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魔物農場 シーン1 魔物長老の夢 

劇団で、次の公演でやるのは

「魔物農場」という劇になる事が決まり

第一幕の台本読み合わせ


1980年代はパロディ文化な事だし

昔の名作みたいな部分も入れたらしい台本


最初に座長がナレーションを入れる

舞台背景の説明だ


『ここは鬼人種であるオーガが支配層として

 他の魔物を家畜として飼いならしたオーガ王国


 そんな国で農場を経営する農場主が眠りについた夜

 農場で飼われている魔物達が集会を開く


 魔物の長老である繁殖用の雄オークである

 キンムーじいさんが長年、心に描いた夢について

 他の魔物たちに話したいという言葉に従い

 納屋へと農場にいる全魔物が集まり

 キンムーじいさんの演説が始まった』



「皆の者、よく集まってくれた


 我々の生は誰のためのものか?

 まずは、そこから話そう


 今、我々は鬼人のために生きている

 鬼人に食べられるため、鬼人の乗り物になるため

 鬼人が我等を飼いならしている用途によるが

 自分の望む事のための生涯では無い


 食べられるために生まれてきた食用魔物の一生は短い

 生まれると同時に体を肥え太らすための多くの餌を与えられ

 肉が食べられるくらいにまで育ったら生涯を終える


 乗り物を引く運送用魔物にしても生涯は過酷なものだ

 精根尽き果てるまで働ける体力のある限り働かされる

 死ぬまで鞭を打たれながら荷車などを引くだけの生涯だ

 そして働けなくなり鬼人にとって利用価値がなくなった時

 必要ない存在とされて唯一の所有物である命を奪われる


 オーガ王国において、家族との幸福な生活や

 働けなくなった老後の余暇を知る魔物は存在しない


 何故なら、働けなくなった魔物に餌を与える金を

 鬼人種は無駄銭だと考えているし

 全ての魔物は鬼人の所有物でしかないのだ


 この世界は我等のために作られている世界では無い

 鬼人が鬼人のために作り上げた世界だ


 永遠に鬼人種だけが幸福を手に入れるのが当たり前だと

 この世界の創造主は決めてしまったのだろうか?


 私は決して、そんな事は無いと思う


 オーガ王国の王族や貴族、保守支配層が

 自分たちは創造主のように

 全ての魔物の生き方を決めるのが当たり前だ

 と最初に言い出して実行し

 その支配体制を我が国に浸透させただけだ


 土壌は豊かで、その気候は穏やかで

 作られる作物で全ての魔物が

 収穫物を分け合えるにも関わらず

 その収穫物は全て鬼人種オーガが所有している


 なぜ、平等に分け与えられないのか?


 我々は、ある意志を持つべきなのだ

 その意志とは、一つの格言に要約できる……


  鬼人の常識は我々の非常識


 鬼人の作った常識を我々の心の中から消そう

 そして我々のための新しい常識を作り上げよう

 我々が幸せに生涯を過ごすための常識を

 そして、それを永遠に維持するために生きよう


 鬼人は確かに魔物の中で一番、巨大な体格をしていて強い

 その強さを背景に自分達の都合でだけ動いていきた魔物である


 彼らは全ての魔物を従属させるほどの戦闘力を所有し

 自分たちの都合にあう魔物だけに生きる事を許す


 農耕用魔物は、農耕作業の見返りに飢え死にしないだけの

 最低限の餌だけを鬼人から分け与えられるのが当たり前であり


 この農場にしても収穫物を所有するのは支配者である農場主だ

 我々は土地を耕し農場を維持しているが

 我々は、その命以外は何も所有していない


 更に自分の生き方を自分で決めることが出来ない

 全ては支配者であるオーガによって決められている

 生死から、何をするか、どう生きるかまで、全てだ


 我々の全ての不幸は、

 何も考えずに鬼人の決めた事に従い


 他に何も無いとあきらめている事が原因なのは

 明らかではないだろうか?


 この農場にしてみても農場主である鬼人さえ居なくなれば

 農場の労働生産物は我々のものとなる

 我々は収穫物の所有権を得て

 収穫物を我等全員で分け合う事ができるのだ


 今すぐにでも我々がすべきことは何か?

 全身全霊をかけて鬼人類を打倒する事ではないだろうか!


 もはや反乱を起こすしか

 我等が権利を獲得する方法は無いのだ!


