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仕度(鴨宮のドサ回り日記1)

「鴨宮さんは、こういう地方ドサ回りって始めて?」


『はい、首都圏の常打ち小屋とか小劇場とか呼ばれる場所だけでしたね』


「今回はねー、ヘルスセンターとか健康ランドを

 経営する経営者さんが集まって出来ている

 同業者団体さんが主催する興行なんだよね


 だから、今週は、あのヘルスセンター

 来週は、こっちの健康ランドって感じで

 1週間ごとに移動するって感じになるかな


 で、飲み食いに関しちゃ、その公演先で朝昼晩と出してくれて


 次の公演先まで移動するマイクロバスも

 公演先の会社さんが出してくれるんで


 交通費も交際接待費も飲食雑費も一切、かからないんだ。持ち出し無し


 いいよねー、好きな演劇だけに集中して

 他の日常生活に関する事とか

 客へのチケット販売とかの手配を一切、考えなくていいんだから


 首都圏の小劇場とかをやってて

 芝居をやる以外のアレコレ、大変でしょう?」



『そうですねー、特にチケット販売ノルマを

 関係者一同で分担して自分の分を売るのが凄く大変です。

 交通費とか、飲食雑費とか、大道具、小道具つくりとか』



「まあ、なんだね、今回、ゴールデンウイーク頃から

 夏の7月盆シーズンまでの、5・6・7月と

 3ヶ月の短い間だけれども、一緒に頑張りましょうね」



そして台本読みやら、稽古が始まる

自分は初めてだけれども、他の役者さんは何度も

同じ役を同じ台本でやってるらしく、慣れた感じ


自分も含めて数人の客演が、そこに割り込む感じになる

とはいえ、自分の出番は少なく3曲を掛け合いで歌うだけ

もう一人の一緒に歌う人が上手なので聞ける感じになっている

というのが自分でも理解できる。


この劇団で一番、存在感があって

自分がイイと感じた事を表現して伝えるのが上手な

べらぼーな表現力を誇るスターが

序盤、中盤、終盤の盛り上がる場面で歌いまくるのからすると

合間に挟まるコーラスみたいなものなので気楽といえば気楽だ。


稽古が終わると、バイトが無い人を除いて

集まって飲み会になって将来の夢を語る

演劇が出来れば、他の事は、どうでもいいって

感覚になった人間が全国各地から集まった感じで

最高年齢が27歳で、一番下は高校中退した16歳

若くて体力があるとはいえ

結構に滅茶苦茶な無理をしている自慢を語る人すらいる。


みんな独身で、結婚相手や子供を抱えているワケじゃなく

楽屋や寮に寝泊まりし、上演先で提供される食事をとり

バイト先の制服や作業着と衣装以外は

着た切り雀で、首都圏で色んな店があるけれども

外出とかしないで稽古をしていたり脚本を書いたりして生活


稽古後の飲み会にだけ参加してくる

昔は劇団にいたけど、今はCM製作会社で

CMプランナーだかをしているOBさんが語る。


「小劇場役者さんかー、ワシの出身な関西地方とかな


 1960年頃には55館あった大衆演劇の小屋が

 1973年には5館に減ってもうてな


 テレビに滅ぼされるのかワシらは


 とか思うたけど


 1982年の、”寂しいのは、お前だけじゃない”だかか

 あれで大衆演劇が取り上げられて


 テレビによって小劇場ブームってのが作られて復活した

 不思議なもんやね


 仕事として成立して資金源になってんのは

 CM製作になってしもうたけど


 この劇団とかは、運みたいなもんを持ってるわな


 ヒイキ筋になってくれとる

 健康ランドやヘルスセンターが集まる同業者団体で

 ある程度の地位を気づいた経営者さんとかも


 元は、その経営者さんの一族から、この劇団に入った人がおって

 その人は見切りつけて一族が経営する会社で今は働いておるけど

 ドサ回り公演に協力してくれているってワケやしね


 次にオイルショックみたな不景気になった時、どうなるか知らんけど」



『そういう事は、そん時に考えれば、いーんじゃないのぉ?


 時代劇が下火になっても、新しく定番の美しきマンネリな

 恋愛者ドラマが放映されるのと同じで


 何か、その時になったら、その時には、あるもんだよ』


「何かって? 何だよ」


『何かってのは、そのー、何かだよ。

 新しく、その時の流行で自然発生した、みんなの娯楽な何か』


「んだよ、その根拠の無い思い込み、みたいな自信」


『自信かー、自身への自信が無い奴は役者なんか出来ないって』



「まー そりゃー そーか、根拠の無い自信が無くなったら


 舞台役者なんか出来なくなるよな」



というワケで5月から7月まで、地方都市を巡る事になる前


なんか、のほほんとした準備段階


実際に演じている内に色々と、わかるから気楽にいこうなという感じ


こんなに緊迫感とかが無くて、自分の演劇論を語らない飲み会は

始めてと言えば、初めてだった。


なんでも、例年だと7月終わりころに首都圏近くの

結構に大きなヘルスセンターでの公演の頃が

一番、盛り上がるし客も多いとの事だった。


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