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ゴールデン・ウイーク・シャッフル  作者: 中山恵一


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タックスマンズ


短めのウィットを含んだ原案を書いてくれという連絡がきた


ジワジワとした恐怖。大都市 高所得者が感じる恐怖として

税金取りネタを御所望らしい。


AIバブルとかで今年だけ、たまたま儲かった成金が増えたので

それらの人々とかにとってのジワジワとした恐怖


インフレで払う金額の増えた消費税から

所得税や固定資産税を元に算定される国民健康保険料まで

払わされる側に嵌め込まれるかもしれない恐怖とかでもいい


そんな事を言うが、たぶん、違うだろう。

んで、結局、監視社会の恐怖を書いてみる事になった。


・・・・



シーン1 納税の正義をめぐる夜


とある国の地方自治体の中央省庁所在地的な街の、

少し煤けた居酒屋の個室。湯気の立ち上る鍋を囲み、

久しぶりに顔を合わせた税務大学の同級生たちが、

グラスを傾けながら、我々の職務に関する世間話に花を咲かせていた。


「いやあ、しかしお前は相変わらずキレるな」


そう言って笑うのは、国税局で査察官をやっている男だ。

同期の中で一番の出世頭である彼は、

どこか余裕のある笑みを浮かべ、手元のグラスを回した。


「当たり前だろ。俺たちがやっているのは、国家の根幹を支える最後の砦だからな。

 まあ、突き詰めれば、額の大小や手法の違いこそあれ、

 国のために税金をかき集めて国庫に納めるという根本の業務じゃあ、

 ここにいるお前らも俺も同じ穴のムジナだけどな」


その言葉に、県の財務事務所で働く一団がグラスを合わせながら応じる。


「ははっ、国税殿には敵わんさ。

 こっちはこっちで、県税事務所の公官庁会計として不動産取得税や県民税、

 法人事業税の賦課・徴収に日夜追われてるんだ。

 県内の企業や県民にどれだけ適正に、かつ漏れなく納めさせるか。

 俺たちの実務も、地方自治体の財政を回すための立派な税金収納業務だぜ」


すると、今度は市町村の市民税課に勤める一団が、やれやれといった顔で会話に加わった。


「県や国が威張るなよ。


 末端で一番泥臭く、かつ住民の生活に直結しているのは、

 俺たちが担当する市町村民税や固定資産税の現場さ。

 個人の所得を細かく突き合わせ、一円の滞納も許さずに取り立てる。

 結局のところ、国家の末端を支えているのは、俺たちのこの手作業の積み重ねってわけだ」


最後に、苦笑いを浮かべながら口を開いたのは、

かつては官僚や公務員としての道を歩みかけたものの、

さまざまな理由で民間へと転じた者たちだった。


現在は税理士会に所属し、商工会議所を巡りながら中小企業の税務会計を指導する立場にいる。

その傍ら、高度な節税金融商品の販売仲介なども手掛けている一団だ。


「まあまあ、そう熱くなるなよ。俺たちなんて、

 公官庁会計を担う表舞台の世界へは行けず仕舞いだったり、

 途中でドロップアウトしたりして、今は民間側から中小企業を指導する立場にいるんだからさ」


酒が進むにつれ、彼らの口調には妙な熱が帯びてきた。

実際に扱っているのは、経営者向けの節税スキームや、

金融商品の販売セールスであっても、

その内面を支配しているのは強烈な「我々の正しさ」だった。


「だけどよ、立場が変わろうとも、俺たちの本質は変わっちゃいない。

 結局のところ、俺たちの職務の本懐は、

 国や地方自治体の税収を増やすことにあるんだからな」


「そうだそうだ。だいたい、私腹を肥やそうとする民間企業の経営者や、

 守銭奴のような資産家どもに、きちんと国のために税金を払わせること。

 それこそが俺たちに課された使命だ」


彼らを突き動かしているのは、純粋な「我々の正しさ」に従う正義感だけだった。


