魔物農場 シーン5 農場外との交流
日曜の朝10時になると魔物たちは大納屋に集まり
オーク達から、その週の指示を受ける。
キンムーじいさんの肉が消えた頭蓋骨が果樹園から掘り起こされ、
旗ざおの根元の銃の横に安置されるようになっていた。
旗の掲揚が終わると魔物たちは列になって納屋に入る前に
頭蓋骨の前を敬礼をして通り過ぎることを求められた。
彼らは以前のように全ての魔物が一緒に座らなかった。
フジワーラとヒデヨッシー
そしてトーマスという名の歌と詩を作る才能に恵まれた
もう一頭のオークが演壇の最前席に座り、
その周りをフェンリルが半円を描くようにして囲んだ。
その後ろに他のオークたちが座り、
残りの魔物たちは納屋の中央に彼らを前にして座った。
フジワーラが荒々しい軍人のような調子で
週の指示を読み上げ、魔物は皆、解散するようになった。
鬼人から解放された一年間、
魔物たちは奴隷のように働き、仕事を楽しんでいた。
怠けることなく献身的に働いた。
自分たちの労働は全て自分たち自身と後に続く者の利益のためで、
怠け者、盗人である鬼人たちのためではない
ということが分かっていたからだ。
春夏を通して彼らは月に360時間も働いた。
さらに八月になると
フジワーラは日曜日の午後も働くようにと告知した。
この日曜作業は完全に自主的なものだったが
参加しなかった魔物の食事は半分になった。
そんな風にしても完了しない作業が必ず見つかった
収穫は去年よりもいくらか少なかった。
十分に耕し終わるのが間に合わず、二つの畑では
初夏の種まきの時期にまくべき根菜の種をまけなかったのだ
次の冬が過酷なものになることは十分に予測できた。
過酷な作業にも関わらず魔物たちにとって
その夏はそう悪いものではなかった。
オーガが農場主だった頃に比べて
食事が多いわけではないにしろ少なくは無かった。
食料は自分たちの分だけでよく、
無駄飯食らいの鬼人を養う必要がない
という心の余裕が多くの失敗を補ってくれた。
そして多くの点で魔物たちの作業方法は
効果的でより少ない労働で済んだ。
例えば草取りのような仕事は
鬼人にはできないような丁寧さでおこなわれた。
また盗みを働く魔物がいないため
牧草地と畑を仕切る柵は不要で
生垣と門を手入れするための作業を省略できた。
しかし夏の終わりごろ、予期せぬ物資不足が起こり始めた
パラフィンオイルや釘、紐、フェンリル用のビスケット
蹄鉄用の鉄、どれも魔物農場では作れないものだった。
さらに種や人工肥料そして農機具、機械類も必要だったが
どうやって手に入れるのか想像することすらできなかった。
日曜日の朝、魔物たちが指示を受けるために集まると
フジワーラは新政策を決定したことを告げた。
「今後、魔物農場は近隣の農場と売買の契約を結ぶ。
もちろん商業的な目的のためではなく
必要不可欠な特定の物資を手に入れるためである
我等の農場運営に必要な事は何より優先されるのだ。
既に一山の干し草と今年収穫した小麦の
一部を売る手配を整えている。
さらに資金が必要な場合は
市場で卵を売って資金を作らなければならない
雌魔鳥はこの犠牲を特別な貢献として
喜んで受け入れなければならない。」
とフジワーラは言った。
再び魔物達は、その変化に関して漠然とした不安を感じた。
鬼人と取引してはならない
売買の契約を結んではならない
金銭を使ってはならない……
そういったことをオーガ農場主を追い出した後の
勝利集会で最初に決議したのではなかったか?
