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空間(鴨宮のドサ回り日記4)


3週目の初日、今週から客演する学生さんが来た。


座長が、どんな奴なんだっけと確認するかのように

アレコレと話しかける


「そういえばっさー、大学に7月まで行かなくて大丈夫なのか?」



『はい、去年までに、あらかた単位をとれてるんで


 それに今年の前期は9月にレポートを書くだけでも

 単位がとれそうな講義だけ選択したんで


 大丈夫っす』



「大学授業料を払ってくれてる親が泣くぞ

 勉強させるために大学に行かせたのに

 勉強そっちのけで演劇活動してるなんて」



『いや、親も、こういう仕事してるんでOKっす』


「そうなんだ。こういう仕事してて子供を私立大学へ

 行かせて『一人暮らしの仕送りできてるなんて凄いね」



『いえ、使えるものは親でも使えじゃないっすけど

 親のコネで可能な限り仕事してます


 ちょい役とか、脇役でも

 将来、名作を作れるんじゃないかって思える

 勢いのある若手監督の低予算B旧映画

 とかにも出演しています


 テレビによって映画は駄目だって言われてますけど

 そんな事は無いと思ってます』



「え? そーなんだ。もう稼げて金になってるんだ凄いね」


『映画と違って撮りなおしとか出来なくて

 一発勝負な舞台は舞台で好きっす』



「そっかー、頑張ろうな」


『はいっ! がんばりまーっす!』


テンションが結構に高い。


そして、先週までいた人と同じような体育会系な学校方言なまり。



・・・



3週目の健康ランドは、ゴールデンウイークが終了した事もあって

常連のお年寄りが集会場のように集まっている所だった


なので最高年齢が27歳な、ある年齢以下の若い人間が珍しいようで

普段、見かけない空想上の生き物を見るような眼で見てくる


毎週のように色んな大衆演劇とかを見ているからか

色んな意味で眼が肥えているようだ。


「あーあ、内輪受けってか演劇やっている人にしか

 わからない感覚で一般うけしない事やってんじゃないよ


 誰か面白い内輪有名人の上っ面の真似かぁ?


 アンタの顔で、アンタがやっても つっまんないよ」


初っ端の定番掴みシーン後の、アドリブお笑いパートに

特にヤジが厳しい。まるで昔、喜劇役者か芸人をやっていた

お年寄りがいるかのように、ヤジが飛ぶ

いつも定番で笑いがとれる所で笑いがとれず

アドリブで滑ると、もろに


「なーに、やってんだ、下手くそ。間が悪すぎ

 金をとれる役者になんか成れんぞ」


客席から突っ込みが入る


先週のゴールデンウイークに公演していたのは

大御所な喜劇役者を大量に排出している

関西の有名新喜劇。それが比較対象だからなのか手厳しい。


内心、えー、こーんな険悪な雰囲気な偏屈年寄りだらけの

おかしな空気の中で芝居するのーと思っていたが


今週から混ざった学生さんは、最初がココだったので


 そっかー、ヘルスセンター・健康ランド巡業って

 こういうもんなんだ


と思ったのか


「なんとか少しでも、ここのお客さんに評価されて

 もう一度、呼ばれるように頑張りましょうねっ!」


と意気込んでヤジって心を折る気マンマンな

爺さん婆さんのヤジを弾き飛ばすかのようなテンションで

何を言われても、気にせずに我が道を行く感じ


 凄いなー、流石に金を稼げているのは違うな


って感じがする。


自分以外の誰かを引き立てるような

自分が目立たないような地味な引いた感じで

面倒な客のヤジが自分以外にとぶように

無難で地味な演技をしてしまう自分とは随分な違いだ



舞台って空間は、脚本を書いて演出をしている座長が

一人で作れているとかじゃなくて


その場所に集まった人間が作っているのが

人間が入れ替わって公演場所が変わると理解できてくる


物語は同じで、出演者も一人入れ替わっただけなのに

ずいぶんと違う感じの劇になってしまうものだ


どんな、お客さんがいる場所なのかによっても

土地柄によっても、痴愚吾 いや違う


座長がポツリと呟く


「ここじゃ俺のイメージした通りの演劇空間は無理かな」


初日にして、何かを諦めてしまったようだ

でも、なんとかして6日間、公演をするんだろう

何故か不穏な悪意が渦巻いている空間なのに耐えて


そんな風に思えた初日だった。


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