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離別(鴨宮のドサ回り日記3)

2週目の最終日、今週を最後に劇団をやめる人が挨拶


「長い事、とは言っても3年の間でしたが

 色々と、お世話になりました


 過ぎてみると短く感じますし

 色んな事の全てが美しい想い出に思えます


 自分が劇団に入った頃に高校に入学した弟が

 高校を卒業して大学に入学するために

 親元を離れて上京してくるんで


 地元で商売やっている親に言わせると

 子供が二人とも地元から離れる事は

 許せんと言いだしまして


 まだまだ役者を続けたかったのですが


 ”30歳にもなって売れない役者なんて

  どうするんだ? 結婚できんだろ?

  人間として駄目と言われたいのか?”


 などなどと年の功で言いくるめられ

 結局、田舎へと帰って

 親が経営する会社で働く事となりました


 高校を卒業して大学へ入学してから

 ちょっとした、キッカケで座長と関わって

 大学3年の秋に入団してから3年間

 大学に同時に入学して大学院に行った

 優秀な同級生が大学院も卒業して

 研究室に残ったり就職したりするくらいの

 時が流れ、回りにいる人も変わりました


 役者として仕事として成立して

 職業役者として生きていけるようなレベルまで

 残念ながら達する事ができず

 評価されるような事も無かったのですけれども


 こういう劇団にいた後、テレビや映画でも

 活躍する事になった成功役者のような人生を

 送れるようになる事を片田舎で祈っています


 結局、自分は役者の成りそこないだったし

 色んな事を、やりたがるだけのヘタクソでしか

 なかったのですが、こうは成らないで下さいね


 自分の代わりに大学の演劇部の後輩が

 客演で来てくれるので暖かく迎えてやって下さい


 稽古の時から来ていて知ってますよね

 自分より色んな事が上手なので

 もっともりあがるのではないかと思います


 学生演劇レベルの中じゃ、抜けているヤツなんで」



『最後まで、俺とか僕じゃなくて、自分って言う

 高校体育会系の学校方言が抜けなかったな』



「いや、それが自分なんで、それは、いいんです

 気合と根性で生きる体育会なのは変えられません」



『ま、とにかくだ、地元に帰って一族と一緒にやっている

 地元じゃ有名な優良企業で立派な経営者一族の一員として


 地域密着型の同業者団体内で偉大な存在へと成るべく


 飼い者(飼育プレイ変態)と詩語徒のための釈迦人


 いや 違う あー、かんじまった


 会社と仕事のための社会人として


 ひょっとしたら、あの地方を巡業する時の

 我等の後援者の一人になってくれるかもしれない


 彼の前途を祝して、 カンパーイ』



「カンパーイ」「ガンパーイ」「感パーイ」「オッパーイ」



何か、内輪から抜ける元役者となる人の心に

一生、残るような事を言おうと色んな人がチャレンジ


自分の心に刺さっているセリフを言っていく


ほとんどの人は誰もが


 今夜を最後に一生、会う事は無いんだろうな


 たぶん田舎の親戚は二度と会わせたくないだろう


 芝居道楽に嵌った世界に戻す気も無いようだ


 若いころに馬鹿な道楽に嵌ったけど忘れろと言われ


 昔、役者バカな奴等と一緒に過ごした事が

 あったんだと過ぎた昔話として語るだけになるんだろう


というような事を劇団に残る全員が感じているのか

そういった気持ちが語る言葉の端々に見えて

結構に感傷的に夜が過ぎていった。


・・・



翌日の移動日、その退団する人が

次の公演先に行くマイクロバスを見送る


全員、バスに乗っていて一人だけバスに乗らず

何かを、まだ言いたそうに、まだ何かをやりたそうに


何か、とても色んな未練があるのに

仕方なく諦めた顔というのは

こういう顔なんだろうなという表情をしている


ひょっとしたら、最後の演技なのかもしれないが


「本当に貴方たちが羨ましい

 もっと、貴方たちのような生き方をしたかった


 でも、諦めるしかない

 自分には才能が無かったのだから仕方ない


 あなたたちは、自分の人生の一時期の象徴だ


 西暦2000年を超えても

 いや、自分の人生が終わっても

 この劇団が続いている事と信じてます


 頑張って下さいね」


いかにも体育会系って感じで

暑っ苦しく熱弁する感じで最後の挨拶


それを聞いた後


「お前も頑張れよー」「元気でなー」「達者でなー」


思い思いの一言を窓から言う劇団員を乗せてバスは走り出す


次の公演先に向かって。


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