魔物たちは皆、そういった決議を憶えていたし
少なくとも自分たちは憶えていると思っていた。
フジワーラが会議を廃止した際に抗議した四頭の若いオークたちが
キンムー魔物主義による決議を継続すべきと声をあげたが
フェンリルたちが唸り声を出すとすぐに静かになった。
最後にフジワーラが再び語り掛け始める
「全ての交渉の責任を、この私が背負う事となった
過酷な負担を要する鬼人との交渉を
君たちの教養する気はない
既に取引に関しての手配は終えている。
キンムー魔物主義においては
交渉で利を得る事は明らかに好ましくないことだ
交渉で楽に色んな物が手に入るからと
交渉だけにウツツを抜かして農作業が疎かなっては
農場の維持運営が成立しなくなってしまう
農場で生きる魔物として、農場のために
農場での地道な作業に専念する事こそが
我等の生活の基盤であり素晴らしい事である
それを阻害するような事があっては、ならない
今回の交渉は農場運営に必要不可欠な物資を
手に入れるために仕方なく実施する交渉なのである
わかるな? 君たち
実際は我等だけで生きていきたいのだ
だが、少しばかり魔物農場外の魔物とも交流しないと
色んな不都合が発生してしまう、仕方ない事なのだ
そこを理解して欲しい。」
と告げた。
更に穏健派鬼人街に住む事務弁護士が魔物農場と
外の世界の間の仲介人として動くことに合意していて、
毎週月曜朝にフジワーラの指示を受けるために
農場を訪れることになっている事も伝えた。
フジワーラは演説の終わりに「魔物農場万歳!」と叫び
魔物たちは解散させられた。
フジワーラの演説後、ヒデヨッシーが農場を回って
状況の変化に不安を感じている魔物たちを安心させた。
「同志諸君、売買契約や金銭を使うという決定と
それを実行する事とした変化に対して
諸君が不安を感じている事は わかる
キンムー魔物主義で
”全ては我等が自分たちで決定し
自立して農場を運営し鬼人の奴隷には戻らない”
と語られていたが、鬼人との交渉を全て禁じて
自分達だけで全ての物資を調達するべき
というような決議はされていないし、
提案さえされていないのだ
過去にトージョーが語った陳腐な夢物語
自分の世界で作り上げた想像の産物な世界では
全ては魔物たちだけによって可能となる
と勝手に一人よがりに思い込んで
語られていた。だが、それは間違っていたのだ
現実に農場を運営する現在においては
奴の馬鹿げた夢物語は無責任に流布された虚言だ
鬼人が所有するものを交渉で手に入れる事も
時と場合においては魔物農場に必要なのだ。」
魔物たちの何頭かが返す。
「以前、語った魔物主義では
鬼人と同じ間違いをしては いけない
交渉や契約は その内の一つと言っていたのでは?」
などと、鬼人との交渉に疑問を感じていたが、
そんな魔物達にヒデヨッシーは鋭く言い返した。
「トージョーが語った馬鹿げた空想夢物語が
今、我等が自立して運営する魔物農場において
意味があるものだと思うのかね? キ ミ タ チ は?
最初の夢が現実になった時点で
夢であった時は気づかなかった現実に対処し
我々が所有し維持する事となった農場を
運営していかなくては いけないのだ
馬鹿げた夢想家でしか無かったトージョーによる
夢物語で語られたルールに従って行動していくだけで
農場運営が可能だとでも言うのかね?」
と尋ねた。当時の夢が現実となった時の事について
魔物主義は書き記されているわけではなかった
反対意見を言っていた魔物たちも、自分たちは
今、農場に必要な意見を言っていない事を自覚し
不安定な状況の不安からの混乱を招くだけな
昔話は間違っているということで落ち着いた。
・・・
一通り、シーンの読み合わせがされた後
座長がヒデヨッシー役の人に語り掛ける
「ここから、魔物の群れの中の集団意識内に
理想主義と現実主義が発生して
その2つの主義が葛藤を始めるってワケなんだけど
どうかな? ヒデヨッシーが現実主義者として
外にいるオーガと交渉しようとするシーンのセリフ
自分で口にしてみて、どう思った?」
ヒデヨッシー役の人が答える
『もっと、陰影を濃くじゃないけど
トージョーの理想主義を否定する事で
自分達の現実主義を肯定する
同じ農場にいる魔物に自分の正しさだけを語って
自分達は間違っていないんだと
自分に、周囲にいる魔物に言い聞かせるような存在
って感じに、するんですよね? このキャラ?
ちょっと淡々としすぎてませんか?』
「うん、そうだな、もっと極端な感じにする?
もっと ヒステリックに理想主義者を糾弾する
狂気じみた、ぶっとんでる感じでも、いいかもね
どう? できそう?」
『そうですね、では、そういう事で、もう1回』




