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ゴールデン・ウイーク・シャッフル  作者: 中山恵一


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忍者漁村 シーン8 お望みの結末

夕暮れの潮風が、相模の荒々しい波の匂いを運んでくる。


数ヶ月ぶりの帰還となった俺は、あの薄暗い寺子屋の一室で、

上役である佐平次に向かって静かに密書を差し出していた。


あの後、仕込んだ毒は「有能な重鎮の急病死」を演出し、

外からは不満分子の囁きが、内からは無能な身内という毒薬が、

見事に狂いなく歯車を回し切った。



「――以上が、隣接藩の統括武家を御家騒動による引責改易で

 御家断絶に追い込んだ経緯のすべてです」



淡々とした報告を聞き終えると、

佐平次は顔の深い傷をわずかに歪め、不敵な笑みを浮かべた。



「よくやったな、小僧。


 お前の予想以上の働きに、村長様も満足しておられる」



佐平次は湯呑みに口をつけ、フッと息を吐いた。



「報告によれば、お前が仕込んだ通りになったそうだな。


 無能で見栄っ張りなあの馬鹿息子が

 良い評判に酔いしれ勝手に動き回ったせいで、


 一族の長老たちは『あんな愚か者では家が駄目になる』

 と御家騒動を巻き起こした。


 そこへ、お前らがばらまいた不満分子の噂が重なり、

 藩の重鎮の耳に『あの家は、もはや騒動を収集できない』と届いた。


 ……見事なものだ。


 刀を一度も抜かずに、家の一つをきれいに滅ぼしてみせた」



「刀を抜くより、人の集まる群れの中に蠢く

 見栄と疑心暗鬼を利用したほうが、組織はよほど脆く崩れますからね」



皮肉めいて笑うと、佐平次は鋭い片目を細めて俺をじろりと睨みつけた。



「ほう。相模の浜で地引網を引っ張っていただけのガキが、

 今じゃすっかり一人前の火種巻き。みたいな顔をしやがって。


 夢見の伝承を応用した

 夢見の記憶だか何だか知らんが、


 その悪知恵、なかなかにタチが悪い」



「夢見の記憶と言っても、元は村に伝わる夢見の伝承

 代々の村の衆により培った知恵の御かげですよ。


 群れの中で生き残るために仕掛けた人々の夢、


 もちろん、この忍者村に伝わる群れを操るための伝承もですが、


 群れの意識というものの性質を利用していれば

 どうとでも仕掛けられるし動かせる


 それを理解できたのも仕込み役様のおかげです」



俺の言葉に、佐平次は珍しく声を上げて低く笑った。


「ワシのおかげ、か。……まあ、いい。


 初陣でこれだけの成果を上げた下忍などそうそうおらん。


 お前の『影の薄さ』と、そのねじ曲がった処世術は、

 この村にとって、なかなかの宝箱になりそうだ」


佐平次は机の上に置かれた、次の任務の巻物を指先でトントンと叩いた。



「休む間もなくて悪いが、


 次の『出稼ぎ』の準備をしておけ。今度は別の藩だ。


 お前のその『特徴の無い顔』と『群れ意識操作の才能』を、


 上忍である村長様が気に入ったようなのでな」



「……同じように、行商人、ですか」



「当たり前だ。お前はもうただの干物売りじゃない。


 我が村の最高に厄介で優秀な『群れの意志を操る達人』だ」



佐平次は冷徹な、しかしどこか信頼の色を帯びた目を向ける。


俺は小さく息をつき、首筋を軽く鳴らしてから、深々と頭を下げた。



「――次の任務、承知しました。


 次に御家断絶に追い込むのは、どちらの藩の御家でございますか?」



潮騒が轟く闇の中で、下忍は新たな破壊工作へ向けて笑みを浮かべた。


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