第5話 新人戦 フィニッシュ
私たちの水域では、オリンピックコースで競技が行われる。
直径2.0km前後の円周に「風上」「左サイド」「風下」のマークボートが配置される。
スタート地点は、その中心に設定される。
スタート→上→フリ→下→上→下と周回し、スタート地点と同じ位置でフィニッシュする。
競技時間は、60分前後となる。
最後の風上マークをトップで回航(奇跡的!)すると、難敵が追い付いてきた。
某国立大学チームのTだ。
同じ浜に艇庫を持つクラブ同士でも、皆ライバル関係にある。
普段は、他校との交わりも少なく、それぞれが自分たちの世界で過ごしている。
レース中に時折顔を合わせるTが、何を考えているのかは皆目わからない。
何だか陰険な印象だ。
ただ、この連中はたしかに頭がよい。
いつまでも練習海面にしがみついている、根性優先の某大学とは違い、短時間でさっさと練習を終える。
それでいて強い。もちろん1部リーグ校。
クソクラエ!
いろいろと仕掛けてくるが、なんとか躱して風下マークを回航し、フィニッシュラインに向かう。
当然、また仕掛けてくる。
それにしても、なんで艇速があがらないんだ?
イライラ焦るが我慢のしどころ。
最後まで有利位置をキープし、相手を抑え込んでトップでフィニッシュした。
初めて聞いたトップホーン。
勝ったな。。。
何だか、勝利の方程式が見えた気がした。
浜に帰ると、下級生達が艇を受け止めるため出迎えてくれる。
中の1人が、私のクルーに「どうだった?」と聞いた。
クルーは偉そうに「トップや」と答えた。
部員の目がまん丸になった。
人は驚くと、あんなに目が大きくなるんだと妙に感心した。
<参考>
・フィニッシュ:
セーリング競技規則では、ゴールではなくフィニッシュと定義される。
→ 選手たちは、短くゴールと呼ぶことも多い。
トップホーンを聞くことは、選手にとって名誉で、何より嬉しい瞬間である。
<用語>
・トップホーン:1位の艇がフィニッシュした時に鳴らされるホーン
・ラストホーン:最下位がフィニッシュした時のホーン




