剣劇(鴨宮のドサ回り日記9)
前回公演地からバスで古都へ入ると
車窓から見える景色が変わる
次の公演場所の名前も健康ランドとかヘルスセンター
とかいう名前ではなく●●温泉とかいう名前
カタカナの混じらない名前になっているのが普通らしい
見えてくる建物も街並みを壊さないように
外観は純和風な時代劇に出てくるような建物ばかりになる
古都の景観を乱すような建物は建てられないように
条例で決まっているのだろうかって感じすらする
これまで公演してきた地域にあった
鬱憤晴らしに夜遊びできる派手なネオンの歓楽街や
出稼ぎ労働者が低料金で寝泊りできそうな
サウナやカプセルホテルのような施設が全て消え
歴史のある高級旅館とかホテルばかりが視界に入りだす。
「親戚が坊様な、そこの君ーっ!」
と大きな声で言ったら、多くの人が振り向くんじゃないかな
ってくらいに歴史のある神社仏閣も立ち並ぶ
公演場所に到着し、色んな小道具などを搬入し
今週、同じ場所で一緒にやる一座の公演を見学
演目は昭和初期に浅草で生み出され
昭和30年代に全盛期を迎えた女剣劇の名作『姫様七変化』
将軍の末娘ながら新陰流免許皆伝の腕前を持つ姫が
儀式への参加と、公務に明け暮れ
家が決めた家柄の良い武家のボンボンと
見合いをさせられる生活を嫌がり
将軍である父親の前で大見得を切る
「家が決めたとは言え自分より弱い男と
生涯を添い遂げる事など、どうして出来ましょう
この私に剣で勝てるほどに強い殿方ならば
家と家との信用を維持するための結婚も致しましょう
だが、一緒に居ても尊敬できない弱い殿方と
結婚生活を過ごすなど無理で御座います
もし、将軍である父上の目前での御前試合にて
家が決めた婿候補で私に勝てる者がいたなら
その者と生涯を添い遂げ
相手の家の者との信用を構築してみせましょう
だが、もし全ての婿候補を打ち破ったのならば
婿探しの旅をする時間を与えて頂けませぬか?」
そうして行われた御前試合で
結婚相手候補の男たちとの大立ち回りシーン
圧倒的な強さで全ての婿候補を打ち負かし
しばしの自由行動を手に入れた姫は
都を出て日本各地を漫遊する旅に出る。
父親に漫遊する期限を言い渡され
危険のないようにと腕のたつ従者と世話役などが
同行し5人ほどで旅をする姫一行。
ある時は旅芸人一座に
ある時は商人街では行商人に扮装
その各地の場所に溶け込むシーンでの
早着替えに拍手が湧き起こる。
行商人に扮して遭遇した悪徳商人が
悪事を働き、住民を苦しめている事態に遭遇した姫は
「かような事が、当たり前となる事など、許しませぬぞ!」
の決め台詞とともに悪の一味を懲らしめ成敗する
悪を成敗する最後の大立ち回りチャンバラが
一番の見せ場で盛り上がり
平穏が訪れた町の衆に感謝の言葉をうけ
次の街へと姫一行が去っていくシーンで終わる
というような勧善懲悪物語を上演している。
主役の姫をやる座長さんは女なのに男前だ。
もしも同じ息子さんが生まれて同じ顔だったら
昭和時代の感覚で言うハンサムな色男だろう
と想えるくらいに
女だけど女にモテそうなキリっとした顔だ
なので固定ファンらしきオバチャンが
かぶりつきで観にやってきていて声援を送るのも納得だ。
横にいる一緒にドサ回りをしている人が語っている
「なんだろうな、どこかで見たような感じがする」
『スター●ォーズ で主人公がやった
チャンバラ・シーン みたいな動きだからだろ
つか、それも、クロ●ワ映画のパロディだから
そっちで観た事があるのかもだけど
そもそも人を切った時とか
刀と刀が激突した時の効果音とか
最初に入れたのがクロ●ワ映画だから
剣劇シーンのオリジナルは全部そこからかもね』
・・・
んでウチの座長さんは何をしているのかな
と思って見回してみると、なんか偉い威厳のある感じの
オッサンと話している
「今、座長と話している、あのオッサンって誰なんですか?」
『京阪神で顔の広い興行師さんだね
昔はヤクザだったけど今は足をあらって
興行会社の社長さんを、やってる人
ただ・・・やってる仕事の、やり方は・・・
本当にカタギ? って感じのやり方らしいけど
揉めたら暴力で解決
って感じで仕切っているって噂だけど
まぁ、客演で今回だけだし、関わらないでいいからね
どういう筋を通さないと駄目だとか、わかんないだろ?
座長が、わかってて色々と、やってくれるから気にするな』
「そーなんですかーぁ? 筋って? なんですか?」
『だよなー、そこからして、わかってないんだとな
わかんなくて、いい
ただ、わかってないのに面白半分にクビを突っ込むなよ
もし下手を打ったら大変な事になるって事だけ
知っていれば、いいからね』
「たとえば、面白半分にクビ突っ込んで
下手うった人って、どうなったんですか?」
『前回の公演時に下手打ったのは謎の行方不明になったな
その前の公演で見かけた興行師の面子を潰したのは
使ってる女に社会的に殺されて全財産をだまし取られて
浮浪者と刑務所を往復する人生になったって事だな
・・・そんな感じかな、俺が知っている限りでは
それくらいに、どうとでも誰かを嵌め込めるって
見せしめが出来る人なんだよね、わかったかな?』
「あー、わかりましたー。そういう人って
東映ヤクザ映画の中に出てくる空想上の生き物じゃなくて
実在するんですね
あのヤクザ映画で、”筋が通らねえ” ってセリフで出てくる筋ですね」
『そういう事』