「いかにして、あいつらからもっと税金を合法的に、あるいは容赦なく払わせられるか」


「いかにして、税金の算定基礎となる所得や報酬を吊り上げさせ、

 それに連動する社会保険料まで余すところなく払わせるか」


話題はそればかりだった。

酒の肴は、いかに相手を追い詰め、

納税額を跳ね上がらせたかという武勇伝の数々である。


その熱狂的な「正義の輪」の端っこで、

静かにグラスの水割りを傾けている男が一人いた。


彼は、そのどの機関にも属していない。

国税でも、県の財務事務所でも、市町村の税務課でもなく、

ましてや税理士会ですらない。

身分は、民間のIT企業のシステムエンジニアだった。


彼の任務は、この席にいるような税務大学校出身者や、

各地の税金集金機関に所属する者たちのネットワーク、

そして彼らの動向や私生活に至るまでを監視する

「監視チェックサーバー」の運用保守だった。


――もしも、彼らの誰かや、その元関係者が節税の失敗から脱税に手を染め、

社会的なスキャンダルとなって「我々の面子」が盛大につぶれるような事態でも起きたら、

それこそ組織の威信に関わる大問題になる。

それを未然に防ぐための、見えない網の目だった。


彼は、自分自身の職務のことは一言も語らなかった。

語れるはずもなかった。


(どうせ、俺なんか、このエリートたちの内輪で出世なんかできるわけがない。

 組織の歯車として使い潰されるくらいなら、

 もらえるだけの高い給料と、安定した報酬をもらうことだけだ。……金さ)


そう心の中で冷ややかに割り切りながらも、

彼は表情を崩さず、熱く語り合う元同級生たちを見つめていた。


「おい、どうしたお前は。相変わらずおとなしいな」


ふと、国税の出世頭が彼に振る舞いを促す。

男は愛想笑いを浮かべ、グラスを軽く掲げてみせた。


「いや、みんなの仕事の話を聞いているだけで勉強になるよ。

 さすがだなと思ってさ」


「そうだろう? 俺たちのような職務に忠実で、

 有能で勤勉な姿勢こそが、この国を支えているんだからな」


男は心の中で小さく息をついた。

これは、内輪から脱落者を出さないための宴だった。


「どうせ俺なんか」と絶望して道を外れたり、

組織の裏をかこうとしたりする人間を絶対に作らない。

ただひたすら「我々の職務」にのみ忠実な人間の枠内に

留め置き、監視し続けるためのチェック機能。


それを運用しているシステムの管理者が、今こうして

彼らと同じテーブルにつき、彼らの熱狂的な正義感を聞き流している。


その事実を、監視している側の彼が、自らの口から暴露するはずがなかった。

男はただ静かに微笑み、彼らの終わらない

「税金と正義」についての語らいに相槌を打ち続けた。





シーン2 データセンターの冷気と、消された足音


週が明け、喧騒の居酒屋から一転して、無機質な空調音が響く堅牢なデータセンター。

監視チェックサーバーを運用・管理する男は、静まり返ったフロアの端末の前に座っていた。


モニタのブルーライトが、彼の無表情な顔を照らし出す。

その日のログ、そしてAIとプログラムが自動生成した

「要注意人物アラート」のリストのトップには、

数日前に同じテーブルで熱く税の正義を語っていた男の名前が表示されていた。


――県財務事務所の若い担当者。


あの夜、彼は自分の成果を誇らしげに語っていた。


「中小企業に法人事業税をもっと払わせるため、指導して税収を上げた」と。


しかし、サーバーが拾い上げた彼の音声データの断片は、

地方自治体に関する法律で定められた

公官庁会計税務の枠を完全に踏み外したものであった。


「銀行の融資ってーのはね、3年赤字が続くと稟議が通らなくなりますよ。


 経費に計上しなくていい実際は飲食雑費とかあるんじゃないですか?

 それを経費計上しなけりゃ帳簿上は黒字になるでしょう?