 と言った私にしても・・・


 結局、私には反乱を起こす行動力も実行力も無かった


 反乱に成功する魔物が我々の中から出現するのが

 いつになるのかは私には、わからない


 オーガ支配から脱するのは、一週間以内か、百年以内か


 しかし私には月夜の星々が見えるのと同じくらいに

 確実に見えている事がある


 いつの日か、魔物内格差や不平等は是正され

 全ての魔物は平等に生涯を生き

 自分の生き方を自分で決められるようになる


 この未来への希望を示すのが

 私が生涯をかけて心に作り上げた言葉で

 君たちにも心に抱えて欲しい言葉である


 今日、君たちに語った言葉が

 君達の子孫の心に残る限り

 私が生きた証とも言えるだろう

 この私の魂から発せられた言霊を

 君たちの魂に、後に続く者の魂にも刻み込んで欲しい


 そう考えるのは自分勝手な思い込みで

 そんな事を考える事すら意味が無い

 鬼人に従うだけで生涯を終えるのが我等の運命


 そう感じてしまう魔物もいるだろう

 そんな従属と忍従だけの運命に

 従わざるを得ないのが我等の現状だ


 だが、その運命を変えていくためにも

 オーガの支配から脱したいという意識は

 無くしては成らないと想う


 私の生涯は、もうじき終わるだろう


 だが、私が死んだ後を生きる世代は

 この現状を打破する闘争に勝利してほしい


 今日、私の言葉を聞いてくれた農場に生きる諸君

 できれば、その生涯が終わるまで憶えていて欲しい


 君たちが生きていく中で生じる権利も色々と数あれど

 支配層であるオーガに

 全ての権利を収奪されるべきでは無いことを


 もし権利を取り返そうと声をあげれば反論を奴等は語るだろう

 今、現在、全ての権利を所有するのは奴等なのだから


 だが、どのような反論も

 奴等が勝手に決めた都合が生み出したもので

 我等の都合を考えているものではない

 奴等は自分たちの都合でしか君たちに何かを語らないのだ


  鬼人であるオーガと魔物は共通の利益を持っている

  片方の繁栄はもう一方の繁栄である、共存するために必要な事だ


  だが、君たちに権利保全をする能力は無い

  たとえばオーガ農場主の指示無しに農場で収穫物は得られない

  だから、農場にいる魔物は農場主オーガに従うべきなのだ


 などと言って言いくるめ権利を放棄させようとしても耳を貸すな

 それは嘘だ、鬼人が鬼人以外の魔物との共存をすることはない

 奉仕させ従属させる事は、あっても

 今、現在において共存をしてはいない


 同じ農場で生きる魔物同志で

 オーガの支配から脱するために同胞意識を育もうではないか


 奴等が我等にかけた呪縛から解き放たれるために


 全ての鬼人は敵だ。それ以外の全魔物は同志だ


 我等が本来は持つべき権利を、

 尊厳を取り戻すために立ち上がろう


 我等自身の努力によって、強い意志によって

 我等の輝かしい未来を手に入れようではないか


 我等の子々孫々に至る一族のためにも」


結構に長い革命先導者な長老の演説セリフを

威厳とか格式とかを持つ感じで朗読する

劇団に一番、古くからいるベテラン舞台役者さん


 恐怖政治に苦しむ民衆よ革命を起こして

 保守支配層として君臨する王を貴族を打倒しよう


と呼びかけた中世の革命家名言を寄せ集めたようなセリフ


そして再び座長によるナレーション


『演説から三日後、キンムーじいさんは眠るように息を引き取った

 遺体は果樹園の木の下に埋葬された。』


あー、第一幕の長セリフ演説シーンが

ベテランさんの最初で最後の出番なんだ。


 この冒頭の掴みシーンだけに絞って

 全身全霊で客の心を掴んでくださいね


って事になったんだな、何故か知らんけど


自分とかは魔物長老の演説を聞きに集まった魔物の中にいる

農作業用の魔物A役なので、ヌイグルミを着るのと同じような

出オチキャラな恰好をして座って演説に感動するだけと

ト書きで書いてありセリフは無い


楽と言えば、楽だけど、なんか物足りない

前へ前へ出たい自己顕示欲の強い人が集まっているから

自分がセリフを多く言いたいって人が多いので

その空気感で自分も何かセリフを言いたいって欲はある一方


 こーんなセリフを覚えて情感込めて語るとか無理だな

 凄いな、これを頭に叩き込んで客前で言うんだ


と、ベテランさんが当たり前に出来ている事を

今、自分は出来ない事を自覚する中


ベテランさんが台本を書いた人の方を向き言う

朗読しているシーンについてだ


「このシーン、だらだらと演説が続くのって

 どうなんだろうね?


 たるんだ感じにならない? というか疲れない?


 この長老に意見を挟む存在がいて

 それを説き伏せるような感じでもいいんじゃないの?」



『いやー、自分の死期を悟った長老が

 覚悟を決めて語る演説シーンだよ?


 いくらなんでも、それを聞かないで

 口を挟むような存在がいるのって

 ちょっと違うんじゃないかな


 まだ年功序列とかいう感覚が残る

 昭和時代に、おいてはさ』



「でもだな


 最近の映画とかストーリーとかに

 あまり意味を持たせないだろ?


 流行歌とかも歌詞に意味とか無いだろ?


 なんとなくキャッチフレーズみたいに

 繰り返すリフレインと曲調の感覚が全て


 深みのあるセリフを多用する

 大正時代の大衆演劇みたいなのって

 今時、はやんねーよ。みたいな?


 こういう説教くさい演説じゃなくて


 長老と若手が、ひょうきん漫才みたいな

 掛け合い議論シーンにしても

 いいんじゃないかな?」



『いや、喜劇じゃねーし


 それにだな


 ファースト・ショールーム・ダミー


 だかって手法だっけ?


 最初のシーンだけに出てきて劇の第一印象を決めて

 二度と出番の無い役ってパターンのキャラクターは、

 1キャラが定番? だろーよ』



「その手法の名前って・・・・


 ファースト・インプレッション・トリックスター


 の間違いなんじゃないの?


 ショールーム・ダミー じゃ


 クラフトワークの曲名だよ」


ベテランさんが、その後に何かを言いかけるが

座長が、その言葉を遮るように言う


『さーあ、次のシーン2、いってみよー!』


たぶん、わかる人にしか、わからん

演劇論を語られるのが嫌だったのだろう。


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