119 空を駆ける機人
俺はハンナが見張っている森に潜み、機人を見つけては、攻撃を仕掛けた。すでに六チームを撤退させたが、集音機能はいまだ機人の足音を拾っていた。
――音がするほうへ歩きながら、これまでの機人たちとの戦闘を思い出す。鬱蒼と生い茂る森の中では、八メートルを超える機人はまともに動けない。
長い砲身が枝や木に引っ掛かり、魔導機人や聖導機人は旋回に手間取った。同様に、剣や槍を持つ武導機人も思い通りに武器を振るえず、格好の的となった。
加えて、山頂に近づくほど傾斜はきつくなり、操縦も難しくなる。熟練の操縦士でなければ、この悪環境で自在に機人を動かすのは困難だ。
物陰に隠れ、これまでの戦いに思考を巡らせていると、覚束ない足取りで登る機人たちを見つけた。俺は魔力残量を確認する。
『109/140』。一昨日の魔力枯渇のおかげで、魔力量は『125』から『15』増えていた。その数値に笑みを零し、消費した魔力を計算する。
試合開始から一時間ほどが経過し、さっき魔法剣を発動した。武蔵零式の通常稼働は三分で『1』消費し、魔法剣の発動には『10』の魔力が必要だ。
稼働時間六十分で『20』、魔法剣で『10』を消費。残り『1』は誤差の範囲だ。
モニターに浮かぶ数値に納得した俺は、いまだこちらに気づかない機人に向かって駆け出した。
腰を落として木々を縫うように走りながら、親父が考えた走行法――幻徒の修行を思い出す。
その修行は、不規則に並ぶ切り株の上で、親父が指定した箇所だけを踏み抜くというもの。強引に歩幅を変えられ、足を交差させながら走ることを強いられた。
それに比べれば、乱立する木々を避けながら走ることなど造作もない。速度を上げ、瞬く間に三体の機人の前に立った。
珍しい組み合わせに眉を上げる。武導機人二体と聖導機人――遠距離攻撃を担う魔導機人がいない。
近距離に特化したチームかと思ったが、紅蓮の機体――武導機人が持つ武器は長槍と弓だった。初めて見る弓使いの機人に好奇心がくすぐられる。
すぐに攻撃せず、ゆっくり近づいて相手を誘う。すると、長槍を持つ機人が動いた。真上に槍を振り上げ、真っすぐ振り下ろす。
横に振らず縦に振ることで、密集する木々の妨害を最小限に抑えた。なかなか考えているが、直線的な動きは避けやすい。
俺は軽く横に跳んで回避すると、穂先が地面にぶつかり、砂利が跳ねた。ちらりと視線を横にずらす。
すでにもう一体の武導機人が弓を構え、聖導機人が魔導砲をこちらに向けていた。
宙に浮いた一瞬を狙った攻撃。洗練された連携に賛辞を送る。刹那、砲口から閃光が閃き、限界まで引き絞られた弦が空気を震わせた。
大気を裂き、襲いかかる光弾と矢。目の前に迫る二つを見極める。
『あつか――けん』
前腕の装甲から蒼炎の剣が伸びた瞬間、両手を交差して振り下ろした。ザシュッと音を上げ、光弾と矢を両断する。
光弾はその場で霧散し、矢は二つに折れて通り過ぎた。直後、矢じりが肩に当たり、乾いた金属音が響く。
俺は魔法剣を解除して着地し、魔力残量を確認する。モニターに浮かぶ『98/140』を見て、安堵の息を吐いた。
魔法剣の『10』と通常稼働の『1』だけが消費されている。矢じりの衝突では、防御機能は発動しなかったようだ。
すぐに視線を純白の機体――聖導機人へ向ける。再び、魔法を展開しているのか、砲身が光っている。俺は一気に走り出した。
槍を振り下ろす武導機人の足元に飛び込み回避し、そのまま股下を潜り抜けると、胸に判定用の魔導具を付けた聖導機人に詰め寄った。
目の前の機人は光弾を放とうとするが、近すぎて砲身が下がらない。俺は『観の目』を起動し、背後をモニターに映す。
二体の機人は味方に攻撃が当たるのを恐れ、武器を構えたままじっとしている。その姿にほくそ笑むと、一気に青く光る判定用の魔導具めがけて跳躍した。
渾身の力で拳を握り締め、そのまま突き出す。直後、確かな手応えを感じる。パキッと音を立て、水晶ユニットにひびが入り、一瞬で赤く染まる。
次の瞬間、アナウンスが流れた。
<流々手射学園のヒロコチーム、規定を超えるダメージを受けたため脱落です。速やかにフィールドから撤退してください>
俺はひらりと回転して地面に降り立ち、二体の武導機人のほうを向き、油断なく構える。
だが二体の機人は静かに武器を下ろすと、俺の横を通り過ぎ、聖導機人を連れてこの場を去っていった。森の中に静寂が落ちる。
(……これで七チームを撤退させた。あと残りは何チームだ?)
俺は耳を澄まし、集音機能を起動する。だが、近くに機人の足音も、魔燃機関の駆動音も聞こえない。
こちらの敵はすべて倒した――そう思ったとき、背後から白き閃光が差した。振り返ると、ハンナの聖導機人が聖火魔法を放っていた。
急いで山頂を目指して駆け上がると、隣に立つ紺碧の機人――ナツメが広範囲の水魔法を展開した。
一拍の間の後、アナウンスが流れ、多くのチームが脱落したことを告げる。
俺はナツメたちのほうも敵を倒したと分かり、口角を上げて彼女たちのもとへと歩き出した。
――――――――――――
俺が二人のもとに辿り着くと、紺碧の機人がこちらを向いた。
『ソウガ、どうしてここに? 遊撃として少し離れた場所に潜伏してたんじゃないのかい』
その言葉に苦笑いを浮かべる。たしかに遊撃を買って出たが、こちらに向かってきた敵は倒してしまった。もはや役目を果たし終えた。
それにナツメたちのほうも、今の攻撃で近くにいた敵はほぼ全滅したはずだ。戦闘に集中しすぎて、俺が撤退させるたびに流れたアナウンスが聞こえなかったのだろう。
『ハンナのほうに潜み、索敵していたが、思いのほか簡単に敵を撤退することができた。そっちも、さっきの攻撃で近づく敵は排除できたみたいだし、これからどうする?』
すでに頂上で敵を迎え撃つ意味はないかもしれない。だが、眼下に広がる麓から潜伏する敵のチームを探すのは骨が折れそうだ。
俺は思案に暮れる。そのとき、麓の広大な森の中から機人が飛び出した。俺が目を細めると、映像が拡大する。
モニターに映る紺碧の機体。それは二門の魔導砲を真下に向け、風魔法を操って空を飛ぶシンヤさんの魔導機人――白秋三式だった。
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