表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/39

ジロー物語 シーン3 乳母とジロー別れの日


乳母は、母を亡くしたジローを見た後

漠然とした時間を過ごす中、脳裏に蘇る光景があった


それは、ジローが自立心を持ったと領主が判断し

育ての親である自分から離れていった時の事である。




その頃、三日とあげず、いろいろの人がジローを迎えに来た。


「食い扶持欲しさに、坊ちゃんを手放したくないのか?」


といったような挑発的な事を言う者すらいた。


乳母にして見ると、ジローを手放すのは、つらかった。

物心つく頃から自分が面倒を見てきたのだ情もうつる。


ジローの領主一族内での立場を考えると、

内心、漠然とした将来への不安を感じていたので、

実の母からの使いに対して反感を持ってはなかった。


むしろ、あの頃は、なぜもっと早く

ジローを実家へ帰さなかったのかと後悔していた。


ことに、食い扶持欲しさにジローを手放さない

などと言われることは我慢の出来ないことであった。


そんな挑発への怒りに任せ、

ジローを、使いに来た人の方に押しやることさえあった。


しかし、そのたび、ジローに泣きつかれたり、逃げられたりすると、

今まで通りに乳母のもとで過ごす事になってしまうのであった。


ところが、ある晩だしぬけに、実の母自身が迎えにやって来た。

これは乳母も全く予期しなかった。


ジローが寝室に入る時間に実母がやって来たのだ。


彼女はジローのいる寝室には入っていかなかったが

ジローには声を聞いただけで、すぐそれが誰だか、

そして何の用で来たかが、はっきりわかったのだろう。

何かを期待しながら眠ったふりをして耳をすましていたのだろう。


寝室前での話し声は、寝室を含めた空間に鳴り響いた。


「私だって、今では一日も早く奥様の下へと戻したい

 とは思っているのですよ……」


「やっぱり帰りたくないと言うの?」


「ええ、門を出る事にさえ、この頃は嫌なようで、

 その姿が哀れでなりません。」


「私が言って聞かしたら納得してくれると思うけど」


「そうだと、よろしいのですが……」


「この私が言っても、聞かないとでも?」


と、少しとげのある言いかただった。


「そりゃ、仕方が無いと思います」


突っ張ってしまった声。


「困った子に、なってしまったの?」


その言葉は異様な圧迫感を出し、静けさが場を支配する。


「とにかく、今夜は、どんなことがあっても、

 つれて帰るつもりで来たの、わかる?


 ……まだ寝ついてはいないのでしょう?」


「明日になさったらどうでしょう。

 夜道を歩かされては、坊ちゃんが気の毒です」


「何時だって同じ。怖いことは無いでしょう。男の子だもの。」


「でも、こういうことは、やっぱり昼間の方が良いと思います

 明日になったら今度こそ家のため領民のために生きる

 偉大な一族と一緒に過ごすように、私が説き伏せましょう」



「駄目なんですよ、お前では。


 ……結局、あの子の心の中にある何か

 一族から離れたままでいたいという気持ちを変えられず


 ここに引きとめたままに、してしまう


 それが何故なのか自分でも、わからないのでしょう?」



「そんなことはありません。とにかく明日までお待ち下さい

 私も腹をきめているのですから」


乳母の本心は淋しかったし

まだ、自分の子供のように一緒に過ごしたかったが

それを言い出す事は出来なかった。


「どうだか……」


そんな気持ちを察したかのような表情を浮かべた実母


「坊ちゃん、おっ母さんだよ、ほら。」


乳母はジローの肩を揺さぶった。


「ううん。……ううん。」


ジローはもう一度寝返りをうって顔を実母から隠していたが

次の瞬間には、実母の手が伸びて、

有無を言わせず、彼の体を寝室から引っ張り出した。


「まあ、そんなに乱暴になさらなくても……」


乳母が抱えた怒りは声に表れていたであろう。


ジローは椅子にすわって、眼をこすったりしていた。

彼は他の迎えが来た時のように泣かなかった。


諦めとも悲壮な決心ともつかないようなものが、

この時、彼の心を支配していたのか


自立するための時間が終わった事を自覚したのか


奥様が来た事で子供なりに何かを悟ったのだろう。


「奥様、どうなさいますので……」


それから実母は女教師のようにジローに話して聞かした。


ジローの心に一言も刺さらなかった

今までの迎えの言葉とは違って聞こえたのだろう。


ジローは、その言葉が響く間、表情だけを、注意深く見ていた。


彼女が本当は自分を、どういう存在として

実家にいさせる気でいるかを読みたかったのであろう。


しかし実母の表情は

何の将来への暗示も与えなかったようだった。


「わかった? まだわからないの?」


と、実母は長い説教のあとで、念を押すように言った。

ジローはそれに対して、無表情に答える。


「わかったよ」


心の中で、この時、自分の眼の前に二人の敵を見ていたのだろう。

一人は正面の敵である実母、もう一人は、裏切者としての乳母。

そんな心持ちが乳母には伝わってきていた。


「寝間着じゃダメだね、何か着物を着せておやり」


正面の敵が裏切者を顧みて言った。


しかし、裏切者である自分は色んな感情が渦巻き

険しい眼付をしたまま動けなかった。


ジローは横目で裏切者の顔をちらとのぞいてきたが

その顔には何の感情も無かった。


捨鉢のような気になったかのように立ち上って、

まるめてあった汗くさい服を自分で着た。


「偉いね。」


と、正面の敵に見える実母が言った。


ジローは眼がしらの熱くなるのを、こらえているようだった。


その間に、乳母は提灯に火を入れ実母に渡した。


二人が戸口を出る時、芝居の幕が下りた後のように静かであった。


両手を腰に組み、二人のあとを少し離れ、門のところまで来て

乳母は、こう言うしかなかった。


「坊ちゃん、さようなら」


ジローは、ふり向きもしなかった。


あふれ出る涙を歯でかみしめているかのように見えた。


ジローが自分の日常から去っていった後

乳母が自分なりの日常を取りもどすために、

自分の身の回りを見まわすことが出来たのは、

次の季節の変わり目が訪れた頃であった。


そんな過ぎ去った昔の一場面を思い起こしながら


 今となっては過ぎ去った時間


 あの時、裏切者に見えたであろう自分は

 今のジローにとっては何に見えているのだろう


 そして敵にしか見えなかった産みの親である

 この世から消えてしまった実母は

 彼の心の中で、どんな存在となっているのだろうか?


 ひょっとしたら、自分は、あの時

 ジローの心の中で死んでしまったのだろうか?


 今では遺影でしか存在しない実母と同じなのだろうか?


そんな言葉が乳母の心に浮かんでいた。



・・・



「別れ・死別 ー 日常 ー 別れ・生き別れ


 なんか冒頭3シーンの内、2シーンが別れの情景?


 ちょーっと、くどくない?」


『いや、産みの親、育ての親と別れて

 自立していくシーン、って事でいいんじゃないかな』


「で、次から成長物語って感じのシーンを

 入れるわけかな?」


『少年漫画みたいな? 感じでか?』


「そう、やっぱ少年成長物語はいい!!」


『と言われると天邪鬼なワターシとしては

 違うシーンをインサートしたくなるなぁ』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