 そうすれば銀行から金が借りれますから、交際接待費を、なるべく飲食雑費って事にして、

 同じように経費に計上しなくていい支出を増やして黒字だった事にして、もっと借金しましょうよ」


画面をスクロールすると、関連するネットニュースや朝刊の切り抜きデータが並んでいる。


本人は「中小企業に黒字を出させ、法人事業税をより多く払わせて税収に貢献した」という、

自分なりの歪んだ『我々の正しさ』のつもりだったのだろう。

しかし、そのアドバイスに忠実に従ったオーナー社長の粉飾決算が

株主総会で発覚し、ついに内紛から外部へと漏れて大々的な新聞沙汰になってしまったのだ。


「……なんて浅はかな目先だけを追うバカなんだ」


男は小さく呟き、キーボードを叩いた。


このままでは、


「税金集金機関の職員が、自ら率先して粉飾決算を指南していた」


というスキャンダルとして全国報道に発展し、組織全体の信用が地に落ちる。


――いや、『我々の面子』が致命的に潰れてしまう。


危機管理の対応は、驚くほど迅速だった。


データセンターの専用回線を通じて、

秘密裏に「不祥事揉み消し部署(内部統制・特命対策室)」の幹部と、

チャットおよび音声で連絡が取り交わされる。


「状況は把握しているな?」


受話器の向こうから、冷徹で感情の読めない声が響く。


「はい。サーバーのログ、該当する音声解析データ、

 およびSNS上の拡散予測シミュレーションの完了分もアップロード。

 すでに二次波及を防ぐためのルートは構築済みです」


「よし。であの若造はどう始末する?」


「考えの浅いあの担当者については、通称、座敷牢部署と呼ばれる

 すでに『身体障害者自立支援センター』への人事異動を発令し、

 目立たない部署へと隔離しました。


 対外的には、あの不用意な発言をした職員は

 最初から存在しなかったことになっています」


「見事だな。で、責任の矛先はどこに向かわせる?」


「完璧にシナリオは用意してあります。

 スケープゴートとして、融資を通すために裏で手引きをしていた

 『該当銀行の融資担当者』が、自らの保身と3月、9月の半年間毎に課せられる

 過酷なノルマ達成のために中小企業へ粉飾決算を執拗に誘導した


 ――という世論が面白半分に語りやすい情報を仕立て上げました。

 すでにリーク情報は特定の記者の手に渡っています」


「ほう、銀行側を悪者にするわけか」


「ええ。銀行側が不正融資の隠蔽のために企てた不祥事として

 大々的に新聞沙汰にさせ、全責任をあちら側に被せます。

 これで、我々官公庁側の税務指導における信頼性と正当性は完全に守られます。

 すべては『我々の信用』の維持のために」


特命対策室の男は、電話の向こうで満足げに鼻を鳴らした。


「さすがだな。お前の運用する監視サーバーと、お前の冷徹な判断力があれば、

 どんな不祥事も『なかったこと』にできる。引き続き、監視の目を緩めるなよ」


「――承知いたしました」


通話を切ると、データセンターの静寂が戻ってきた。

モニターに映し出された「処理完了」インジケーターを確認し、フッと息を吐く。


世間では、ある地方銀行の不正融資と粉飾決算への加担が

大きく報道され、世論の非難を浴びている。

しかし、その裏で糸を引いていた税務の人間たちは、誰一人として傷ついていない。


「どうせ、俺なんかは出世できる器じゃない。

 だからこそ、この絶対的な監視システム運用担当として、

 淡々と正確に仕事をこなす。……それで十分だ」


男は誰にも聞かれない声でそう呟くと、

再び何食わぬ顔で次のログ監視の作業へと戻っていった。

組織の「正義」と「面子」を内側から守るための、冷たい機械の番人として。



・・・


結果、罵声とともにボツとなった


社会風刺としても中途半端だし、

実在する都道府県税を担当する財務事務所の左遷先として

身体障碍者自立支援センターが実在するし


監視チェックサーバーも、一番、高性能になったものが

全国の都道府県の警察本部や県庁にあるから

それを面白半分に語るのは、いくら表現の自由とは言っても

けしからんという事だった。


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