第7話 なぜ私たちは勝てたのだろう
私たちは、1部リーグで優勝することなど、金輪際まったく考えていなかった。
2部リーグ復帰を果たすことだけが目標であった。
1部リーグ優勝という結果は、転がり落ちてきた果実を偶然手に入れただけのことであった。
私が優勝チームの一員でいられた理由は、
イワシの群れの中で、なんら努力することなく、ぬるま湯に浸かっていた自分に気づいたからだった。
そして、弱い心のBに負けずに立ち向かう「勇気を持てた」ことにあると思う。
その背景には、昨年の3部リーグ転落という屈辱があった。
そして、別競技ではあったが、高校インターハイで味わった惨めな結果を、また繰り返していることに目が覚めたのだ。
後から考えると、それらの経験があったからこそ、自分を変えることができたのだと思う。
私たちが万年2部リーグ校であった最大の理由は、
「勝つための練習」ではなく「練習のための練習」を繰り返していたことにあった。
漫然と基本練習に明け暮れて、時間になれば浜に帰るという行為を繰り返していたに過ぎなかった。
それでも、私たちはしっかり練習している「つもり」であった。
艇を操る技術は、少しは磨かれたかもしれないが、勝つための核心に目を向けることがなかった。
レースのスタートでは、イワシの群れの中に漫然と紛れていた。
上位フィニッシュを狙うという気概はあった。
何とかなると思っていた。
しかし、所詮それは根拠のない楽観に過ぎなかった。
そういった意識の源には、内心のAとBがあった。
Aは、目先の利益に負けず、正しい道を選ぶ強い心。
Bは、目先の利益に負けて、常に現実から逃避する弱い心。
もしBに従うと、Aは煙のように消え去る。
Aに従っても、Bは執念深く取り入る隙を虎視眈々と狙っている。
私たちは毎日、分かれ道で左右いずれかの選択を迫られる。
右には、Aが待っている、
左には、Bが待っている。
弱い心は、Bの道を選択する。
毎日繰り返していると、常にBを選択する習慣が身についてしまう。
Bは、毎日自分の足元を小さなスコップで掘り返している。
20年もすると、穴は自分の背丈より深く掘られることになる。
そうなると、もう穴から這い上がることさえ出来なくなる。
「私は、頑張ってきた」
「私は、会社のために頑張ってきた」
いくら叫んでも、Bの遠吠えなど誰の耳にも虚しく響くだけだ。
私たちは、誰もB (悪魔の囁き) から逃げることはできない。
だからこそ、自分の下した選択がAなのかBなのかを、普段から意識しながら行動したい。
そうすれば、穴は出られないほど深くはならないだろう。




