サードワールド・ドライブ シーン4 サンシティ
事故現場の悪夢を背後に残し、俺たちは一路、
リゾート地としても知られる「サンシティ」を目指して車を走らせた。
何故に、そんな場所へと行くかというと
鉱山会社のほとんどはヨハネスブルグに本社を置いているが
決定権などの権力を持っている人間は、
ヨハネスブルグやプレトリアなどの
南アフリカ最大の大都市圏で仕事をして
週末は、サンシティで過ごしているから
権力者に挨拶をするには、サンシティへ行かないと駄目という理由だった。
途中、ルステンブルクを経由してプラチナ鉱山も視察したが、
街灯の類いは一切なく、道路の舗装状態も最悪で、
ハンドルを取られそうになるのを必死で抑えながらのドライブだ。
周囲はどこを見渡しても野原が広がるだけ。
ヨハネスブルクを出発して約3時間。
ようやくたどり着いたサンシティはしかし、世間で「一大リゾート」と喧伝されているほど、
華やかですごい場所というわけではなかった。
どこか人工的で、荒涼とした大地から無理やり切り取られたようなテーマパークのようだ。
駐車場に車を停め、モノレールに乗り換えて中心部へ移動。
予約してあったカスケード・ホテルにチェックインし、
会う約束をしていた現地権力者とホテル内のカジノへと繰り出した。
翌日、夕方までサンシティのリゾートエリアで
彼等から色んな実情をヒアリングした私たちは、日没前に現地を出発した。
もう少し早い時間に出発したかったのだが、
あろうことか助手席のジェイがカジノのスロットで思わぬジャックポットを叩き出し、
「ボス、歴史的瞬間です!」などと浮かれまくって長居してしまったせいだった。
昨日の凄惨な事故の教訓をすっかり忘れ、
一刻も早くヨハネスブルクへ戻りたい一心で、
俺はハイウェイを時速120キロで快調に飛ばしていた。
しかし、夕暮れ時の街道は、ただでさえ運転しづらい。
道沿いに広がるスクウォッターキャンプ(不法移民たちの不法占拠集落)から、
生活用の薪を焚いた膨大な煙が街道へと流れ込み、
周囲の視界を急速に悪化させて緩慢な霧のように立ち込めていたのだ。
「視界が悪いな……減速するか」
そう呟いてアクセルを緩めようとした、まさにその瞬間だった。
ガツン、と車体に重い衝撃が走る。
――カーブだ。視界不良でコーナーの始まりに気づくのが遅れ、
左輪が完全に道路脇の未舗装部分へ脱輪してしまった。
「くっ……!」
反射的にハンドルを切り返して体勢を立て直したが、すぐに異変に気づいた。
ハンドルが妙に重く、ガタガタと激しく振動する。
車を路肩に寄せて降り、確認した俺は、冷酷な現実を目の当たりにして絶句した。
パンクしている。しかも、前後両方の左タイヤが同時に。
致命傷だった。トランクを開けてスペアタイヤを取り出したが、
スペアは1本しかない。おまけにこの車はレンタカーだ。
「どうすんだこれ……」
ここは荒涼とした野原の真ん中。周囲に人家の光はなく、
通りがかりの車に助けを求めるなど自殺行為に等しい。
スマホの電波はかろうじて入るが、こんな場所で助けを呼んで誰が来るというのか。
その時、俺の脳裏に一つの記憶が閃いた。
――たしか、10分ほど前に通り過ぎた街道沿いに、
小さなガソリンスタンドがあったはずだ。
あそこなら、公衆電話か何かがあるかもしれない。
「おい、行くぞ!」
俺は叫んだ。
トランクからパスポートや現金などの貴重品をバックパックに詰め込み、
俺とジェイ、そして青ざめた顔の三好も加えた3人は、
ガソリンスタンドを目指して夜の闇が迫る道路脇を走り出した。
絶望のガソリンスタンド
「ハァ、ハァ……マジかよこれ……」
南アに到着してまだ1週間も経っていないというのに、この有様だ。
内心、俺はかなりビビっていた。
隣を走るインド系のジェイも余裕は消え去り、額に脂汗を浮かべている。
暗がりの中、道路脇のスクウォッターキャンプから、
目が虚ろな黒人たちがこちらを不気味に凝視していた。
酒が入っているのか、その足取りも目つきも異常に荒んでいて危険な匂いがプンプンする。
彼らにとってヨソモノな俺たちは、格好の獲物にしか見えないだろう。
「止まるな! 走れ!」
俺たちは共通の恐怖に背中を押されるように、無我夢死で足を動かした。
息を切らして駆け込んだガソリンスタンドの一角には、
案の定、かなりヤバそうな連中がたむろしていた。
すれ違いざまに声をかけてくる男たちを完全無視し、
俺たちは併設されていたポルトガル系移民が経営している小さなカフェに飛び込んだ。
「おい、大丈夫か!? 外は危ないぞ!」
カフェの主人の若い兄ちゃんが驚いて声をかけてくれる。




