭乗中でも魔力が消費されることはないし、十分余裕があるからね』
私がソウガに告げると、純白の機人――ハンナも手を挙げ、了解の合図とした。私と彼女は再び背中を合わせ、警戒に入る。
敵チームが近づく気配はない。ふと足元のカメラに切り替えると、モニターには武蔵零式の装甲を開き、出てくるソウガの姿があった。
(たしかに魔力を回復するなら、武蔵零式から出たほうがいいけど、いつ敵の魔法が飛んでくるか分からないのに――できるかな、普通)
彼は地面に降り、膝を抱えて座り込むと、仮眠に入った。そんなソウガを見つめ、苦笑を漏らす。豪胆というより、もはや空恐ろしいほどの肝の据わり方だ。
(……精神も、規格外の化け物だね)
ぴくりと動かなくなったソウガと武蔵零式。遠くで魔鳥の鳴き声が聞こえるが、起きる気配はない。その姿から視線を戻すと、モニターを前方に切り替えて警戒を再開した。
――――――――――――
ソウガが眠りについてから一時間が経過した。すでに何度もアナウンスが流れ、チームの脱落を告げた。その数は十七。
もはやこのフィールドに残っているのは三チームだけだ。ベアモンド学園の私たちと、済聖光学園のシンヤさんとテッペイさんのチーム。そして――。
<ただいま、大仁学園のトウヤチームが脱落しました。急いでフィールドから出てください。残りは二チーム。ベアモンド学園のソウガチームと、済聖光学園のシンヤチームです>
竜蛇山に響き渡るアナウンス。その内容に苦笑いを浮かべる。健闘空しく大仁学園も脱落したようだ。
いよいよ決戦が近づいてきた。私は再びモニターに映る映像を足元のカメラに切り替え、ソウガを確認すると、すでに武蔵零式を装着していた。
漆黒の装甲が真夏の陽を浴び、ぎらりと光を返す。試合が始まってから三時間が経過しようとしていた。雲一つない青空に、激しく燃える太陽が真上に浮かぶ。
試合終了となる夕刻には、まだ十分な時間があった。
――逃げ切れる時間じゃない。すでに決戦は始まっている。そんな気がした。
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