サードワールド・ドライブ シーン1 タンボ国際空港にて
毎度の原案検討会、今回は一人が書き上げてきたのについて
あれこれと言い合ってみましょうってなパターンだった。
・・・
南アフリカ・ヨハネスブルク、O・R・タンボ国際空港。
滑走路に機体が着陸し、重い金属音が響いたあと、
機内アナウンスが英語と現地の言葉で流れる。
南半球の8月は、肌を刺すような乾いた冬の空気が支配している。
機体がタラップに寄り添い、シートベルト着用サインが消えた。
通路に立ち上がった俺は、分厚いコートのジッパーを上げながら、
通路を挟んだ向こう側にいる二人に視線を向けた。
「……いやあ、何度来ても、独特な空気の匂いですね」
そう言って苦笑いしたのは、今回の旅のキーパーソン、ジェイだ。
インド系アメリカ人の彼は、シリコンバレーで鍛え上げられたITのバックグラウンドを持ちながら、
なぜかアフリカビジネスに深く精通している。スワヒリ語を操り、アフリカーナ訛りの英語を聞き取り、
そして流暢な日本語で俺たちをサポートしてくれる、まさに歩く通訳機にして優秀な交渉人だ。
「ジェイ、到着した途端に不満か?
どこの国でも最初は独特な空気と感じるもんだろう」
手元のタブレットで現地からの直近メールをフリックしながら
冷たく言い放ったのは、今回の同行者の一人、三好だった。
社内で“ヒアリングの達人”と恐れられる彼女は、
人の嘘や隠し事を嗅ぎ分ける能力にかけては社内ピカイチと言われている。
冷徹なまでの洞察力を持つ彼女の目は、すでに戦闘モードに入っていた。
「わかってますよ、初日だけで消える感覚ってヤツですよね。
しかし、オーストラリアの案件を手放してまで、
この南アフリカの会社をウチの親会社が買い取ったって聞いたときは、
正直正気かと思いましたよ。
AIバブルの余剰資金の置き場に困った末の暴走って噂も、
あながち嘘じゃないかもしれない」
ジェイが荷物の棚からボストンバッグを引き下ろしながら、呆れたように肩をすくめる。
「暴走かどうかは、これから向かう現地法人の数字と、
ネゴシエーターが関わっている相手を見れば嫌でもわかるさ」
俺はパスポートと入国カードをジャケットのポケットにしまい、二人に促した。
今回のミッション概要
背景: AIバブルで膨れ上がった資本による南アフリカの産業用金属調達会社の買収。
元親会社: イギリス資本のメタル・メジャー(豪州での大型買収に伴う売却)。
火種: 2026年1月のゴールドおよび連動する産業用金属の史上最高値更新。
懸念: 同業他社で発生した「数千億円規模の巨額損失」の波及。
査定ミスや現場による虚偽報告の有無の確認。
「それにしても」ジェイが歩き出しながら、少し声を落とした。
「同業他社のあの数千億円の損失……あれはひどかったですね。
担当者が完全に思考停止していて、
損害報告決済を遅延して隠蔽しようとして損失を膨らました。
あんな『無策な間抜け』が同じ業界にいるせいで、
こっちまで連帯責任みたいな疑いをかけられて現地査定とはね」
「だからこそ、メールとテレビ電話会議だけじゃダメだって事」
三好がスタスタと足早に歩きながら、冷徹に言い放つ。
「画面の向こうでどれだけ『問題ありません』と流暢なビジネス英語を並べ立てようが、
実際の交渉の席での空気感、交渉先の決定権を持った人間の本質、
担当者の言い逃れパターンのクセ、
そういうのを見ないと真実を見落とす。
……ねえ、そう思わない?」
三好が、視線を俺に向けた。
「ああ。そう思うよ。異議はない。
何もわかってなくて、何も見抜けない間抜けと、なめられたら終わりだ」
俺は到着ロビーへ続く自動扉を見据えた。
「元はといえば、巨大メタル・メジャーが
『オーストラリアでもっと優良企業を買収したから、こんな会社いらねえ』
って言って売り飛ばした代物だ。
現場の連中だって、親会社がコロコロ変わって面白いはずがない。
不満や隠し事があって、汚職に染まる社内政治家が発生しても
おかしくない土壌は十分整っている」
「ですねえ」
ジェイが到着ロビーの喧騒に目を細めた。
現地特有の活気と、ピリついた緊張感が入り混じった空気が、肌を撫でる。
「さてと」
俺は足を止め、二人の顔を見渡した。
「さあ、南アフリカ現地法人の抱える『本当の数字』を見に行こうか。」




