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ゴールデン・ウイーク・シャッフル  作者: 中山恵一


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サードワールド・ドライブ シーン3 夕刻のハイウェイ


ヨハネスブルクの空港で現地法人の出迎えと合流した俺たちは、

そのまま車に乗り込み、夕刻のハイウェイを北へと走らせていた。


プレトリアを過ぎ、さらに北上を続ける車窓の景色は、

次第に荒涼とした野原へと変わっていく。

街灯など存在せず、頼りになるのは車のヘッドライトだけだ。


「……おい、見てみろよ」


前方、はるか彼方の闇の中で、赤と青の警察の回転灯が激しく明滅していた。


「検問か?」


俺はアクセルを緩め、とりあえず速度を落とした。しかし、様子がおかしい。

片側三車線の道路のうち、一番右の追い越し車線以外が完全に封鎖されている。


「なんだこれ……? いやな予感がするな」


南アフリカの高速道路では、路上強盗や車両トラブルなど、

トラブルの臭いがプンプンする光景は日常茶飯事だ。


だが、近づくにつれて聞こえてきたサイレンの音と、

漂ってきた異臭に、俺の背筋に冷たいものが走った。


それは、想像を絶する凄惨な交通事故の現場だった。


「――っ!」


事故には4台もの車が絡んでいた。


1台は道路わきの草むらの中で激しく炎上し、黒煙を上げている。

別の車は対向車線から飛び込んできたのか、

正面衝突を食らった挙句に原形をとどめないほど大破していた。


だが、俺の目を釘付けにしたのは、そんな車両の破損具合ではない。

目を覆うばかりの、あまりにグロテスクな惨状だった。


凄まじいスピードの衝撃で弾き飛ばされたのだろう。

人間の手、足、そして生々しい臓器の塊が、何人分もアスファルトの路上に散乱している。


「げっ……」


俺は思わず喉の奥から込み上げてくる強烈な吐き気を飲み込んだ。

これまでに南アで治安の悪さに起因する死体を見たことはあったが、

ここまで剥き出しで、戦場のような壮絶さは経験したことがなかった。


大破した車の中には、人間の屍(しかばね)らしき物体が折り重なっている。

暗くて詳細までは見えないが、異様な角度でねじ曲がっているのはわかった。


その時、車のサイドミラーが折れ曲がり、

ドアの脇からプラプラとぶら下がっているのが見えた。


――いや、違う。


視線がそこに吸い寄せられた瞬間、

俺はそれが何であるかを脳が認識してしまい、反射的に激しく目をそらした。

あれはドアミラーなんかじゃない。

胴体から今にももげかかっている、人間の頭部だった。


「……っふ!」


助手席に目をやると、同行していたインド系アメリカ人のジェイが、

こともあろうにこの地獄絵図を目の当たりにしながら、

平然とドライソーセージを袋から取り出し、口に放り込んでいた。


「ジェイ、お前……! よくそんなもん食えるな!」


俺が引きつった声で叫ぶと、ジェイはもぐもぐと咀嚼しながら片手を軽く上げた。


「ジーザス!ひでえ有様だなこりゃ……。

 でもボス、南アのハイウェイじゃこういうの珍しくないですよ。


 運転手の連中、定員も積載量も無視して自殺的なスピードでかっ飛ばすから、

 事故ったらこうなるのは物理の法則ですって」


相変わらずの鉄の胃袋というか、感覚が狂っているというか、

この過鈍症(にぶ)さには呆れるしかなかった。


俺は動揺を押し殺し、それまで150キロで飛ばしていたメーターから足を離し、

事故現場を通り過ぎた瞬間に90キロまで一気に速度を落とした。


「……三好は、大丈夫か?」


ルームミラー越しに後部座席を覗き込む。


三好は、シートの間に身をすっぽりと伏せ、頭を抱えてうずくまっていた。

肩が小刻みに震えている。


「……無理、こんなの……聞いてない……」


彼女にとって、この光景はあまりにもショッキングすぎたらしい。

日本国内でどれほど修羅場をくぐってきた人間であれ、

生身の人間のパーツが散らばる戦場のような事故現場を

まともに見せつけられれば、こうなるのも無理はない。


南アでは、凶悪犯罪と並んで、この稚拙で無謀な運転による交通事故が

莫大な死因を生み出しているという現実を見せつけられた。

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