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ゴールデン・ウイーク・シャッフル  作者: 中山恵一


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サードワールド・ドライブ シーン7 リージョナル・ロード


車の鍵を挿したまま放置してきた方向、

つまりヨハネスブルク方面へ向かって、俺たちは漆黒の道路脇をひた走った。


10分ほど歩いたところで、背後から一台のヘッドライトの光が近づいてきた。


「助けろ……っ!」


俺たちは道路の真ん中に飛び出し、必死に手を上げて救いを求めた。


しかし、車は減速するどころか、不気味なエンジン音を唸らせたまま、

無情にも俺たちの横を走り去っていった。


南アフリカでは、カージャックや強盗の罠(囮)であるリスクが常に付きまとう。

夜道で手を上げる人間など、誰も信用して止まってくれるはずがなかった。


「歩くぞ……止まったら終わりだ!」


周辺にはまたスクウォッターキャンプの気配がちらつく。

丸腰のまま無防備に歩くわけにはいかない。


まるで闇夜を進軍する軍隊のように、背後を常に警戒し、

周囲の暗がりに目を配りながら、俺たちはただひたすら歩き続けた。


どれくらい歩いただろうか。

1時間ほど経ち、足の感覚が麻痺し始めた頃、

道路脇にひっそりと佇む青い標識の文字がヘッドライトの微光に浮かび上がった。


HARTBEESPOORT 45KM


PRETORIA 75KM


「……45キロ……?」


絶望的な数字が目に飛び込きてきた。

仮に、極限状態の時速5キロで休まず歩き続けたとしても、

目的地まで9時間かかる計算になる。


しまった。帰りは別のルートを通ろうと、ルステンブルクを経由しない寂れた

地方道(リージョナル・ロード)を選んだのが、完全な裏目に出たのだ。


足の痛みに耐えながら、俺は暗闇の向こうを見据えた。

――あと9時間も、この地獄の闇の中を歩き続けるなんて、冗談じゃない。






「……もうダメだ、これ以上歩けない」


俺たちは街道の脇にぽつんと佇む、

野外のコンクリート造りの休憩所にたどり着き、そこで足を止めた。


しかし、時は南半球の真冬、8月。

トランスヴァールの夜気は、歯の根が合わないほど容赦なく身体の芯まで冷やしていく。


先ほどの恐怖と、この寒さで、俺たちはガクガクと激しく震えていた。

このまま野宿を続ければ、間違いなく低体温症で凍え死ぬ。


ここまでの1時間で3台ほどの車が通り過ぎたが、

すれ違いざまに助けを求める俺たちを、どの車も完全に無視して走り去っていった。

だが、文句は言えまい。逆の立場で、こんな夜中に闇から飛び出してくる人間がいれば、

俺だって間違いなくアクセルを踏み込む。


「……っ、寒い、寒いよ……」


三好は寒さと極限のショックで肩を抱き、ガタガタと震えっぱなしだった。


これまでの海外出張で車の故障や犯罪に巻き込まれた経験はあるが、

これほどまでに悲惨で絶望的な状況は初めてだ。


腕時計の文字盤を光らせて確認する。深夜12時前。

今ならまだサンシティから帰ってくる酔狂な観光客が通るかもしれないが、

午前0時を回ってしまえば、こんな寂れた地方道に車など二度と通るまい。


「……おい」


俺はジェイと三好に顔を向けた。


「これ以上、この暗闇の中を歩き続けるのは得策じゃない。

 さっきのガソリンスタンドからも離れちまうし、これじゃただの『遭難』だ。

 ここで夜をやり過ごすぞ。三人で寄り添うんだ」


頼みの綱だったタバコも、残りわずか2本になっていた。

ヘビースモーカーの俺にとって、このニコチン切れは精神的にかなり深刻な問題だ。


せめて温かいコーヒーでもあれば少しはしのげるのだろうが、

こんな未開の草原の真ん中で、そんな贅沢は夢のまた夢だった。


湿気った空気のせいで、お気に入りのジッポライターもオイル切れなのか、

カチカチと空しく火花を散らすばかりでなかなか火がついてくれない。


時計の針は深夜1時を回っていた。


車は1台も通らない。凍えるように寒い夜だが、頭上を見上げると、

南半球の夜空には吸い込まれそうなほど美しく、満天の星が広がっていた。すさまじい数の星だ。

そして、周囲はシーンと静まり返っている。不気味なほど静かだ。


幸い、近くのスクウォッターキャンプの気配は遠ざかっているようだったが、油断は禁物だ。

歩いて1時間少々の距離にあの無法者たちがいるのだ。


誰かが起きて周囲を警戒していなければならないが、

今の極限の寒さでは、誰もまともに眠れる状態ではない。

とにかく寒い。死ぬほど寒い。このままでは本当に朝までに凍え死んでしまう。


時計は午前1時30分を過ぎていた。


「……もういいか」


俺は最後の一本を取っておくのは諦め、

震える指で『ステイベサント』に火をつけた。微かな温もりが喉を通っていく。


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